板前駅話
「誰がその後始末すんのか、知ってっかい?」
なんて、気味の悪い話を始める訳でなんですよ、その客がさ。
「血ィそのままにするわけねえだろう。車輪だけじゃなくて、車体とかにも付いてんだぜ」
「やっぱし、駅員とかじゃねえんですかい?」
愛想を出して聞いてやりますと、
「分担制なんだよなぁ。どこにくっついてるかで担当が違うの」
俺は早く勘定して出てってくんねえかな、なんて思っている。
「するってえと、あんた昔駅員だったんだな? そいか今もか」
「ばーか。保線技術員だよ」
だいぶ酒が入っていてやりづれえよ。
「そりゃ聞きなれない職業ですねえ。じゃあ、あんたは後始末をしたことがあるんで?」
「うん? そりゃあるさ」
なんだか奥歯に物が挟まった言い方になったので、おかしいなと思っていると、
「こいつ、現場に着くなりホームに横になっちまったんですよ」
隣の親父がそう言った。決まりが悪くなったのか、隣の飲んだくれ、赤い顔をして下を向いてやがる。
「オチを先に言っちまいますよ。飛び込んだのはぬいぐるみだったの。祭りの夜店で置いてあるような、でっけえヤツあるでしょう。それを誰かが人と見間違いしたんだわな。そんでこのヤロウ、ぬいぐるみの腕ェ見た途端に気ィ失っちまったんだよ。こんな顔してなあ」
「大将、お勘定」
飲んだくれが怒鳴って席を立った。
怪談もたまには役に立つもんで。