予知夢〜株式投資と彼女と最後の晩餐を〜
日経平均株価が史上最高値、バブル経済時の3万8910円を突破し、最高値を突破しました!
速報です。本日大引けの日経平均株価がバブル高値を超え、日経平均株価4万300円。
暴騰が止まりません!
NHKのお昼のニュースでも、スマホのYahooニュースからも株価最高値更新の知らせー。
僕は、スターバックスの窓際の席で足を組み、PCを開きながら、ランチのパンを食べ終え、無糖のコーヒーを飲み干した。
今日は僕にとって1年で一番大事な日なんだ…。
日経平均株価が過去最高値?今の僕にはあまり目新しいニュースでもない。
会計をスマホで済まし、スターバックスを後にする。
病院に向かう前に、僕は毎年立ち寄る花屋で、向日葵を買う。
この暑い夏の日、向日葵が一番輝いて見えているし、これが彼女には似合うからー。
僕の名前は佐藤ワタル。
30歳、独身。
職業は投資家。
病院に着き、受付に視線を移すと、10年前の記憶が蘇るー。
彼女が元気だったその時に…。
「はい、本日もどうも」
と、足早に壇上を後にする教授。
僕はそんな教授のつまらない講義なんてこれっぽっちも聞いていない。
「おい、またアイツ、株でイライラしてんぞ?今日はいくら負けたんだ?」
知らない奴まで僕のことを指刺してくるようになっていた。
そう、僕は大学生だが、投資家でもある。
先日の大損が尾を引き、大学の講義はもう聞くのは辞めていた。
「ワタル、最近大丈夫か?講義聞いてないの、あの教授だと単位くれなくなるぞ?」
心配をしてきたのは、唯一自分の株の話に付き合ってくれる友人の高橋。
「いや、別に構わないよ。今日は大事な局面だったんだ。」
「こないだの投資オフ会はどうだったんだよ?何かいいことなかったの?」
「いや、ないよ。」
僕は嘘を付いた。
僕は投資家になると決め込んでいるが、最近では実は焦ってもいる。周りは就職活動をし始め、僕は大損をしてから再起が出来ていない、投資7連敗…。
Xに師匠と勝手に決め込んでいる人が僕にはいて、実は大方、この人からの大局観で投資判断を仰いでいる。
しかし、僕はこの人を頼り過ぎて、先日、ナスダックのショートポジションを大きく張り、400万円の損切りを余儀なくした。
度重なるナンピンというやつだ。
粘れど粘れども上がっていったナスダックに最早太刀打ちは出来なかった。
「Xの師匠には会えたのか?」
痛いところを聞いてくる高橋。
「いや、来てなかった。」
「じゃあ、お前、何で行ったんだよ、会いたいから行くって言ってたじゃん?」
「まぁだから、いいことはなかったよ。」
再び僕は嘘を付く、いづれバレる嘘を…。
高橋に何か言うと、すぐ学科に噂が広まるんだ。
僕は自分のPCとスマホをリュックにしまい、逃げるようにして教室を出た。
高橋が聞いてくるのは3日前に僕が参加したXの大規模投資オフ会のことだ。
夜でも光り光りしている、僕には相性の悪い場所だった。
先日の大損後ともあり、1人でビールやらハイボールやらをグビグビ飲んでいた。
プールのある方で、投資家のビンゴ大会が行われていた。
イナゴ達が奥の方に視線を揃えて、盛り上がっていた。
僕も足がフラフラとしながらも一等くらい何だろとプール際に詰め寄った。
「きゃーっ!」
ザブーーンっ!!
突如、女の子がプールに落ちた。
彼女の周りにいた数人も振り返る。
「大丈夫?」と言おうとした瞬間、僕の出した前足もフラつき、水に足を取られた。
しまった、僕も落ちる!
ズドーーーン!!!
