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血は水よりも「嫌でも」濃い

 祐治と雪はずっと黙ったままでいた。雪は身動き一つしない。

 まだ何も聞けてはいない。だが祐治は何が起きているのか、少しだけわかってきていた。


「雪」


 泣いている子供を気にして小声で声をかけると、雪が祐治の方へ顔を向けた。


「雪、教えて欲しいんだ」


 バイザーでやや隠れているが、いつもとは少し違うポーカーフェイスの雪に問う。


「この子が、さっきの生物兵器の正体なんだな?」


 雪からの返事はない。


「雪は、父親の手伝いで研究室によく行ってる。それでこの子を知っていたんだよな。親父の「大悟」と俺の「祐治」を合わせて「祐悟(ゆうご)」だろ?」


 どこか聞いたことがあるような名前だと感じたのは、実際に自分の名前とよく似ていたからだったのだ。


「親父は、自分の遺伝子で作った子供を人体実験に使ったんだな。多分、試作品という名目で研究所(うち)に置いてある、誰にも見せない人工子宮装置をこっそり使って……」


 雪からの返事はない。ただ彼女は(うつむ)いた。


 ――祐治は思い出した。声変わり前の自分自身の声と、この子供の声はよく似ていた。成長すれば自分、そして父親や仲の悪い伯父と同じ声になるだろう声だ。


 この三人は、さすがに近親だけあってか声も顔も一目で血の繋がりがわかるほど似ている。そして顔はともかく、これほど子供の頃の祐治にそっくりな声の主もまた、城山の血縁なのは疑いようがない。


 ただし、だからといってあの大悟が家族とわかる名前をつけるとはとてもじゃないが祐治には思えなかった。もしそんな名前をつけるとすればそれは――


「雪が付けた名前なんじゃないのか?」


 祐治は他に思い付かなかった。さっきのように、優しく接している様子を見るに、きっとそうなのだと確信していた。


 だが、この状況は一体どういうことなのだろうか。


「雪……あの子は俺の弟だと思うんだが、なんで生物兵器になって、こんな山にいるんだ? 俺たちがここに来たのは国に依頼されてという形だが、生物兵器が絡むことでうちの研究所に声がかからないわけがない。うちで作った生物兵器を自分達で回収して、親父は何がしたいんだ?」


 これは自作自演だ。

 自らの息子……などという情や躊躇(ためら)いなどあの父親には欠片もないだろうが、息子にも隠してきた子供を、他国で作られたと言われる生物兵器に改造する。そして回収する。国を含めて多くの人間を騙してまでだ。

 それに何の意味があるのか。


「雪は……」


 何よりも。


 ――雪はどこまで知っていたのだろうか?


「知っていて、ここにきたのか?」


 祐治の弟が存在していたことを知っていた雪。


 では――祐治の弟が生物兵器に改造されたことは。そんな計画があったことは。

 そして、祐治が薬剤を打ち込んだことで、ほぼ確実に弟は――


「……そうじゃ、ないの……」


 俯き、表情の見えない雪から、小さな声が聞こえた。


「これまで、あの子のことを言わなくて、ごめんなさい……」


「雪……」


「でも、こうなることは知らなかったの。本当に、ただ祐治さんが危なくなったら守らないといけないんだって、それしか聞いていなかったの……」


 雪は、この自作自演に巻き込まれた一人だった。変わり果てた仲間と再会することなど微塵(みじん)も予想していなかったのだ。


「……そうなのか。そうか……」


 弟の存在はずっと隠されていたが……それでも祐治は雪の言葉に安堵した。大悟と修介のしでかしたことに、雪は関係がない。それには少しだけ安心した。


 だが、それでもまだ気になることはあった。


「……じゃあ、雪。さっきあの子が言っていた、雪と子供は俺と違って何かをされたっていうのは、なんだ?」


『僕が生まれたことも雪がどうしてお前の世話係なんかやってるのかも何も知らないで生きてきたくせに!』


『……お前だけ何もされなかったくせに……雪と僕はお前とは違うんだ……』


 祐治がずっと求めていたことの答え。

 あの父親たちにはずっと遠ざけられていた真実が、すぐそこにある。だが同時に、祐治にとってはこれが最も知るのが怖い疑問であった。


(雪……あの父親と親父に、何をされているんだ?)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子供の抗議って 論理的ではないけれども 心に刺さるんですよね。 いま流行りの刺さるって言葉は 実は子どもの抗議ほどには 心に響いたりしませんからね。 ここの声は 発達的視覚優位のひとに…
[一言] 隠されていた謎に対して大胆な推理をしてみせた祐治さんに、もしかして最初から彼はある程度のことは知っていたのでは……? と勘ぐってしまいました。怪しい雰囲気が漂い始めてきて、誰を信じていいのや…
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