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七十二話

 


「遅くなりました」

「大丈夫だよ。まだ集合時間前だ」

「才原は………まだですね」


 一足先に着いた私は片山さんと一対一だ。

 MOXに異動したとき以来だろうか。


 ただ懐かしむ余裕はない。


 片山さん相手に余裕なんて生まれない。


「才原が来る前に私だけでも聞きましょうか?」

「そうだねえ………どうしようか……」


 そこまで急ぎの用ではないのかもしれない。


 一体何の話だろうか。最近は調子もいいし、新しいバラエティに呼ばれるとか………


「よし………そうしようか」

「あ、はい」


 私は急いで佇まいを直す。


「まず、これまでの活躍見事だった。愛咲さんのアイドルとしての力、しっかり発揮されていたと思う」

「ありがとうございます」


 ただ次の言葉を待つ。

 世間話をするような雰囲気では無かった。









「–––––今回、君が週刊誌に撮られた」


「…………え?」


 ………週刊誌…………?


「先週の水曜日、フィリーというショッピングモールで高校生と合コンしてたところを撮られた、ということだ」

「………うそ…………」


 才原たちと遊んでたところを……撮られた……?


「急なことだけど載るのは明日だ」

「そ、そんなのどうしようもないです………!?……どうして………学校からつけられてたってこと………?」




「つけられていたかどうかはわからないけど………君の友達が情報提供したみたいだね」

「え…………」


 一気に血の気が引いた。


「変装してたら確証が取れないからね。友達が証言したみたいだ。『愛咲春』で間違いないと」


 誰かが私を売った………?

