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七十九話

 


「あの、大丈夫ですか?」


 その女の人に気づけば声をかけてしまっていた。


 あの人もこんな感じだったのかな。


「……はい。大丈夫です」


 力のない声で答えられても説得力はない。あの日の自分が思い出されるみたいだ。


「保険室とか行きますか?」

「……っ……いえ、もう大丈夫ですから。それじゃあ…」


 そう言って彼女は走って行ってしまった。


 保健室、っていう言葉に反応した気がするのは気のせいかな。


「まさか、ね………」


 そんなことないと思いつつも、しっかりと顔は覚えておく。

 それから私は保健室に向かった。





「慎大丈夫ー?」

「……誰のせいだと思ってんだよ」

「あはは。ごめんってば」


 声の聞こえたほうのカーテンを開ける。


「……顔色悪くないね」

「2時間も寝てたらしいからな」


 起きたばっかなんだろうか。

 ちょっとうざそうにしてるけど寝癖のついた髪が逆に可愛い。


「てっきり沙雪ちゃんがお見舞いに来てるかと思ったよ」

「そんな暇じゃないだろ、あいつも」

「それだと私が暇人みたいじゃん」

「元凶が来なくてどうする。お前は確定だ」


 ……これは、ちょっと怒ってるかな……?


「私だってまさか気絶するなんて思わなかったんだよ?それに断ったのが悪いんだからね!」

「……まあ、こんどは付き合ってやるよ」

「え……それって……」

「おい違う。ふつうに遊びに付き合うって意味だからな?」

「………はぁ、慎だもんね」

「なんでため息だよ」


 当然といえば当然。

 まだ慎は私のことを好きじゃないんだから。


 なのに期待しちゃうとか………ばかか私は。


「次の授業は出れそう?」

「今日はサボるかな」

「最近サボり癖ついてきたよね……」

「……やっぱそう思う?」


 今月は急に増えたよ。

 怪しいバイトのせいなんだろうけどさ。


「あ〜私も寝たいな〜」


 なんとなく近くに寄りたかったからベッドに倒れるようにして乗る。


「ちょっ」


「–––––んむっ」


「え?」


 …………………ん?


「……なんかさ、いま……」

「急に足らへんに乗るからへんな声出たな……」

「そう、だね…………」


 少し体勢を整えて、私は慎を見つめる。


「どうした?」


 これは………………










「えいっっ!!!!」


 私は布団を一気にめくった。


 しかし、



「……め、めくれない……!?」


 少し上がるもそれ以上動かないのだ。

 まるで何かに引っかかっている、または抑えられているように。


「びっくりした………いきなりなにやってんだよ」

「ちょっと慎! 一回出てよ!」

「まだだるいから寝てる。だから退いてくれ」

「ぬぬぬ………」


 この顔………間違いない!!!


「だれか………ううん、沙雪ちゃんいるでしょ!!!」

「いるわけないだろ?靴もないし」

「そうやってすぐ靴とかいうの怪しい!」

「ええ………」


 こんなことしそうなのは沙雪ちゃんだけだ。


 かくなる上は………


「えいっ!!」


 むに。


「ほら! なんか柔らかいけど!?」


「いったいよお!!」


「え………」


 もぞもぞと布団の中が動いたかと思うと一気にめくれ上がる。


「奈々先輩のばか! えっち!」


 ちょっと怒りながら、顔を赤くした沙雪ちゃんが顔を出した。







  ––––––––––––––––––––––––––––––







 ………なんでこんな時に限ってバレるんだ………


 おれの寝ているベッドの上で向かい合う2人の女子を見ながら、そう思わずにはいられなかった。


 そもそもこんなことになったのは執事の話になった時。



  <<<<>>>>



「執事ってどういうこと?」


 当然そういう質問になるよな。


「だれかクラスのやつが来るかもしれない。とりあえず布団から出てくれ」

「バレなければいいんだよね?」

「…………お前だと絶対バレる」


 間違いなく。むしろ自分からバラしていきそうだ。


「ふんだ。先輩の言うことなんか聞かないもんね」

「待てって」


 またもぞもぞしたかと思うとその手には靴が。


「これでバレない」

「じゃねえよ」

「いたっ」


 そのしてやったぜ、みたいな顔はやめろ。


 なるべく執事の話はしたくない。

 だからといってここを見られるのもな………


「"お願い"使うね」

「1日3回分は禁止!!」

「休み時間終わるまでこのままだよ〜」


 天鳳はもっと近くに潜り込んできた。どうやっても出て行くつもりはないらしい。


 ……どうする?休み時間終了まであと10分くらいか?


 "お願い"はのこり……5回……。


 きくべきか、断るか…………でも………



「………わかったよ」


 おれは話すことにした。


「えへへ。じゃあ話して?」

「………そんなすごい話でもないからな?」


「あれは–––––」



  <<<<>>>>




 そんな感じで潜り込んできた天鳳を追い払えなかったからだ。

 いや、正確には追いはらわなかったかもな。


 どちらにせよこの状況、間違いない。


 おれのすることは一つだ。


「なんで沙雪ちゃんがこんなとこに??」

「どこにいたっていいじゃん。奈々先輩こそどうしたの?」

「私は慎のお見舞いに来ただけだよ………なんで布団の中にいるの!!」

「ふふっ、あったかいよ?」


 2人が喚きあってるうちに、こっちに捲り上げられた布団に体を隠す。


「沙雪ちゃんさ………なんのつもり?」

「奈々先輩には関係ないよ?」

「じゃあいいよ。慎に聞くから………どういうこと?」

「先輩〜別に答えなくてもいいよお〜」


「………………」


 なにも音はしない。


 そして布団がまためくりあげられる。


「………え?」

「……いつのまに……」


 そこにはだれもいなかった。


「慎………逃がさないからね!!」

「あ、あたしも探しいこ〜っと」


 2人はすぐさま保健室を後にした。




「………やっといったか………」


 安堵のため息をつきながら、おれはベッドの下から体を出す。


 どうやらうまくいったようだ。

 こんなとこで問い詰められたらやばいからな。


「はあ〜、疲れた………」


 そのままベッドに横になるとさっきとは違った匂いがすることに気づく。


「天鳳………か」


 ここ最近、特に話すようになった後輩。


 おれのベッドにまで潜り込んでくる後輩。


 そんな後輩を思い出してしまう香り。



「はっ、気持ち悪い……」



 すぐさま起き上がってトイレに向かうおれだった。








たぶん90話くらいで変化あります。


80話じゃなくてごめんなさい!!


それでも続き気になった方、評価ブクマお願いします!!

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