操り人形たち
_____少し前 魔王城地下牢にて
松明代わりにした剣は、私たちの状況を映し出す。
「…牢獄?」
そこは、壁と鉄格子で囲われた、牢獄だった。外を見るに、あと複数個はありそうだが、人の気配はしなかった。鉄格子の外に鍵のようなものは見当たらない。
「カルラ、この鉄格子、切れる?」
横にいた彼女、カルラ・アーサーは、その燃え盛る剣を振るう。すると、目の前にあった鉄格子が音を立てて崩れだした。空いた穴から脱出することができそうだ。
「ったく、この罠仕掛けたやつも間抜けよね。武器も取り上げないなんて。いったい何を考えているのかしら?ねえ優火?」
彼女の言った言葉に、私、木口優火も同意する。あの転送用の罠に不具合があったのか、それとも何か別の理由があるのか。だが、これは好都合だ。おかげで敵の懐に簡単に潜り込めた。
「そうね。でも気を付けたほうが_____」
結論から言うと、別の意図があった。カルラの刃が、自分に振るわれる。とっさに背後に飛び、それが自分にあたることはなかった。だがここで、ある重大な見落としに気が付く。
____ポケットのナイフが一本もない。
重量が変わっていなかったため、あるものとしてみていたナイフがない。三十本ほどあったそれをどうやって?まさかあのトラップか?だが考えている暇はない。
カルラの額には、先ほどまではなかった魔方陣が刻まれている。いわゆる、洗脳型の魔法だ。おそらく、こっちに送られた直後に刻まれたものだろう。もう少しで完全に刻まれてしまう。
「どういうこと?体が、勝手、に」
「カルラ!魔力の使用をやめろ!魔力の供給が止まれば魔方陣は起動しない!意識があるうちに、早く!」
だが、その時にはもう遅かった。
魔方陣と目の色が変わる。洗脳が完全に終わった。こうなっては本人の意思ではどうにもならない。操られた彼女の剣は、私に向けて放たれる。
…と思っていた。実際は、背を向けて反対方向に駆け出した。一瞬遅れて私も追う。
追っている最中に気が付いたことなのだが、どうやら割と深くまで送り込まれていたらしい。三階分ほど階段を上がり、ようやく外の部屋に出た。
地下の世界から出る瞬間、見えていなかった出口の左右から斬撃が放たれる。
私は前に転がるような形でそれを回避し、周囲に注意を向ける。
_____囲まれている⁉
その場所は、侵入者を許す気はない。
_____魔王城第一メインホール、魔王の間にて
「おやおや、あれを避けるとは。どうやら今回はただ迷い込んだやつとは違うようだ」
囲まれた敵の、はるか後方。そこにいた魔族が、私に声をかけてくる。
「何者だ?お前、ウィッシュ国王ではないよな?」
彼のどす黒い瞳が私を映す。
「いかにも。私はあんなアホな国王ではない。我が名はアトラー。元魔王軍幹部さ。こちらから名乗ったんだ。貴様も名前くらい名乗ったらどうだ?」
「…木口優火。君、目的は何?」
「ほう、木口といったか。私にそれを答える義務はない。だが、この国の門を叩き、危害を加えようとしたものに制裁を与えて何が悪い?」
「国王でもないのに何を言う。それに、随分とでかい軍勢だな。すべて操り人形みたいだけど」
「そうだろう。これが私に危害を加えようとしたものの末路だ。貴様もそうなるはずだったのだがな…」
彼は私に指をさす。その指先の爪は長く鋭く、使い勝手が悪そうだった。
「貴様ァ、固有魔法持ちだなッ。だが貴様からは、大した魔力を感じない。どんな能力かはわからんが、この私の敵ではないだろう」
「はっ。黙っていればなめやがって。守られてるだけの後衛なんざ怖くないね」
「だが貴様は素手だろう。武器も何もない。それでどうやって戦おうというんだ。ナイフはすべて奪った。本数的に、投げて遠隔攻撃でもするつもりだったのだろう。それがなくてどう戦う」
「分からないのか?お前なんか素手だけで十分だって言ってんだ!」
「…なんだと?」
彼の魔力が起動する。それと同時、私を囲む敵が動き出す。彼の眼は、ひどく冷酷だった。
「我が傀儡たちよ、指示を与える。こいつを殺せ」
ため息がこぼれる。
「…やってやるよ。」
自身の魔力を奮い立たせ、戦闘態勢に移る。
「永遠を刻む針_起動!」
この程度で勝てると思ったら大間違いだ。幹部だろうが知ったことか。