 みんなのうちの誰かが………私を………


「なんで………………?」


「お疲れ様です」


 そこでなにも知らされてないだろうマネージャーが入ってきた。

 こいつは自分の気遣いでこんなことになってしまったのを耐えられるんだろうか。


 できれば伝えたくない。


 才原に……こんなこと…………


「っ…………さいはら……」

「なんだよ…………お前すごい顔して––––」

「どうしよう………私っ……」

「………とにかくこれ見ろ」


 才原は私の目の前に冊子を投げた。


「これ……………台本?」

「おう。あしたお前がやる。MOXのホームページで生放送だ」

「……なにそれ…………そんなこと–––––」


「–––––いいから。読んでみろ」


 才原は有無を言わせないといった目で訴えてきた。


 私は震える指でページをめくる。


「…………え、これって………」











  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––










「才原体調悪そうじゃん。どうしたよ」

「悪そうじゃなくてほんとに悪いんだよ………」


 昨日から一睡もできていない。

 顔色も酷いだろう。


「おい、愛咲春ってアイドル合コンだってよ」


 ただ、その話題は逃さなかった。


「聞いたことないけどやっぱやってんだな〜」

「おれ知ってるぜ。この前バラエティ出てたし」


 廊下から聞こえてくる声によると認知度は半々といったところか。

 高くなってきた気もするな。


「MOXのホームページで生会見だってよ! 見ようぜ!」


 おれもその野次馬になることにした。


「鷹宮、これ知ってるか?」

「ん………へえ〜合コンか……………ん?」

「おれも今気づいた」

「これ………俺たちじゃんか!!!! え、あの中にアイドルがいたのか!!!」


 おれもそっち側だったら同じ反応するな。普通ありえない。

 制服と顔はボカされていて完全に特定は難しいだろうが、当事者のおれたちにはすぐわかる。


「愛咲春……え、春ちゃん!!??ま、まじかよ!!!」

「おれも話してた。やばいぞこれ」

「こ、こうしちゃいられねえ!!」


 鷹宮は急いで小林を呼びに行ったため、おれは文化祭準備メンバーのグループトークを使って残りのメンツも廊下に呼び出した。






「これ現実かよっ!!??」

「慎、この記事は確かなんだな……??」

「間違いない。お前も知ってる有名どころだろ?」


 この高校でも買ってるやつはいるし、なんなら近くのコンビニで立ち読みするやつが一番多いな。


「まだ誰も俺たちだとは思ってないぜ………」


 小林は額に浮かぶ汗をぬぐって笑う。

 ドラマのワンシーンみたいだ。


「これ、言ってもいいのか……?」

「始まるぞ」


 おれの一言で全員の目がスマホに向かう。


『MOX在籍の愛咲春です』


 その目には一切の迷いも、不安も、悲しみもなかった。


『今回の週刊誌の件ですが、あれは断じて合コンのような不埒な目的で行ったものではありません』


『私は会議をしていただけです』


 この発言におれ以外の4人は顔を見合わせる。

 だが、おれの視線は動かない。


 ただ少し笑みがこぼれただけだ。


 自分の有能さに。




  <<<<>>>>





「–––––これって……否定するってこと………?」

「もちろん。お前は合コンなんてしてないからな」

「そ、そんなの……だって……友達がバラしてるのよ!?」

「それは違う。おれが凛に頼んだんだよ、リークするように」

「え………?」


 意味がわからないって感じだな。


「最近、おれたちのことを嗅ぎまわってるやつがいたんだ」

「………週刊誌に目をつけられてたってこと?」

「多分MOXにも内通者的なやつはいると思うが…」


 そこで片山さんに視線を移す。


「僕は当然リークするメリットがゼロだし、周りでもまだそんなことは聞いていないよ」

「……まあ相手が誰かは置いておいて、鬱陶しいことに変わりはない。そいつを対処するためにまずおれは原に連絡した」

「は、原ってあいつ!?」


 当然そういう反応になるだろうとは思った。

 襲われたわけだしな。


「こっちが命を握ってるからな、簡単に週刊誌に愛咲がフィリーに来るってことをリークしてくれた」


 あの日の天音麗花に関係した取引は本命じゃなかったってことだ。


「そんで週刊誌の記事が写真を撮る。でもお前変装してるから確信持てないだろ?だから凛を使って週刊誌に情報提供してもらったんだ」


 自分で情報提供しようとも思ったがマネージャーだとバレたら元も子もない。

 なるべく近くにいて信憑性を高められる、そしておれの意図を理解してくれるくらい頭がキレる人物、それが凛だった。


 ドリンクコーナーですぐにMOXの社員証を見せて愛咲のマネージャーであること、週刊誌に現在進行形で撮られていること、愛咲本人だとリークしてもらいたいことなどすべて話した。


「私だと確定させたら記事が出るのは間違いないわよ………?と、とりあえず最後まで話してよ…!!」

「わかってる」


 おれは椅子に座って一息つく。


 頭を整理させながら話さないとな……


「………えっと、それで凛には愛咲春がいたってこと、楽しく話していたことだけ伝えてもらった」

「事実だけ………そんなことだけで週刊誌は満足するの?」

「もっと欲しいかもだけど、まず一つ。おれは原に締め切りがギリギリのところにリークしてねじ込んでもらった。だから記事を書く時間がなさすぎて凛の話を突き詰めていく余裕もなかったはずだ」


 だから深掘りはされていない。凛本人からもメッセージで確認した。


「そしてもう一つ。お前は毒舌アイドルで人気上昇中。そんなやつが合コンしてるってだけでイメージを壊すには十分だ。本人確認すらできていればもう週刊誌としてはお腹いっぱいだろ」

「なるほど………」

「そんでここからどうやって否定するか、そもそもなんで週刊誌を呼んだかだが………」


「もし、自分達が自信を持って出した記事が間違っていたら?完全に否定されたらどう思う?」

「それは嫌でしょ。特に記者の人とかその出版社のみんなが派手に動けなくなると思う」

「そのターゲットをもう一回狙いたいと思うか?」

「よっぽどのことでもない限り嫌よ………そういうことなの?」


 ここは簡単に伝わったな。

 そう、リークした理由はシンプルにただ一つ。


「これから先、当分の間手を出させないためだ」


「前回は写真っていう形で先手を取られたからな。今回はおれがリークしておれが叩き潰す。二度と先手はとらせない」

「1人でよくもまあ………でも肝心の否定する方法は?どんな手が残されてるのよ……??」


「それはな–––––」




  <<<<>>>>




『私は会議を円滑に進めるために話していたわけであって、目の前の男性に好かれたいからなどの理由ではありません』


「会議なんておれたちしてねえぞ……??」


 そう言う鷹宮の気持ちも分からないでもない。


 だけどな、切り取り方で、捉え方次第で状況は全く別物に変化するんだ。

 それこそ真実を捻じ曲げてしまうほどに。


『私はその会議で、あることを決めました。今日この場を借りて言わせてもらいます』


 周りが、教室までもが静かになる。

 気づけば多くの生徒がこの生放送を見ていた。



 言ってやれ愛咲。


 さっきまでグチグチ言ってたやつらを圧倒してみせろ。












『––––––私、愛咲春は来月行われる三光高校の文化祭にゲストとして出演します』





 数秒後、この年1番の怒号が響き渡った。





文化祭編決定!!!!かもです笑笑



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