考えられる中で最善の一手のはずだった
ひらめいた。
(これで雪がいじめられる理由はなくなるぞ!)
祐治は自身の計画に満足した。
出会いからわずか数日だったが、祐治は雪を秘密基地に連れていった。
祐治が雪と仲良くしていれば、雪の父親である修介は雪を誉めていたからだ。秘密基地に連れていってもらった、と修介が聞けば、祐治と雪は仲良しだと考えるはずだ。
その結果、修介は雪をいじめなくなるだろうと祐治は考えたのである。
雪を案内した秘密基地は、研究所や村から少し離れ、やや山を下った場所にあった。山の中でもとりわけ木が生い茂る場所に、村の子供達が集めてきた廃材や山で拾える小枝、つるつるしていてちょっと綺麗な大きな石など、色んな物を組み合わせた人工の空間が確保されていた。
屋根はないが、山で拾える物の寄せ集めで作られた壁には少々の風を凌ぐだけの防御力があり、祐治たち製作メンバーにとって自慢の秘密基地である。なお「秘密」基地なので自慢する機会はこれまでなかった。
子供が数人がかりで運んできた平たく大きな石の上で、誰かの家にあったすごろくという古典的な遊びなどの色んなことをするのが、彼らの粋な過ごし方であった。
そんな場所に招待されたのだから、雪は間違いなく祐治と仲がいいのである。修介は雪を褒め称えるに違いない――完璧な作戦に、祐治は上機嫌になって雪に秘密基地自慢をしまくった。確かに、十にもならない子供だけで作ったというにはしっかりと作られてはいたので、子供同士で自慢するには十分なものであった。
とはいえ、あくまでも子供の作ったもの。都会は台風などの災害から守る機能が備わっているが、この田舎にそれはない。まもなくやって来る台風で秘密基地は呆気なく壊れ、そしてまた難なく作り直されることとなるだろう。祐治はそれがわかっており、受け入れていた。
結構よくできてるだろ。でも明日は台風がくるみたいだから壊れるかもな、そしたらまた最初から作るからいいんだけどさ、と言った翌日。
嵐で真っ暗な窓の外を見て、祐治は嫌な予感がした。
(もしかして、壊れないように秘密基地を見に行っているんじゃないか……?)
その悪い予感は当たっていた。祐治が秘密基地へと走った結果、そこに雪は本当にいたのだ。
暗くて怖くて動けなくなって。
――そんなあの日のように、祐治はでこぼこの道を駆け降りる。
まるで沼のように溜まった体液の中から、起き上がる人影を見る。
暗闇の中で嵐に怯えて涙を堪えていた少女の、震えていたあの声とは違う響きを。
落下のショックで気絶していたことが察せられる、掠れて小さな、女性の呼び掛けを聞いた。
「……ゆうごさま?」
聞いたことがあるような、でも知らない名前だった。