三回目は先読みチートが
ふと目が覚めて寝具から、怯えるように跳ね起きた。
確かに僕は死んだはず。それがどうしてまたここに?
もう二度と、起きない奇跡と思ってた。
だがそれも、こうしてここに また戻ってる。
部屋はかつてと同じ姿で、不気味に思えた、怖かった。
朝餉を摂って、教師を呼んで、それから昼に茶を飲んで……。
混乱したまま今日を過ごした。
「あの、殿下……、セシル侯爵令嬢を、お呼びになってはいかがです?」
侍従に言われて 彼女を呼んだ。
数十分ほど過ぎた頃、彼女は見事な所作で来て、やはり見事な礼をした。
「調子はどうだい? 元気にしてた?」
「日頃より、殿下の未来の妻として、恥じないように暮らしております」
その微笑みも、今となっては怖かった。
――彼女は僕を騙しているのか?
そしてまた、僕らは夫婦の契りを結び、国王の地位を継いだんだ。
「少しだけ、よろしいでしょうか」
「どうしたの」
「私の叔父は博学で、事務能力にも優れております。大臣として、いかがでしょうか」
「それはできない!」
思わず声を荒げてしまった。
彼女はすっかり怖がって、怯えたように目を翳らせた。
「ええと、その、君の家族を取り立てたとき、よからぬ輩が嫉妬して……。
あの、それは、よくないだろう?」
彼女が納得したように、頷くのを見て、安堵した。
「差し出がましい発言を、お許しください」
「いいんだよ、気にしないでくれ」
感じたものは、胸の動悸と冷たい体温。
だが、きっと、こうすることが正解なんだ。
セシル家の他にグレイ家も、政治の場から引き離していく。
反乱は、起こらなかった。
僕はそのとき考えた。
死んだ、以前の人生で、後悔したこと、悔やんだことを、
今ならやり直せるかもしれない。
そう思ったら、希望が見えた。
災害が、年に幾つか起きている。
そしてこれからどこで起きるか、
僕は確かに覚えてた、
我が子に教える教材として。
――こんな形で役に立つとは。
この冬は、飢饉が起きた。
荘園に住む農民も、干上がり、税を出せないで、
苦しんでいた。
最初にそれを思い出し、作物を、節約するよう部下に命じた。
これだけあれば、飢饉が来ても、干上がることはないだろう。
それは、数か月後のことだった。
寒さが厳しい。
隣のアレクサンドラが、僕に尋ねた。
「国庫にしまった作物を、配給したりはしないのですか?」
「どうしてだい? 税は減らした。憂いはないよ?」
そのときは、そう思ってた。
蜂起が起こった。
農民たちが鍬を持ち、兵を襲って、略奪をした。
どうしてこんな――。
「ねえ陛下、分かりませんか?」
「どういうことだ?」
「税が減っても彼らは貧しい。
なのに王家は、貯蓄を使ってぬくぬく暮らす。
これでどうして民心が、あなたに付いてくるでしょう?」
それからも、僕が行う政策は、うまくいかずに頓挫していく。
気付いた頃にはこう告げられた。「陛下はなにも、しないでください。」
その一言が僕を殺した。
――ああ、僕は、なにひとつさえ変われなかった。
子供が生まれた。長男だった。
育児は彼女がすることになった。
もう僕は、なにもする気が起きなくて、
部屋にこもって、天井を見て、ぼんやりしながら暮らしてた。
噂が聞こえた。
――今度の王子は優秀らしい。
嘲笑の的にされつつ思う――実際に、
僕が育てたあの子より、彼は遥かに優秀だった。
我が子が大人になった頃、挨拶に来た。
よくも今まで無視してきたね。
それほどまでに、僕の力は弱かった。
「この度は、国王陛下の尊顔を、拝することができまして……」
おもむろに、その目を見てみた。
あの目と同じだ! サンドラの、僕を見下すあの瞳!
憎かった。けれども僕にはもう何も、能うることはなくなっていた!
今はもう、すっかり老いて枯れはてて、なにもできずに死んでいく。
妻は未だに健やかで、そんなことすら妬ましい。
一方僕の体など、骨が浮き出て、薄汚れ、とうてい王とは言えなくて。
こうして僕はまたしても、惨めな姿で死んでしまった。