「大丈夫?」笑
その女の子が僕に声を掛けてきた。
「ごめん。ちょっと助けようと思ったんだけど…」
僕は目の前の女の子よりもプール内に視線をやる目に、恥ずかしい思いに駆られた。
「お前ら、大丈夫?相当酔ってるな?」
ビンゴ大会後方にいるプールサイドのじいちゃんが声をかけてくるが、僕は無視。
「待ってて」
プールを上がり、僕は彼女に手を伸ばした。
「ありがとう」
「これ、タオル。はい。」
「ありがとう」
僕は痛い視線に照れながら、もう帰ろうと思った。
家に着くと、あの女の子、可愛かったなー、くそ、連絡先くらい交換出来たのに…
と悔しがりながら、寝てしまった。
翌朝の月曜日。
ピンポーン!!
玄関のチャイムが鳴る。
オフ会で飲み過ぎて頭が痛い。。
耳障りな、滅多に鳴らないチャイムが頭に響く。
「誰?」
と玄関のドアを開けてみると、知らない女の子が2人。
「誰…?」
と再び僕。
「誰じゃないでしょ?同じ大学の同じ学科の者です!」
知らない女の子が朝からいきなり怒っている。
「えっ?すいません。わからなかった。何の様ですか?」
萎縮する僕。
すると、その子は指を左に向ける。
「あ、昨日の?あれ?プールに落ちた子?」
びっくりした。
「ごめんなさい、朝から。学校来ないかもって。だからタオル返しにきた。」
そういって僕にタオルをフワッと渡す。
タオル、これ、一日でこんなに綺麗に。。
「お前、いくら学校来ないからってそれで玄関開けるなよ。単位落としてももう知らないからね!」
再び怒ってる女の子。
それで玄関?
うわぁわ、パンツだけだった…。
「ごめん!」
「着替えて学校来い、一緒に行ってあげるから!」
こんな子もいたのか?おれは学校で相当嫌われているのか?わからないが、今は言うことを聞こう。
「ごめん、あ、今何時?」
「今、8時半。今日は3人とも同じ講義だから10時からだよね?」
プールに落ちた子も同じ学科にいるのかと神様のいたずらに感謝をした。
「いや、急ごう。僕は9時からだから。」
「いや、どうせ株だろ?待てよ、ゆっくり話があるんだって。」
怒ってた女の子が僕の走る動作を止めた。
「話?、あ、てかどうしてウチの住所を?」
僕は株のことが本当にみんなに拡散されているのを感じた。
「高橋から聞いた。」
高橋!!
「話って?昨日のこと?それなら別にもう…」
僕の話を遮るように怒ってた女の子が
「話は私が。」
プールに落ちた女の子が、前に出てきた。
「はい…」
僕たちは講義までには時間があったので、学校近くのスタバへ。
「私は柊、柊アカネ、何年一緒にいると思ってんの?ほんとに名前も知らないなんて」
「いや、ごめん、株しか興味なくて、そのごめん…」
ここは正直に。が、可愛い子の名前くらいはわかるのだけども…苦笑
「私は今石。今石 キョウコ。こないだ、君の学科に転科したの。」
コーヒーを飲むアカネ。アカネはスマホを見始めた。
「昨日はその、助けれなくてごめん。その僕は酔っ払ってて…」
最低だ、最低。酒のせいにした。ヤケ酒の。
「私こそ、ごめんなさい。私が巻き込んじゃって。どうしても見て欲しくて…」
「見て欲しくて?」
なんだ、見て欲しくてって。誰に何を?
「見たくて。景品!」
あ、景品ねー。
「株やってるの?今石さんは」
「私も。うん、やるよ。人並みにだけど。」
「え、いつから?」
「あのオフ会前くらいから」
「いやいや、嘘でしょ、それは人並みじゃないよ?」笑
おいおい、オフ会は昨日だぞ?
グダグダ話をして、スタバから学校に着き、席で別れた。
そして、僕は2人のLINEをゲットした。。
あれ?話ってあんなんだったのか?
とりあえず昨日の子は今石キョウコ。
経済学部国際経済学科3年に転科してきた子。
話をしてみると、謙虚そうに見えて、人懐こい感じだったりかなぁって感じ。
それより、急げ。もう9時半じゃない?
