見る男
寝ちまったな…
ソファから起き上がるとシャワーを浴び、パソコンの電源を入れる。
「このおっさんの講義聞いてても面白くないんだよなあ」
ぼんやりと画面を眺めながら暇を持て余す。
「あ、そういやあれ どうなったかな」
スマホをいじると昨夜インストールしたアプリをひらく。
「はじめまして! よかったらお話しましょう」
掲示板のようなところに書き込んだ彼の投稿は何も反応されず、空を切っていた。
「あー、やっぱそんな上手くいかねえよなあ。ちょっとだけ期待した自分が恥ずかしいぜ」
目が覚めたらたくさんのお声がかかるかもしれないと、淡い期待はあっけなく崩れた。
そこから数日彼はとくに投稿もせずに、流れてくる投稿をぼんやりと見ていた。
掲示板には仲良くゲームを楽しんでいるのであろう者、愚痴をひたすらに書き込む者、2次元のキャラへの愛を叫ぶ者 と多種多様だったが。中で大半を占めるのは 艶やかな紅をつけた顔や、谷間を見せて誘惑する女性と、そこに光に群がる蛾のように集まる男たちであった。
「こういうのは違うんだよなあ」
元々何気ないことにも考察をしてしまうたちであった彼はしばらく掲示板の世界を観察していた。
思ってた以上に年齢の層にも幅があり、使い方も様々であった。
共に勉強をしたり、弾き語りをきくライブ会場のようなものもあった。
何人かでお酒を飲みながら話をしたり、語り明かしながら共に眠りにつくのを良しとした人達もいた。
そこには直接会ってはいないとはいえ、思い描いたキャンパスライフに近い世界が広がっていたのに、彼はなかなかその気になれなかったのである。
「まず顔も出さずよく分からない画像をアイコンにしてる俺は話しかけられないし、そもそも男性から話しかけられることはよっぽどじゃないとないんだな」
数日間に渡る視察の結果、敗因が明確となる。
「でもそれじゃ情緒が余りになさすぎる」
敗因に気づいたとは言え、めかしこんだ写真をアイコンにしたり、かまって欲しいと匂わせるような投稿をする事は彼の何かが許さなかった。
道化にも色男にもなれないまま、日々が過ぎていった。