ありったけ
____数刻前、魔王城エントランスにて
「もうわかったろう?お前じゃ俺を倒せない。いくら攻撃を当てようが、殺せなきゃ意味がない。お前じゃ俺の命には届かない」
彼に十回ほど致命傷を与えた後、奴はなぜか勝ち誇ったような面をしていた。
「どうだか。死にまくったせいで脳が動いてないんじゃないかしら?」
「はっ、いいね。お前らしい。とても楽観的な考えだn」
面倒なので、まずは奴の減らず口をふさぐため、喉に一突き。突いた槍がつかまれるも、角度を変え地面に突き刺す。抜こうと抵抗するが、抵抗する間もなく、地面に描かれた魔法陣が彼を拘束する。
「…話くらい最後まで聞いたらどうだ、お嬢様?」
「あなたと話すことなど、一つくらいしかないもの。関係ない話は意味がないわ」
拘束した彼の前で、私は彼に質問をする。
「あなたはなぜ、私の親友を殺したの?」
ずっと気になっていた。ずっと知りたかった。あの時の事件の真相を。
彼の表情が変わる。そこには余裕さも軽薄さもなく、あるのは呆れとわずかな怒りだけだった。
「…彼女が憎かった。それ以上の理由はない」
「は?」
それだけで?
そんな理由で?
ざわついて落ち着かない頭の中を急いで整理する。だが、出てくる言葉は一つしかなかった。
「…どうして、どうしてそれだけで、彼女を殺したのよ!」
「どうして?お前は平民上がりのクソガキが自分より上にいて耐えられるのか?平民にすら劣るというレッテルを張り付けられて生きていけるのか?そんな貴族に、価値なんかあると思うのかよ!」
「そんな程度で人としての価値が落ちるわけがないでしょう!それに、平民だの貴族だのの身分制度はとっくの昔に消えたはずでしょう?そんなものにとらわれる必要なんてもうない!あなたらしく生きればよかったじゃない!」
「うるさい!それは今の社会がおかしいだけだ!貴族でない俺に、何の価値もない!」
かすれた声で続ける。
「…もう、引き返す訳には行かないんだよ」
その声は小さく、私の耳には届かなかった。
「…これ以上は無駄ね。一生そこに捕らわれているといいわ」
冷めた。思いつめていたからと言って、大した理由がない人もいるらしい。彼にとっては重要なことなのだろうが、周りから見れば、心底、どうでもいい。時間の無駄だ。
そう思い、目標を果たすため、先へ進もうとした瞬間、彼の魔力の雰囲気が変わる。
「…もう、終わってもいい」
辺りの魔力が、彼に吸い寄せられる。
「だから、ありったけを…!」
音を立てて鎖が千切れ、消失する。捕らわれていたはずのその肉体は、人ではない何かへと変貌していく。
「グギャァァァァァァァァァ!」
化け物となった肉体の、咆哮が響く。その両腕は剣と一体化し、禍々しい魔力をこぼす。
さっきまで話していたはずの口はなく、顔は有り余る魔力で燃え盛っていた。
私はとっさに振り返る。
_____こいつ、どこにこんな魔力が!?
いや、今考えるべきはそこじゃない。だが、次に思考を巡らせる前に、彼の刃が眼前に迫る。
回避を試みるが、速度ゆえにわずかに頬をかすめる。障壁の展開は間に合わなかった。
速い。さっきまで戦っていたやつとはわけが違う。おそらく攻撃力も比にならないだろう。
次の攻撃が来る。双方から向かう刃を、今度は正面から叩き割ってやろうと試みるのだが、その槍が腕を突き抜けることはなかった。
その槍は、彼の右腕に刺さったまま静止していた。空いた左腕が、私の命を刈り取ろうとするが、障壁に阻まれ静止する。その直後、私は槍の先端に魔方陣を生成し、魔法を発生させる。
放たれた魔法により、彼の腕を爆発させる。辛うじて離れることはできたものの、彼の腕は傷一つない。
______効いていない?いや、魔力で直したのだろう。だとしても、早すぎるような気はするが。
もうこうなっては仕方がない。出し惜しみなどできない。本当は使いたくなかったが、やるしかない。
槍を地面に突き刺し、魔方陣を展開する。
「制限開放_出力最大」
奴は待たずに刃を向ける。だがその刃は届かない。障壁によって阻まれたためだ。
そしてその次の瞬間、真下から放たれた光線により体を焼かれる。だがこの程度では、時間稼ぎにしかならない。
一瞬で焼けただれた肌は元に戻り、攻撃を行う。だがその攻撃は、障壁にすら当たらなかった。
彼の攻撃が悪かったわけではない。確かに私がそこにいたのは事実だ。
だけどそれは、数秒前の話。この程度の生物ならば、すぐ幻に引っかかる。
その位置に置いておいた魔方陣を起動し、彼を一時的に魔力の鎖で拘束する。どんなに長くても、十秒ほどしか拘束は行えないだろう。だがこの戦いの決着を付けるには、十分すぎる一手だった。彼に槍を突き刺し、詠唱を開始する。
「わが魂よ、今、一つの形となって、汝の運命を断ち切らん」
これは、私のとっておき。
「奥義_運命の制裁」
魔方陣から、一気に光があふれ出る。次の瞬間、轟音とともに、彼を雷撃が包む。そしてその直後、立ち上る光の光線が、奴を跡形もなく消し去った。そこに残ったのは、一つの魂と、一本の槍だけだった。




