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七十一話

 



「おはよう奈々」

「あ、慎……おはよ」


 少しこっちを向いたかと思うとすぐに目をそらす。

 表情を隠す余裕もないらしいな。


「体調悪いなら欠席したほうがいいぞ?」

「ううん、大丈夫だよ。それより服。妹ちゃん喜んでくれた?」

「ああ。発狂してたよ。お前のおかげだ」

「ならよかったよ」


 全然良さそうには見えない。


 いっそ踏み込んで質問するべきかとも思ったがそこでスマホが鳴る。


「悪い。電話だ」

「うん」


 奈々はそのまま教室を出て行ってしまった。


 タイミングの悪い電話だな……


 だが名前を見て一瞬で気が引き締まる。


「もしもし」

『久しぶり、というわけでもないが……おつかれ才原くん』

「そうですね……片山さん」


 約1週間ぶりの片山代表からの電話だ。

 間違いなく重要なもの。


「どうしました?」

『それがね––––––』

「…………なるほど」


 想像通り、ふつうの話なんかじゃなかった。


「ここでするのもなんです。今日の夜向かいますね」

『わかった。君がそれでいいならそうしよう』


 ここで無駄話をしないのもさすがと言える。

 誰が聞いてるかわからないからな。


「ではまた」

『ああ』







  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––







「先輩おつかれ」

「お前もな」


 今日も先輩は言う通りに来てくれた。場所はグラウンド。

 陸上部を見学しようの会だ。


「今日は梨とオレンジ。どっちがいい」

「梨かな」

「おっけ」


 ぽいっとなげられたカップ型のアイスを受け取る。


 最近はずっと暑いからアイスがなくちゃやってられないんだよね。

 全部先輩の奢りだけど。


「やっぱ放課後の方が美味しく感じるかも」

「この前、2時間目休みの時は中途半端だったよなあ」

「先輩が放課後遊べないって言うからだよ?」

「"お願い"聞いてるだけ有難く思いなさい」


 まあそれはそうなんだよね。


 ロッカー全部開けて合計16回分の"お願い"をあたしに許しちゃうなんて、たまに間抜けなんだよなあ。

 きょう使ったのを考えるとあと9回もある。


「なにニヤついてんだよ」

「うん?先輩にあと9回も使えるってすごいなあって」

「16回ってやっぱ多かったな………」

「先輩気になったロッカー絶対開けるもんね?」

「そんな習性ない」


 それがあるんだよね、とあたしは心の中で呟く。


「あたしと最初会えた理由、その習性のおかげなんだよ」

「……ああ、そういうことか」

「えへへ。思い出した?」

「まだ2ヶ月くらいしか経ってないんだよな」


 先輩はもう空になったアイスのカップを見ながら思い出してるみたい。変なの。


「天鳳グループって知ってたらしいけどな」

「あたしが言わないと思ってたんだろうね。あはは」

「ロッカーに閉じ込めて鍵閉めるはどう考えてもやり過ぎだろ」


 吐き捨てる感じで言う先輩。

 あたしのために怒ってくれてるのかな……?


 ちょっと嬉しい。


「3人がかりだったし、逃げるなんてダサいって思っちゃってさ。つい煽っちゃった」


 えへへ、と舌を出して笑うあたし。

 今となっては怒りなんて湧いてこない。


「テニス部に入るやつがいるとは思えなかったのに3人も、それも女子が部室から出てくるのを見たらな」

「あの時結構焦ってたよねあたし」

「それにしては音がしなかったけど」


 煽った結果閉じ込められて怖かったなんて言えない。

 かっこ悪いにもほどがあるよ。


「でも、鍵なんて普段はかけないから気になって開けて、そしたら天鳳がいた」

「感動の再会だったよね」

「お前理論だと体育館のやつが会ったことになるんだもんな……」

「あたしも先輩もお互い目が合ってそれを覚えてたんだから十分十分」


 やっぱり金髪は目を引く効果があるらしい。


「そんでおれとちょっと話すようになってテニス部に入部、今に至るわけか」

「なんか浅いね」

「内容は濃いとも言える」

「あ、濃いって言ったらさ––––––」




 その後も陸上部の練習を背景にどうでもいいことを語り合った。


 1時間くらいたって先輩は立ち上がる。


「今日の夜バイトでさ。そろそろ一旦帰りたいんだ、ごめんな」

「ううん。楽しかったよ。また明日ね」

「おう。あ、あとさ土曜日暇か?」

「え、うん。多分……」

「じゃあそこでカラオケ行こう」

「え………?」


 カラオケって前行こうって言ってたやつだよね。

 でも、土曜日って……


「カラオケは"お願い"じゃなくていいよ。おれからも頼む」

「え、せ、先輩が………!?」

「ああ。何気に休日会ったことないよな」

「それって………」


 デートだよね………?せ、先輩とか……


「大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

「おっけ。そんじゃまたな」

「ばいばい」


 なにもなかったかのように帰って行ってしまった。


「意外とちゃらい………」


 さっきも3年生の人とプリクラ撮ったって言ってたし、前は綺麗な人とタクシー乗ってた。

 あたしとも遊んでるけど他の人とも思ったより遊んでるのかも。


「むぅ……」


 あたしは何かいい"お願い"がないか考えることにした。



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