外道死神と大罪人の魂
死神を倒し、尋問をするため拘束した直後、意外にも頑丈なのかその死神の意識が戻っていた。
「あら、目が覚めましたか。気分はどうです?」
「…最悪の気分だ」
そう言い彼女は立ち上がろうとするが、私の魔方陣により拘束されていて立ち上がることはできない。
「…なんだ?これ?」
「ちょっとした捕縛魔法ですよ。しばらくは動けません」
私は念のため彼女の首筋に刀を当て、問いかける。
「何が目的です?死神さん?返答次第では、あなたの首が宙に舞うことになるでしょう。正直に答えてください。拒否権と黙秘権はありませんよ?」
その死神は、意外にもすぐに返答した。
「…魂の回収だ」
魂の回収。それは、多くの死神がこなしているであろう仕事の一つだ。その仕事を妨害してしまったのは、少し申し訳ない気もするが、喧嘩を売ってきたのは向こうなのだから、別に気にする必要もないかと思い至る。
「なるほど。で、それ、どんな魂なんですか?最近死神の量が増えているような気がしましたが、それになにか関係が?」
「…ああ、そうだな。一つずつ話していこう。まず、どんな魂かについてだが、それはお前らも知っているあの殺人鬼、ジャックの魂だ。何者かによって盗まれて、詳細がわからなくなっていたところ、上司から情報が入り、横領のことを不問にするかわ…りではなく、私に対しての追加ノルマ、いわゆる仕事の押しつけを行われたんだ」
「ああ、だからあいつがこの地に復活していたんですね」
「ああ。死神の量が増えていることに関しては、ある事件が起こってな。ある魔族が死神になりすまし、封印されていた魔神の魂を含む、6つの魂が盗まれたんだ。しかもそれらは、過去に何かしらの大罪を犯し、地獄での審判待ちだったものだったんだ。話が長くなるので地獄での審判についての説明は省くが、まあ、輪廻転生のためにする魂の浄化活動とでも思ってくれていい。そしてそれに伴いまだ自我の残っている1000以上の魂が勝手に逃げ出し、今私達はその捜索に追われているってわけだ」
「なるほど。そういうことでしたか」
だがここで一つ、腑に落ちないことがあった。
「…だったら、どうして私がトキを逃がしたあの時、魔王城に入らなかったんですか?」
するとそこで、実にシンプルな回答が帰ってきた。
「ああ、簡単さ。お前に勝ちたかったからだ。負けっぱなしは気に食わねぇ。でもこれでわかったよ。私じゃまだまだあんたにも、社長にも敵わない」
「…バカ?」
私は思わずそんな感想が出た。数分間何の考えもなしに突っ立っていたと考えると、なんだか少し面白い。勝ち負けの見えている戦いに挑むのは、馬鹿だとは思うが。
「いいさバカでも。私はこれから強くなってやる。いつか社長を超られるように」
彼女の瞳を見ると、そこには、バカでも、間違っていてでも、とても真っ直ぐで、純粋な感情が見えているような気がした。
「…なるほど、そういう事情ですか…」
私は少しだけ考え、刀を鞘にしまい、彼女を拘束している魔方陣に手をかざす。
「解除」
魔力を流し、彼女の拘束を解く。敵ではないと分かった以上、拘束したままというのは少しまずい。少しいたずらしてやろうかとも思ったが、一応緊急事態だ。私情は控えるべきだ。
「協力しましょう、死神さん」
「あ?なんであんたと協力しなきゃならない?全くもって意味が分からんが?」
「そうですね、少し説明をしましょう。私が、いえ、私たちがここに来た理由は、あるものを回収するためです。そのためには魔王城に入らなければいけないのですが、エントランスホールにはジャックがいるせいでこの先に進めません。そこで」
私は目の前の死神を指さして言った。
「偶然にもあいつの魂を回収しようという死神にそのめn…迷惑でなければ協力してほしいのです」
危うく本音が漏れかけたが、まあ要するに目的が一部一致しているから協力してくれよということである。
「分かった。協力してやる。つっても、敗者に決定権はないような気がす_____」
「セル?こんなところで何しているんだい?」
彼女の表情が途端に色を失う。まるで学校の課題を忘れたときのような、日常である小さな絶望を真に受けた時の表情だった。
その彼女の肩には、背後に現れた男の手があった。
「…お、お疲れ様です、ラン先輩。これには深いわけがあって」
「深いわけねぇ?この人間に惨敗しておいてよく言う。君の様子を見に来いって社長が言ってたから見に来てみれば、関係ない人間を巻き込むなんて、死神としてどうなの?」
「おっしゃる通りです」
私は彼女の豹変っぷりに驚きながら、背後にいる男を見る。すらりとしており身長は高く、長めの白髪は背後でうまくまとめられている。顔をよく見ると、目元のあたりに少し傷がある。手首にはバンドがつけられているが、そこに何が書かれているかはわからなかった。
「…美咲さん、終わりましたか?」
彼らの様子を見ていたら、背後から突然声を掛けられる。
「トキ?何でここに?」
「この私が連れてきてやったのさ。一人は危険だからね」
目の前の男がそう話す。
「おっと、名乗るのが遅れたね。私はZEN魂商社魂回収部副部長、ランだ。よろしく頼むよ、風間美咲さん?」
「なんで私の名前を?」
「彼女から聞いたのさ。事情も知ってる。ジャックを倒すんだろう?協力してあげるよ」
「…ずいぶん話が早いですね。何が目的です?」
おかしい。確かに彼女に名前は伝えたが、私たちの目的までは話していない。ジャックを倒すことは目的ではない。
「…疑り深いのはいいことだ。だけど、私に大した意図があるわけじゃあない。今後も君と仲良くしたいと思っているだけさ。」
仕方ない。こちらには時間がない。受けざるを得ないだろう。
「…仕方ないですね。協力してあげましょう」
「いいね。じゃあ、大罪人を裁きに行こうか」
そう言い、私たちは魔王城へと向かった。
・死神は、腕や足ぐらいなら簡単に治ります。本人の魔力量次第では、自動的に治癒される、なんてこともあります。ただしそんな事ができるのは、ニアのような、相当上澄みの死神だけです。
・セルはもともと不良でした。死神のなかでも社会は存在します。社長であるニアに負けるも、その戦い方にセンスを感じたニアの手によって入社させられます。それから彼女は、ニアに勝つことを目標とし、日々強くなろうと頑張っています。
・ニアは頭が悪いため、書類仕事などは一切できません。文字は読めますが、書けません。




