八十四話
さて、今日は6月29日。
つまり借金取りが来るであろう最期の一週間だ。
ホテルとは明日泊まったらお別れして家に戻るつもりだ。
来るなら家だろうからな。
ここまでやれることは全てやってきた。
あとはちょっとの運もあるだろうが今のところ調子はいいはず。
「ふーっ………」
なんていうか逆にもう落ち着いてきてしまった。
ここから先はもはや流されるままだ。
気楽に行こう。
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「おはよ!!」
校門を抜けてすぐ声をかけられる。
「おう。ほんっと元気いいな」
「アイドルが来るからね〜?」
「お前なあ………」
奈々はこの前から急に明るくなったかと思うと愛咲とおれが繋がってることをチラチラ言い出すようになってきた。
天鳳から聞いてるならマネージャーだっていうこともたぶんバレてるし、わかった上でこの対応なんだろ。
「文化祭まで言い続けるからね!」
「バレなきゃいいけどさ……」
こいつならボロを出しかねない。
まあ、元気になってくれたことは良かった。
「あ、文化祭といえばさ天音麗花さん来るんだよ!!??すごくない!!??」
「情報はやいな……ま、めちゃくちゃ盛り上がりそうだよな」
「うん! あとメンバーの募集も始まったよ?」
「もちろんやるよ。鷹宮と小林もだな」
「そっか!じゃあ私もやる!」
「えっ…」
何言ってんだ?って思ったけどそういや前も言ってたな。
綾瀬は完全にやらない派だったか。
「二宮もいるし、結構めんどくさいぞ?」
「大丈夫だよ! アイドルだってくるし…」
「まあ、そうだな?」
「あと慎もいるし!!」
「……おれ?」
「うん!!」
そんな満面の笑みでうなずかれても……。
悪い気はしないけどそこまで歓迎でもない。
「私慎といっしょに準備するの楽しみにしてるよ」
「男女別々だそ?基本は」
「基本は、でしょ?」
なんだそのしてやった顔は。
何もすごくないからな?
「各クラスの出し物を手伝ったり、外部の人と連絡を取る人とか……まあその辺は別だな」
去年は1年でステージの準備とか力仕事ばっかだったけど今は2年だ。もっと楽で楽しい方に回れるかもしれない。
「男女だったら一緒にやろうね?」
「……おれとしても奈々だと助かるよ」
よく考えたら、愛咲とのことも知っていて仲のいい同学年の女子といえばこいつだけだ。
逆に知ってもらえて良かったまであるかもな。
「頼むぜ、相棒?」
「ダサいから却下」
「まじかよ」
女子に相棒は禁句かもしれない。
そう思った朝だった。
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教壇に1人の男が立っている。
もちろん教師じゃない。鷹宮だ。
「さて、今日集まってもらったのは他でもない」
「………決めるためだ………!!」
だれもゴクリと唾を飲まない。
「文化祭の出し物をおおおおお!!!!」
「おーー」
この差。ムードメーカーとはなんぞや。
「はあ…帰りた」
「才原ぁあ!! 聞こえてるぞ!!」
「うるさいな………」
いつもの3割り増しくらいでうるさい。
「お前はいいよな………」
「は?なにがだよ」
天鳳との事でも言ってるのか?
ただの後輩なんだけど……
「もういっしょに回る相手が確定してることだよ!!!」
「いねえよ」
「え?」
え?じゃない。だれ情報だ。
鷹宮はささっと教壇を降りたかと思うと数人の女子の元へ。
「おい、たちば……誘ってなかったの………はあ!?メンバーだけ!?そこ……押さないで……んだよ……」
「う、うるさい!!……張しちゃったん………がないじゃん……つ、次は……誘っ……るよ」
よく聞こえないが裏で操る策士がいるらしい。
鷹宮、お前は操られてただけだったんだな……。
数分後、また教壇に戻ってきた。
「ご覧の通り、メイド喫茶にきまった」
「どこを見ろと?」
黒板にはまだなにも書かれていない。
メイド喫茶のメの字もないぞ。
いや、それにしてはクラスの奴らから反対意見がない……だと……?
「才原……お前以外のクラス全員がすでに繋がっているのさ!」
「あ、新手のいじめか……!?」
いじめと言いつつ、全然嫌じゃないのはなんでだろうか。
「一つの想いを軸に、な」
「その想いってのは?」
フッと軽く笑うと、自分の胸を叩きながらいう。
「your heart に聞いてみな」
「今の録音したから合コン相手に流しとくわ」
「橘の計画ですおれは悪くないんだ」
「ちょっと!! なに暴露してんの!?」
ふっ、策士よ。鷹宮の栄女にかける思いを測りきれなかったようだな。
こいつの狙いは最初から彼女を作ることだけだ。
「たしかに……女で、しかもモテモテの奈々にはこの思いがわからないかもな」
「も、もてもてって……別に、私は……」
急にもじもじし出す。
こういう情緒不安定力は衰えてないんだよなあ……
「メイド喫茶で合コンしたいってことか?」
「………誰が?」
「奈々が」
「「「はあ…………」」」
「なんだよ……」
クラスが一丸となってため息をつくなんてこと、あるだろうか。
正直居心地が悪い。
「さいはらぁぁああ」
「どーゆーことだ………」
「処すっ……」
一瞬トラウマも聞こえた気がした。
ただ、それもすぐにかき消される。
「………とにかく!私もメイドやるけど、慎は執事だからね!!」
「は、はぁ!?」
いまこいつ執事って言ったか!?
いやいや、天鳳からもう話が入ってるなんてことは無いと信じたい。
ふつうに執事カフェだよな?そういうことだよな?
おれは縋るように奈々の顔をみる。
「ふふっ」
ど、どっちだぁぁぁああああ!!??
わかんねえ!!
いや、でも落ち着け。もはやバレたところでのこり一週間で期限が来る。それを乗り越えることができればいいんだ。
つまり、ここはのる場面。
「………わかったよ。賛成だ」
「うん!楽しみ!!」
文化祭までは奈々と関わる機会が増えそうだ。
学校で執事をやるなんて思わなかったが意外と楽しいのかもな。
周りのみんなも集まり出して具体案を話すことにした。
「なんだよ your heart って………」
鷹宮、もちろん決めゼリフは使わせてもらうぞ。
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