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八十五話

 


「ただいまー」


 一週間ぶりに我が家の玄関を開けて靴を脱ぐ。


 前きた時も思ったけど玄関だけじゃなく家を掃除してくれてるらしい。さすが我が妹だ。


 文化祭の話が終わってホテルに帰った後、少し荷物を持って帰ってきたわけだ。


「え!! お兄ちゃん!!!???」


 天音が二階から手すりスライディングで降りてくる。


 おれのパンツのまま。


「もうその服装にツッコミはいれないからな?」

「ん?なんか変かな?」

「そうきたか」


 これはどうしようもない。無視しよう。


「いったん服とかは持って帰ってきたんだ。明後日学校からそのまま帰ってこれるようにな」

「言ってくれればご飯作っておいたのに!まだなんにも作ってないよ」

「そうだよな。ひさびさに一緒に作るか?」

「え、え〜っと………むむむ」

「なんで悩む」


 たしかに天音1人でもめちゃうま料理は出てくるがおれがいた方が早さはプラスされるはず。

 邪魔になるなんてことは………


「そ、そうだね!一緒にやろ!! お兄ちゃんがいてくれたらあたしも嬉しいな!!」

「そっか。じゃあ着替えてくるよ」

「うん!」


 着替えるためにいったん部屋に向かうおれ。



「隣でこっそり入れるっていうのもスリルが………えへへ……」



 妹のつぶやきは聞こえなかった。








「よし。まずはなにを作るかだな」

「お肉焼こ!!」

「いっつもそんな大雑把なの?」


 そこからあれだけの料理が生まれるのはある意味才能なんじゃないか?


「大丈夫だよ。あたしちゃんとイメージできたから!! ………えへへ」

「なんか怪しい気が……」

「んんっ!! 大丈夫!ほら、焼いて焼いて!」

「お、おう」


 とりあえず焼くだけなら余裕だし、久しぶりの料理も意外と楽しいかもな。


 そんなことを考えながら横目で天音を見ると


「ちょっ、天音よだれ!よだれ垂れてるから!!」

「んぇえっ!? お、お兄ちゃんは焼いててって言ったじゃん!!??」

「焼いてるけどお前のだらしない顔が丸見えだったわ!!」


 おれに指摘されてすぐに口を片手で覆う。

 サラダでよだれ垂らすって……そんなに好きだったっけ?


「……ヴィーガン?」

「3日に一度くらいは……ね?」

「まだネットで騒いでるやつの方が頑張ってるぞ」


 偽ヴィーガンの妹に呆れつつも肉に集中する。


 まあ十中八九お腹が空いてただけだろう。

 この肉も高そうなやつだしな。


「でもあたしも切るの早くなったんだよ?」


 そう言うと包丁が小刻みに揺れ出す。


「はっや………」

「ふふん!!この1ヶ月、花嫁修業してたからね!!」


 ストトトトッと一瞬で玉ねぎが切れていく。


 辛い思いをさせたかと思いきや、意外と楽しくやっていてくれたみたいで良かった。


「あーやっぱり玉ねぎって目にしみるよな。涙出てきたわ」

「お兄ちゃんはそうなんだ?あたしは慣れちゃったよ!」

「すげえな」


 慣れでどうにかなるものだったのか。

 それで料理経験豊富かそうでないか見分けれたり……


「めちゃくちゃ泣いてんじゃん」

「お、お兄ちゃんっ!! なんでこっち見るの!?慣れたって言ったのに!!」


 だから気になったんだけど……


「またサラダに垂れてるぞ」

「こ、これはこれで塩味がついて美味しいんだよ!」

「絶対違うだろ」


 流石にまずいに決まってる。

 涙で味付けってやばいだろ。


「もうっ! いいからお肉焼いてて!!」

「はいはい」


 そのまま焼き続けてそろそろいいかな、というところ


「……ど、どうしよ……やっちゃう……?」


 隣から不吉な予感が。


「でもでも…流石に……」

「どうした?」

「ひゃぁあっ!!」



 ––––––サクッ



「き、切っちゃったあああ!! ほんとに切っちゃったよおおおおお」

「おい!大丈夫かよ!?」


 包丁で指を切ったらしい。

 おれですらやらないミスだぞ?


「うう……ち、血がいい感じに出てる……!!」

「いい感じも悪い感じもねえよ。ったく、ちょっと見せてみろ」

「あっ、まだサラダに!」

「サラダに入れるのを恒例化すんな。あとで一回洗えよな?」

「うぅぅ………そんなぁぁ……」


 天音はかなり悔しがってるけど、とりあえず傷は深くないみたいだ。

 あんまり伸縮しない部分でもあり、絶妙な位置。


「すぐに治るとは思うけど絆創膏あったっけな……」

「あ……あるっ、あるよ!絆創膏!!」

「お、どこ?」


 天音の指差す先には……


「…………おれ?」

「うん!!」

「持ってないけど」

「そうじゃなくて!! ……小さい時は怪我したらよくしてくれたじゃん!!」

「ん?………ああ、でもあれって」

「な・め・て!!!」


 ズイっと指を突き出す。

 あんまり良くないって聞いたけどな……


「わかったよ……ん」

「ひゃぁっ……お、お兄ちゃんが………指を…!!」


 ………やっぱり血ってまずい。

 小学校の鉄棒が思い出される味だ。


「そ、そんなに舐め回さなくてもおぉぉ…………」

「あ、ごめん」


 小さい時のイメージだとこんなんだったからつい、な。

すぐにおれは口を離す。


「も、もう……だめえぇぇ………」

「おいっ天音!? 大丈夫か!?」


 急に力が抜けたかと思うと、倒れかかってくる天音をなんとか支えて顔色を伺う。

 これくらいで貧血になるはずはないが……


「んふふ………」

「…………」


 ニマニマしていた。そんでおれの腕に頬を擦り付けてきた。


 しかもなんでか気持ち良さそう。


「謎すぎる」

「もう………ごはんいいやあ〜」

「よくねえよ」



 今日の我が家の台所は特に賑やかだった模様。





 ちなみにサラダ全部洗ったら号泣してた。



妹ってすごい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] タイトルの漢字間違ってますよ。 兼じゃなくて件です。
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