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八十七話

 


 最初はなんとなく保険だった。


 片山さんとの契約書のURL先にわざわざ知り合いを載せておく必要なんてなかった。三光高校に通ってる証拠は学生証だけで十分だし先輩の情報だけでアピールにはなるだろう。


 でも、万が一のために天鳳を紛れ込ませておいたんだ。桜楽家を使う作戦が失敗した時、片山さんがそっちに気づけるように。



 保険といえど、その行為でおれは後戻りできなくなった。天鳳を利用したのは間違いないから。



 次の日屋上で会った瞬間からおれは実行した。


 体重差なんて分かり切ってたのにどうして手を引いた?


 落ちてくるのを支えれば自然と体が触れ合うことになるから。



 奈々がクラスで一番可愛いって言ったのは?

 先輩とプリクラ撮った話をしたのは?

 普段自分からメッセージしないのにわざわざ呼んでタクシーに乗った愛咲を見せたのは? 変装を試すなら天鳳じゃなくてもよかったのに。


 どれも、少しでも嫉妬心を芽生えさせるためだ。



 あの時、ロッカーを全部開けたら何回も"お願い"というめんどくさいことをされるようになるのは、分かりきってたのにどうして全部開けた?


 "お願い"という不自然なもので、毎日自然に会うことができるから。



 電車で痴漢されてるのを見たときもタイミングがいいと思った。ただ助けられるからじゃない。


 辛い時に助けてあげれば間違いなく意識してくれるから。



 もちろん、イレギュラーなこともあった。


 宮下が天鳳の前で合コンの話を暴露したり、保健室で先輩たちが執事の件を言ってしまったこと。


 ただ、これも全て嫉妬へとつながり、なによりおれがわざと文化祭に愛咲を招いたり、江東に殴られたのもこういう副産物を期待したからだ。


 膝枕までしてもらったのは出来過ぎだったけどな。



 そう、つまりおれがこの1ヶ月間で一番狙っていた借金返済方法は










 ––––––天鳳沙雪の恋心を利用し、天鳳グループから10億を借りることだった。




 総資産数兆円という天鳳グループの社長令嬢、天鳳沙雪。


 さっきは「まさかお前が借金取り側か」と呆然としたがそんなことはかった。

 おれの後輩にして数少ない女友達の1人だ。


 テニス部にただ1人で入部してきて、おれをよくからかってくることから嫌われていない、むしろ好感を持たれてるのはわかっていた。


 だが好きかどうかまでは分からない。


 だからおれはこの1ヶ月間、天鳳がおれを男として好きになってくれるように行動した。


 偶然体が触れてしまったり、助けられたら意識してしまう。

 その上でほかの女と話してるのを見れば嫉妬が生まれるだろう。


 もちろん上手くいく保証はない。

 よって、アイドルのマネージャーも執事も頑張っていた。


 しかしよく考えてみよう。


 父親は月2〜300万ほど稼げるのにそんな父親がさじを投げておれに頼ってきたんだ。

 マネージャーと執事の収入を合わせるとおそらくちょうどそのくらいだろう。


 その程度で確たる返済方法として認められるか?


 いや、厳しいはずだ。

 父親の倍は稼がないと話にもならない。


 なら、もっと確実な手を。


 その結果が天鳳を利用することだった。


 重要なポイントはおれから告白してはならないこと。


 天鳳から告白してきておれが受け入れる。

 この形で付き合った方が返済の可能性は上がるだろう。


 少なくとも逆よりはマシになるはずだ。



「ううん。先輩は変わったよ、絶対に」

「まあ、マネージャーとかにもなったしな。そうかもしれない」



 愛咲だけに買うと見せかけて天鳳にもプレゼントした。

 喜んでくれたと思う。


 加えて、明日愛咲と親も含めて大事な話をすることが決定している。


 一体何を話すのか気にならないはずがない。

 もしかしたら親公認で……なんてことも無いとは言えない。



「"お願い"、あと一回あるよね」



 "お願い"はおれにとって都合がよかった。

 単純に会う機会が増えるだけじゃなく、"お願い"できる回数が減っていくから。


 人は誰でもカウントダウンというものを意識してしまう。


 あと3日で試験。最後の1日はそれ以前より価値のあるものに感じてしまう。記憶できるどうこうより感覚的にそうだろう。


 あと2回で最期のゲーム。最初より遥かに集中するだろう。


 これも同じだ。


 最初はタピオカを手に観戦していただけが、今となっては膝枕までランクアップしている。


 愛咲との話を考慮するとタイムリミットは明日まで。


 そして、この場にはおれと天鳳の2人だけ。


 天鳳がもしおれのことを好きになっているなら、最後の一回を無駄撃ちするはずがない。


「そうだけど……どうした?」


 心臓の鼓動だけが聞こえる。


「目、閉じて?」


「……わかった」


 おれは目を閉じる。


 まだ油断できない。

 先だってまったく想像できない。


 おれに出来るのは待つだけだ。



 そして数秒後、







 ––––––おれはその唇を受け入れた。




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