表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

一回目は婚約破棄を


「アレクサンドラ=セシルとの、婚約を、ここに破棄する!

 この者は、王宮に、毒を持ちこみ ここにいる、エミリアという少女を狙った。

 決して許されない罪だ! 」


「いえ殿下、わたくしは、そんなことなどしておりません。

 いったいどんな証拠があって、わたしが悪だとおっしゃるのです?」


「エミリアが、倒れたときはいつだった?

 お前が渡した皿から食べた、ちょうどその時だったじゃないか!

 だがそれも、医師の努力で防がれた。彼曰く、毒は鈴蘭(すずらん)

 お前の部屋の花瓶の中に、いくらかあったな?」


「ただそれだけでわたくしが、毒を盛ったと?」


「他にいったい誰がいる? 嫉妬に狂った人間が、彼女を狙う存在が!

 まさかここまで浅ましいとは。見損なったぞ。

 詭弁(きべん)は要らぬ。ただ真実を!」


「もう結構、ほとほと愛想が尽きました」


「観念したか。もう言い訳はないのだな?

 ――この者を、捕らえて牢に!」


 そうしてアレクサンドラは、衛兵に、連れていかれた。

 恐らく彼女は斬首刑、もしくは絞首――どれにせよ、死刑になるはず。

 怯えるようにエミリアは、震えて僕にすがりつく。

 ――大丈夫、僕が守るよ。


 彼女を庇える場所に立ち、去りゆくアレクサンドラを、睨みつけると、

 気付いたように振り返り、視線を返したその瞳、

 さげすむような瞳には、惜しむ色など見えなくて、――怯えてしまった。


 だがこれで、すべて解決したはずだ。

 父が彼女に下した罰は、追放刑――それだけなのか。

 けど誰も、死なずに済むならいいのかな。


 やがて僕らは大人になって、僕は国王、王妃はエミリア――そう決められた。

 世間は僕らの恋を祝った。“悪を挫いた(まこと)の愛”と。


 なにひとつ、憂いはないと思ってた。

 けれどだんだん綻びが、覗いて露見(ろけん)し僕らを襲う。

 豪奢(ごうしゃ)な暮らしが災いし、王家は力を失った。

 エミリアに、節制するよう頼んでも、聞く耳持たずに宝石(ジュエル)を買って、

 新たなドレスを仕立てさせ、髪の支度に(きん)を溶かした。

 当然みんなが真似をして、余計に苦しくなっていく。


 気付いた頃には腐敗して、不正が蔓延(はびこ)り浪費する。

 王宮を、歩く人らは目が曇り、

 花を煮詰めた香水の、澱んだ匂いが鼻を突く。


 書類を見ても、なにがなんだか分からない。

 仕事を任せた官僚は、きのう賭博に興じてた。

 警備を任せたはずなのに、娼婦と遊ぶ近衛兵。

 どうしたらいい? 分からない……。


 思えばアレクサンドラは、僕を思って助言して、正しいことを述べていた。

 それなのに、僕はどうして……?

 事あるごとに意見して、僕を否定し修正し、そうして彼女が正しくて。

 それを嫌って捨てたんだ。――僕は彼女を捨ててしまった。


 もう戻れない、後悔ばかりが胸を突く。

 しなだれかかるエミリアも、今ではどこか怖かった。

 ――彼女は僕を騙しているのか?


 とうとう終わりが来たようだ。衛兵たちが雪崩れ込み、僕らに槍を向けて立つ。

 人心(じんしん)さえも()れはてて、誰も僕らを祝福しない――神でさえ。

 死にたくないな、痛みが怖い。

 けれどそこでは死ねなくて、僕らは市中を引き回された。

 石を投げられ罵られ、体がガタガタ震えだす。

 こうして僕もエミリアも、惨めな姿で死んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