株が、株。
じゃあ早く着替えて学校行くよ、待ってて上げるから。どうせ今日の授業出ない気だったんでしょ、単位落として留年するよ。とC。
彼女Bは僕のパンツ姿を見て、笑っている。
僕の名前は佐藤 ワタル。 佐藤は日本で一番多い苗字に、ワタルって世の中を上手に渡ります。みたいな投資をしている僕にはクソみたいな名前。
大学までの道のりでは色々な話を聞けた。
主にCが仲介役で、僕と彼女Bを繋げてくれた。
彼女Bの名前は今石 今日子。
経済学部国際経済学科の3年。転科する前は法学部にいたらしい。
性格は人見知りかと思いきや、一度仲良くなると、かなり人懐こいという感じを受けた。
これはかなりの確率で、仲良くなれるぞ、と僕は胸を張った。
学校に着くと、今日子はじゃあまた、と席へ。
僕はいつもの席のいつものツールで投資を始める。そう、僕は学校にいても家にいても、投資家なんだ。
今の資産は1300万円。開始金額は親が子供の時から貯めてくれた50万円。
コロナショックから始めた株歴4年目。
純分満帆な僕に就職活動をしろって?
もうすぐ、1億円トレーダーになる僕に?
笑わせるなよ、って周りの友人には言いたい。
今日、その株、下がると思うよ?
ん?
後から声がした。
振り返ると、今日子だった。
えっ?なんでわかるの?
あっ、ごめん。
なんかそんな雰囲気だなーって思って。
今石さんは株知ってるの?と僕。
なんとなくね。と今日子。
あー、そうか、株オフ会にいたくらいだもんな。普通に知ってるかと納得する僕。
今石さんはどれくらい投資歴あるの?
私は全然ないよ。1ヶ月くらい。
君は?
4年目かな。
大学に入る前からやってるんだー。
すごいね。儲かったら、仕事しないの?
僕は起業がしたいと思ってる。ファンドを作って、お金でお金を増やして、お客さんを幸せにしたいって。
なるほどねー。それってどれくらいのお金がいるの?
1億以上はないとダメだろうけど、僕は負けないよ?笑
チャイムが鳴り、今日子は頑張ってねと。
後場が終わり、さっき今日子に言われた銘柄は買わなかった。
値段を見ていなかったので、軽い気持ちで見てみた。
200円安ストップ安?
おいおい…
この銘柄はTwitter銘柄というある特定の大物トレーダーがツイートして、イナゴ投資家が買う銘柄のひとつ。
外資系証券の信用売り残の多さを逆手にして、現物買いで仕掛けて鰻登りの銘柄だった。
天井圏から押し目を作っていた局面だった。
今日子はどうしてわかったんだろう…?
学校が終わり、投資時間もイブニングタイムで欧州が開く17時までは値動きがあまりなくなる。
その時間だけが僕の平日の休憩時間。
今日子に確認がしたいー。
何か知っていたのかと?
しかし、今日子はもう席にはいなかったー。
今日子の友人Cがいた。
彼女の名前はミサト。柊 ミサト。
柊さん?
今石さんを見なかった?
お、株オヲクくん。
今日子なら病院に行くって帰ったよ。
病院?
どっか悪くなったの?
よくわかんないけど、大学病院に定期的に通ってるみたい。
えっ?大学病院?
どこの?
そこまではわかんないよ、自分で聞いたら?
そっか…わかった、ありがとう。
学校を後にし、自宅に戻る僕。
頭が混乱する。彼女のTwitterをがむしゃらに検索する。フォロワー、フォローも。
何処の病院だろうかと。
過去のツイートに病院の写真があった。
今日から入院しますと。
入院?いつだ?1年前?
先物の値動きなんて久しぶりに見ずに、僕は病院に向かった。
受付で、今日子が会計をしていた。
今石さん!
あれ??君。どうしてここに?
いや、柊さんに聞いて。
いや、よくわかったね、ここの病院って。
Twitterで探して…ごめん
ストーカーじゃん!笑
……。そうそう、ストーカー…苦笑
どっか、その、悪いの?大学病院って?
どっかねー、どうかねー?
えっ、ダジャレになってないよ。笑
頭が悪いの。笑
頭?
それより株、どうだった?私の言った株。
下がったでしょー?笑
いや、それ、下がったって思いきっり下がったよ。500万株売り気配ストップ安なんだけど。
明日からも多分ストップ安ー。
今石さん、なんか知ってたの?もしかして、トンピンと知り合いとか?
トンピン?笑
誰?人の名前?
当てずっぽ?
