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八十三話

 


「なんか疲れてない?」

「え……そう見えるか?」

「釣られたばっかの魚みたい」


 そう言って愛咲は手鏡を渡してくる。


 写り込んだ自分の顔に思わず「おおっ」と驚くくらいにはクマがあった。


 どの辺が釣られたばっかなのかはわからない。あと魚も否定したい。


「そういや朝は気にしてなかったな……」

「蛙って朝に死にやすいのよ」

「魚か蛙かはっきりしてくれる?」


 おたまじゃくしを魚だと思っていいのは保育園までだぞ。たぶん。


「新しい曲のせいよね…… 私も考えたんだけど夏!!って感じのがやっぱ欲しいと思う」

「…………まあ、おれも同じだ。そんでちょっといいメロディーがあってさ」


 ポケットからスマホを出して動画を再生する。

 おれたちの卒業式の歌、つまり昨日カラオケで歌ったやつだ。


「あ、これ知ってるわよ」

「なら話が早い。ここをちょっと変えたらいけそうじゃないか?」

「盗作って言葉知ってる?」

「当たり前だろ」


 ごもっともだが、愛咲もそろそろ気づくはず。


「あれ……『春風(はるかぜ)』に似てる!!」

「だろ?」


 春風は愛咲春の代名詞とも言える曲だ。

 最近もネットの動画サイトで少しずつ再生回数が増えてきているがまだまだといったところか。


 バラエティで毒舌アイドルとしてデビューしたために、まだアイドル活動の方にはそれ未満の影響しか来ていない。


「文化祭で春風をリメイクする」

「……この卒業ソングを出した意味は?」

「たぶんこのメロディーって万人ウケなんだよ。だからこそおれたちでもなんとか作れるんじゃないか?」

「うーん………まあ、やってみる価値はあるわよね」

「そうこなくちゃ」


 愛咲もやる気が出てきたみたいだ。

 少し、光が差してきた気がする。


「これが完成しても残り2曲かー……あ、いっそのこと才原歌えば?」

「おれの49点ボイス聞きたい?」

「あんたにも苦手あったのね………」


 苦手じゃなくて妨害されただけだ。


「……ま、そこらへんもなんとかなるかもだ」

「ポンコツのくせに?」

「頑張ってるマネージャーをもっと労われ………」


 とにかく今は愛咲の気分を上げることが重要だ。


「水曜にホテル来れるか?」

「え………?」

「この前きたおれのホテル」

「は、はぁぁあああ!?あ、あんたなに言ってんの!?」


 ………また順序間違えたか。


「曲で話したいことがあるんだよ。ホテルなら夜までいても大丈夫だからな」

「………なら、また家……くる?」

「え?」

「お母さんたちも会いたいらしいし……」


 愛咲の家、ね。


 本当はそもそもホテルで話すことでもないんだけど……


「そう……だな。そうするか」


 この際ホテルより都合がいいかもしれない。


「わかった。連絡しとくね」

「おう」


 なんとなく抵抗もなくなってしまった。それだけ話しやすい親だったんだろう。


 とりあえず、この後は収録があるが………


「………そろそろだと思うんだよな」

「なにが?」

「どうせやるなら最高の文化祭にしたいだろ?その内の一つが今日発表なんだ」

「え……なによそれ!! 私聞いてないんだけど!!」


 そりゃサプライズだからな。いま言うのもどうしようかと思ったくらいだ。


「そろそろ14時。見るぞ」

「動画がアップされるってこと?」


 愛咲のとなりに座って持ってきていたパソコンを開く。


 やっぱり大画面で見るだけで迫力が違う。


「よし、上がってる。これだ」

「三光高校文化祭…特別ゲスト!!??えっ、しかもこの事務所って……!!」


 動画の再生が始まる。











「––––––お前と違ってアイドルじゃないけどな?」





『皆さんこんにちは!NAFORIA所属の天音麗花です!』



 その中心に立つのは雑誌の表紙を飾る人気モデル。


 そう、これがさらに盛り上げるもう一つのブースターだ。


「嘘でしょ……!?」


 驚く愛咲を置き去りにして動画は進んでいく。


『最近愛咲春さんっていうアイドルが三光高校の文化祭に出るって話題になりましたよね?』


『私もその文化祭参加させてもらいます!!!』


 動画内では花火だったり虹だったり、いろんなエフェクトが使われていた。


 愛咲に一回こういうのを作るのもアリかもしれない。


『私は高校3年生なので、最期の文化祭でアイドルと一緒になれるなんてとても嬉しいです』


『私自身興味があったのもありますけど、三光高校やMOXさん……特にそのマネージャーさんの想いに感化されました!』


「………い、いつから……??」

「最初っから」


 そう言って笑ってみせる。


 最初といっても愛咲はおれと麗花が繋がってたことなんて知らないだろうが、まさに最初から、奈々にフリをするように言われた時からだ。


 ここで使わないでいつ使うのか。


 お互いに知名度を一気に上げられるチャンスだ。

 NAFORIAも逃すはずがない。


「あんたの頭の中どうなってるの……?」

「意外とすごいだろ?」


『私はモデルなのでこの前のイベントのようにちょっとお話しをしたり、それから皆さんとツーショットなんかも撮れたらなと思ってます!』


『第30回三光高校文化祭!!!盛り上がっていきましょーーー!!!!!』


 そこで動画は終わる。


 再生回数はすでに1000を超えていた。


「死ぬほど盛り上がるから覚悟しとけよ?」

「ほんっとに……このマネージャーは………!!!」


 愛咲もさらにヒートアップしてきた。


 どれもおれがいたらの話だが正直、今までとはレベルの違う文化祭になる確信がある。



 楽しみで仕方ないな。


あるかはわかりません。

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