ハンデマッチ
「勝たせてもらうぜ、メイドさん?」
私は今、非常に厄介な状況に置かれている。
終わると思っていた戦いが長引き、おまけに刀も飛ばされた。取りに行くという手もあるが、やつはその隙を与えないだろう。あの実力でも、その程度はできる。
ならどうするか?簡単だ。いいじゃないか。武器なんかなくても。己の体と魔力のみ、まだ奥の手は残っている。それに、このくらいのハンデがなきゃ、互角に戦うことすら、いや、戦いにすらならないだろう。そのくらい、彼女との実力の差は歴然としている。
戦力の差というものを、わからせてやろうか。
「…ふふふっ」
「あ?何笑ってやがる?」
ちょっとしたサービスだ。久しぶりに、あの技を見せてやろうではないか。
「いやあ、この程度で私に勝てると思ってるあなたが少し面白くて、笑ってしまいました」
私はその場に片膝をつき、魔法陣を展開する。
「制限開放_魔力装填」
当然その間も、相手は待ってくれない。私に向けてまっすぐ鎖が飛んでくる。
だがその攻撃は、私の数歩先で止まった。制限開放によって溢れ出した魔力の渦により、生半可な攻撃が通ることはない。そのまま私は、魔法の詠唱を始める。
「風よ、我が魂に呼応し、その力を我に刻め」
あたりに吹く風が、より一層強くなる。
「秘技_ヴァイオレット・ストーム」
詠唱が終わった直後、余波によって眼の前にいる死神は吹き飛ばされた。さらに私の目は紅く染まり、背中からは、魔力によって生成された翼のような物体が浮かんでいる。
私は、地面を蹴り、飛びながらまっすぐその死神へと向かった。
「…何なんだよ、お前は」
技の余波によって吹き飛ばされた彼女は、翼の生え、目の色が変わった私を見て、そう問いかけた。
その答え?そんなの、簡単だ。
「通りすがりのメイドですよ。それ以上の答えは持ち合わせていません」
私はやつに向け、一歩、二歩と、その靴を鳴らしながら歩く。
「やりましょうか。」
それに対する回答は、私への攻撃という形で答えられた。彼女は背後にステップし、鎖を投げる。それに対し私は、ただ動かず、その攻撃を待つ。
もちろん戦略的に意味はない。だがこれは、相手をわからせるための戦いだ。避けてしまっては、攻撃が通ると伝えているようなもの。それをしては意味がない。
結果的にその攻撃は、私に当たることはなかった。
私から発せられる魔力によって、軌道を変えたからだ。
私は、その死神に向かって一直線に飛んだ。その間に鎖が左右から飛んでくるも、魔力によって弾かれる。
そして彼女の間合いに潜り込み、全力で顎にアッパーを決めた。彼女は大きく吹っ飛び、手に持っていた2つの鎌を取り落とした。
「その諦めない姿勢、悪くなかったですよ」
私も魔法陣を解きながら、気絶しているその死神に語りかけた。
・ヴァイオレットストームの制作者はこのメイドが仕えるお嬢様です。また、このメイドはお嬢様に色々教わってたりもします。言ってしまえば師匠とか恩人とかに近い存在です。
・ヴァイオレットストームによって彼女の姿が変わったのには、彼女の持っている生得魔法(生来魂に刻まれている魔法)が関係しています。ただし、彼女自身はそれに気がついていません。理由はいつか明かします。(逃亡しなければ)