当てずっぽだよー。笑
私、今日は暇なの。一緒に帰らない?
うん…
お腹空いたからなんか食べて帰ろうよ。
わかった…いいよ。
今日、君の夢、投資で人を幸せにするって言ったよね。
うん。
私を幸せにしてくれない?
えっ?何だ?この展開??
どういう意味?
私ね、ボケちゃう病気なんだぁ。
ボケちゃう病気?
そう。若年性急進型アルツハイマー…
カッコいい名前でしょ?
アルツハイマー?
忘れちゃうってやつ?
君の名前も今は知ってる。でも明日には君の名前も覚えてないかもしれない。
えっ、そんなレベル?
そんなレベル。笑
でも、私、夢を見るの。
夢?
そう。今日だけの投資の夢。
えっ?
君に私の一生を預ける!
いやいや、待ってよ、今石さんが大変なのはわかる。
でも、僕らは出会ってからまだ程なくしか経ってなくて、僕はその…
ダメ?
ダメとかじゃなくて、いきなりというか、偶然出会って、たまたまこうやって一緒にいるだけで…まだ…
偶然?まだ?
僕はTwitterで騙されたばかりで、こないだ大損したんだよ。出会ったばかりの人が病気で、いきなり幸せにしてって、信用出来なくて…
偶然じゃないよ?笑
私がお願いしたの。
お願い?
そう。お願い。
君がオフ会に来るのも、転科したのも。
プールに落ちて目立ってみたのも。笑
病院に君が来てくれたのも。笑
えっ?
だから私を幸せにして。
目の前の他人一人も幸せに出来ないで多くのお客さんを幸せに出来るの?
…。幸せって、僕は君をどうすれば?
それは君が考えて。笑
えっ…
その夜ー。
トレードも一切しなかった。出来なかった。
夜のトレードをポジション持たずに過ごしたのはこの4年間で初めてだった。
考えていたことは、今日子の幸せとは何かということでいっぱいだった。
アルツハイマーについて、調べられる限り調べた。たんぱく質が絡んでいるのはわかったが、AIからの解答もありふれた情報で凡庸なもの。
他人の幸せってどうすればいいのだろう?
今日子は僕を利用しようとしてるだけだろって気持ちも少なからずある。
でも、あの話が全て本当だとしたら、僕に助けて欲しいと言っているようにも聞こえる。
そもそも予知夢って毎日見れるものなんだろうか。
確認がしたいー。
ある株の分析と翌日最注目の決算企業リストを作り、確認をしようと試みた。
次の朝。
今石さん。
昨日はごめんなさいー。
えっ?ダメ?
いや、ダメじゃない。
今石さんを幸せにする。
横にいた柊さんたちが、びっくりしている…
でもその前に、僕からもお願いがあって。
昨日言っていたことが本当なのか知りたくて。
何?全然信じてないでしょ?笑
リストを作ったんだ。
これにいいなーって会社には○を、この会社ダメだなーって会社には×をつけてくれない?
このリストは全て今日決算発表が行われる企業20社。
念の為、5社はお昼発表の決算企業。
ふーん。わかった!いいよ!
意外にもリストはすぐに返ってきた。感覚だけなのかなと僕は思った。
リストに○がされたのはお昼発表の企業1社。
15時発表の決算企業は7社。
僕は半信半疑にも、お昼発表の企業1社に午前中300万円の買いを入れた。
すると、、
決算、上方修正+増配を発表。
えっ?
ストップ高?こんな大型銘柄が?
