進む技術と二人の出会い
祐治と雪は幼馴染みで、婚約者だ。互いの父親も幼馴染で、幼い二人は親によって引き合わされ、行動をともにしていた。それは本人たちの意思ではなく、二人の父親たちの希望だった。
二人の「婚約」の始まりも、父親たちのやりとりから生まれた。まだ十にもならない二人が出会って一週間というある日、彼ら二人を並べ、
――二人はかなり仲良くなったね。それならどうかな、将来は結婚するって話にするのは――
そう言って、目の前の男に愛想よく振る舞う父親に何も言えず、雪は俯うつむいていた。
父親が声をかけた男――祐治の父親が、黙って嫌な顔をするのが見えてしまった。まだ出会ったばかりの祐治も、きっと雪にとって嬉しくない表情をしているはずだと思うと、顔を上げる勇気はもうなかった。
だが、その言葉に対して誰よりも早く、祐治が答えを返したのだ。
――いいよ。結婚しよう。おれ、おまえといっしょだと楽しいし――
彼女は顔を上げ、目を丸くして彼を見つめた。
これが二人の「婚約」の経緯である。
二十二世紀。
世界大戦と呼ばれるような大きな争いこそなかったものの、世界のあちこちで火花が散り、血が流れた二十一世紀を経て、戦争の様相は変わった。
優れた計算能力で自動的に動く戦車、地下深くに作られた砦。戦場に人間の姿は見えない。
高度な技術と知識を持ち、特殊な訓練を積んだ選りすぐりの暗躍部隊や指揮系統の軍人がどこかから戦況を変えていく。
爆破と鋼鉄の音が響く戦場からは、傭兵などの人間の活躍は消えつつある。
それだけでは終わらない。冷たい鋼でできた機械の性能も変わったが、新たな戦争の手段として盛んに研究されているのが生体兵器だ。
まだ現実にはなっていないが、様々な構想があった。目的の人物のみを害する毒で敵の首領を狙い戦争を早期終結させるという案や、人間を上回る身体能力をもつ動物たちを組み合わせて造る合成獣キメラを使い、敵国を混乱させるために市街地を襲う計画。
或いは国の要人の影武者を量産できるクローン技術、役割を果たし数時間が経過すると跡形もなく溶けて消え、証拠を残さないスパイなど、様々な研究が世界中で続けられている。
――生命の神秘など、死の商人には一文にもならない。