それは海運株だった。
後場、利益が100万円。
その後、ちょっと待てよ。と。
15時発表の銘柄、○が付いてる7社の中で、海運株に全部○が付いているー。
僕は海運かと商船三井、日本郵船、川崎汽船の株を信用買いで計2000万円買った。
15時、決算発表と決算会見。
海運3社とも上方修正+増配+自社株買い。
なんだこれは。
今日子には買ったことやその利益は一切言わなかった。
今石さん、今日はどうもありがとう。
僕は君を少し信じてみたいと思う。
少し?笑
言ったでしょ、幸せにしてくれるって。
次の日。
僕は株のポジションがパンパンになっていて、昨日買った海運株4社の板がどんどん上がっていくことに夢中になっていた。
その日の取引が終わり、僕の資産は2000万円になっていた。今日寄った海運株を買い増していった。
これはすごい。僕も幸せで、彼女も幸せに出来ると確信に変わった1日だった。
明日はどうなるんだろうと今日子を探すと、彼女がいないことに初めて気付いたー。
その次の日。
今日は今日子がいた。友人たちと会話をして普段と同じ姿だった。
今石さん、昨日は大丈夫だったの?その…
大丈夫。また何かあるんでしょ?貸して?笑
あ、うん。これ、見てほしい。
僕は少し精度を上げた難しい銘柄をリストアップしたものを渡した。
時価総額500億円以下の決算発表50社。
こないだと同じように○と×をしてくれない?
今日子は、知らない銘柄ばっか。何これ?
いや、雰囲気でいいよ。お願いします。
わかった。。
何とも解せない感じの今日子。
僕は海運株で味を占め、ちょっと無理強いをした。が、これが当たれば資産がぶち上がるチャンスだと確信していた。
今日子はまたも早くリストを返してくれた。
見てないし、知らないのもあるから△も入れちゃったけど、どうかな?
お、△か。そんなのもありだよねー。
と、余裕の僕。
今日子が渡してきたリスト。
50社のうち、40社ものが△。
こんなに△か。
まぁ知らない会社だからかと納得する僕。
○が3社だけ。
この3社はTwitterやYouTubeでも比較的有名な銘柄。
なるほどなーと、僕は3社に打診買いを入れる。
海運の方は今日も値を上げ、3連騰。
3社のうち、2社に勢いがあり、打診買いから本腰で手元資金500万円を突っ込む。
2社ともストップ高に張り付いた。
この日、海運株を利益確定。
資産は3000万円になっていた。
今日子との予知夢売買を初めて3日。
3日で資産が2倍になった。
その日の夜は、僕は珍しく親に相撲のチケットをプレゼントした。金額は1人5万円。
親不孝な僕は今は親孝行な僕に変貌を遂げた。
彼女がいれば僕は無敵だと。
ストップ高した小型株2社の決算はすこぶる絶好調。Twitter、Yahoo掲示板上では買いの嵐。
夜間取引もストップ高張り付き。
まだまだ資産は増えていく。
手元資金が十分あるため、思い切った作戦に変更することにした。
それは先物オプション取引にすることにした。
この頃、先物のボラティリティが上がってきたのを見た僕は、彼女に日経平均のボラティリティを予知してもらうことを試みた。
自信しかない中、学校に行く僕。
満員電車で肘打ちを食らっても、肘打ちしてくれてどうもありがとうと余裕な僕。
今日子に、いつも通り、リストをお願いした。
おはよう、今日はこれで頼むよ!
ねぇ、なんか私に幸せって感じがないんだけど、どうなってるの?
あれ?4回目のお願いで初めて怒られる。
いや、待ってくれ、これからのことを今やってるんだ。
これからのことって?
いや、まだ資産的にも余裕がないというか、まだまだだなって。
デートに誘ってよ!
デート???
そう、そういうの。どっか行こうとか。
あ、そうか、そういうことか。わかった、じゃあ日曜とか?どっか?
後でLINEして!
なんか、まずいぞ?機嫌は大事だ。やってくれなくなってしまう。
といい、今回渡したのは非常に簡単。
今日の日経平均の値動きが○か×か。
今日子は怒りながら即答で渡して来た。
答えは×が5個。
×が5個??
これはどういう意味?
全然ダメってことよ?
全然ダメ?ヤバいってこと?
知らない!
うーん。×が5個。
とりあえず今日の小型株は全部売却。
日経平均の値動きが8時45分始まった。
実は今日は日銀金融政策決定会合。
マーケットはいつも通り、日銀は現状維持との見方からお昼に開かれることも注目していない。
この日は朝から値動きが重たい。
そこで、これは×5個の意味かもしれないと自信のある冴えわたる僕の第六感が感じた。
午前中、オプションのプットを建て値25000円から30000円まで全ての価格で仕込む。
総額、3000万円。
そう、僕の資産はこの4日間で4500万円までになった。
12時45分。
通常、12時30分には後場開始時刻に合わせ、日銀が政策を発表するが、この日は違った。
その瞬間は刹那の値動き。自動売買の号砲がなった。
黒田日銀は現状維持からイールドカーブコントロールを引き上げると発表。
国債が売られ、利回りは上限突破。
ドル円は急激に円高、先物、株は急落。
1200円安を演じた。
僕のプットオプションは10倍になった。
たった、1時間で。
3000万円が3億3000万円へ。
資産がこの日の取引で、3億7500万円にー。
もう学校はやめようと決意した瞬間だった。
自信から悟りへと進化した僕は天を見た。
神様っているだなと。
ガッツポーズも吠える感覚ももはやない。
これは僕には必然だという境地の悟り。
そして、今日子ありがとうとー。
ここから今日子の幸せを考えていくよと。
学校の陳腐な授業が終わりに近づいたその時、突如、前の席にいた誰かが倒れたみたいだった。
ん、どうしたと僕は天から見下ろした気持ちでチラッと。
倒れていたのは今日子だったー。
救急車救急車と、先生と男たちが。
資産3億7500万円の僕にはもはや叶わない願いなどない、家もジェットも、プライベートビーチも、女も、全て手に入る。
そんな気分だった。
そんな気持ちの瞬間も刹那で消え失せた。
車のエンジンを失うかもしれない恐怖へと変わる。
いつも使っているPC、携帯、バック、そんなものを全て置き去りにして、僕は今日子を追いかけた。
先生や、学生などのイナゴ共を掻きむしり、救急車に今日子と乗った。
君は?と救急の人に問われ、恋人ですと。
彼女は過呼吸を起こしていた。
ちょっと待ってくれよ、ちょっと待ってくれ、これからなんだ、これから。
ごめんなさいごめんなさい。ごめんと。
自分はどうしたらいいのかわからない今日子の幸せから逃げていた。
3億7500万円になったよ、だから…だから…
過呼吸が止まらない今日子。
病院に着き、緊急室へ入った。
僕は扉の前までしか行けず、ただただ、ただの人間だった。
程なくして、今日子の親らしき人が1名来た。
その人は、僕を見て、納得するような顔をした。
慌てているのは僕の方だった。今日子のお母さんは僕に、君なのねと。大丈夫、大丈夫と。
僕は大丈夫?
と意味がわからない。
心配はないということでいいのかなと思ったが、実際は違った。
それ以降、今日子は病院から完全に退院出来る日は来なかった。
お母さんからは今日子の苦悩と、充実さ、楽しみ事、そして、データを渡された。
毎日、覚えていることを忘れるため、膨大なデータが入ったメモ帳を見てから学校に行く。
予知夢が株だけではないこと、学校のこと、親のこと、僕への期待、僕からの楽しみ。
予知夢の要求の大きさによって朝の体調も振れ幅が大きいこと。
今日子が目を覚ましたのは3日後だった。
初日の過呼吸は過呼吸止めみたいな液体で鎮静化、栄養は点滴から。
僕は慣れないスーツで謝罪に行く。
今日子、目を覚ましてくれて、ありがとう。そして約束を破り、すいませんでした。
今日子って初めて呼ばれたんだけど?笑
この3日間、私の幸せ考えてくれてた?笑
うん。
僕が予知夢もアルツハイマーも治すよ。
えっ?どうやって?
全部治して、僕と家族になってくれ。
医者でもない、株ばっかで一回もデートもしてない君と?
そう。
予知夢ももう求めないし、やれるところまでやるから、それが君の幸せに繋がる。
僕に出来ることは、限りがある。
お金では買えないものがあって、どうしようもない、途方に暮れる現実で、やれることー。
3年後ー。
僕の名前は佐藤ワタル。26歳。
ワタルファンドの投資運用責任者。
とは言え、自分だけしかいない。
本人資産は35億円。
預かり資産は65億円。
計100億円の運用ファンド。
投資対象銘柄は全て、医療関連。
ファイザー、モデルナ、アムジェン、イーライリリー、エーザイ。
アムジェンの大株主でもある。
彼女、今日子はもう僕を認識していないー。
今現在、どうやってもアルツハイマー治療薬は開発されず、お金がいくらあっても僕の存在意義は満たされないー。