六十八話
「まあ、そんな感じで痴漢から助けてあげたんですけど家に帰ったら父親が帰ってきてて………」
「そんなことがあったんですね………だからあの程度の相手は怖くもない、と」
「面白かったですよ? 中学生の時も女の子に夢中だったんですね」
「夢中じゃないですから。………普通の一般人であんなに圧力があったんで正直本筋の人が出てきたら先輩を守りきれないんですよ。ビビるかもですし」
今日だけじゃなくこの前のナンパのやつも弱すぎただけだ。
痴漢であれなら本当の喧嘩ができるやつは手に負えない気がする。
「お父様にも何か言われたんですか?」
「そのせいでいつまでも頭にチラつくんですよ………『親友を作れ』って」
「親友……」
何度考えてもわからない。仲のいいやつはいっぱいいる。
それは置いといてもあの場でいたら何か違ったのか………?
「私はなんとなく分かりますよ」
「彩香さん………聞きたいですね」
おれと先輩の真剣な目をみてから口を開いた。
「痴漢の時にいても大した差はなかったでしょうね。そうではなくて才原様が誰にも伝えず、実行した。そして成功してしまったことに危機感を覚えたのだと思います」
「………痴漢の時はただのきっかけ、みたいな感じですか?」
「はい」
そのまま彩香さんは続ける。
「才原様は基本なんでも出来るんじゃないですか?」
「なんでもとは……」
「私ですら今日までの訓練を見てその有能さ、スペックの高さを感じました。生まれた時から一緒にいるお父様は余計そうでしょうね」
たしかに現に今、執事とマネージャーをこなしている。やり遂げるだけの自信もあった。
「なんでも1人で出来てしまう才原様になんでも頼れる友人を作って欲しかったんですよ。私はいまの話を聞いて確信しました」
「確信って………」
「私もです」
「せ、先輩もそう思うんですか……?」
2人が言うならそんな気もしてくる……
「でも、なんでも出来るなら頼ることはないと思うんですけど」
「「それですよ」」
ここらしい。
「危ういですし、どんな状況でも頼れる相手がいるだけで全く違います。慎はそういう相手を今から作るべきです」
「………親友ねぇ」
そんなやつがいたらいまの状況もすでに解決されていたりするんだろうか。
無理だな。
「ま、おれの話はこんなところですよ。父親にたまにこうやって言われるんですよね」
「いい人ですよ。慎のお父様は」
「………どうなんですかね………あ、ちなみに先輩のお父さんはどんな感じなんですか?」
今まであんまり家族の話はしなかったからな。
「……あまり仲良くはないですね」
「……そうですか」
触れない方が良かったっぽい。彩香さんもちょっとポーカーフェイスしてるし。
「家にもあまりいませんし………来月の初めに帰っては来ますが」
「海外で仕事してそうですね」
「そんな感じです………もっと遅くていいんですが……」
「意外と毒吐きますね……」
「あはは、たまには吐きます」
いつかおれも会うんだろう。
どんな人かな………めちゃくちゃイケイケかもしれない。
「あ、それよりプリクラ行きましょう! 彩香さんお会計お願いします!」
「かしこまりました」
やっぱメインは忘れないようだ。
マッキーオススメの最新機種に行きますかね、
「こ、これがプリクラですか………!!」
「女子高生って感じがしますよね」
さっきのゲームセンターとは違って女子高生の多いところへ入ってきた。もちろん最新機種に並んでいる。
「あ、空きましたよ。入りましょう」
「お、おお〜こんな感じなんですね……」
「後ろにも人いるんですぐやりましょうか」
おれは慣れた手つきで操作していく。
それを先輩が眺める形だ。
「これで完璧です。先輩、まえみてください」
「うわぁぁああ………!! すごいです……!」
「ははっ先輩が喜んでくれて嬉しいです。ほらとりますよ」
「は、はいっ」
そして約10分後、ついにプリクラが出てきた。
「データでもありますけど、はい! プリクラです」
「あ、ありがとうございます……」
そこに映るのはこの前撮った写真よりもずっと加工されていて、いっそ不自然なくらい整った2人だった。
「あはは!これ加工すごいですね!!」
「ほんとに! 前のよりも偽物っぽいです!」
「………でも、すっごい嬉しいです……」
先輩は小さなプリクラを大事そうに両手で持って笑う。
「このプリクラ、一生大切にしますね!」
「おれもそうしますよ」
「ふふっ、今日はとっても楽しかったです!」
「エスコートしたようなしなかったような………まあ、楽しんでくれたなら良かったです」
まだ昼過ぎだが今日はここでおしまいだ。おれに用事ができてしまったからしょうがない、と先輩は許してくれたからよかった。
「それじゃあ帰りは電車で帰ります」
「はい。今日はありがとうございました」
「才原様もまた」
おれに軽くお辞儀をして彩香さんと先輩は歩いて行く。
それを見届けておれも駅へ向かった。
「ただいまー」
約2週間ぶり、いやこの前戻ったから1週間ぶりか。
天音にはサプライズのつもりで連絡も全くしてない。ただ麗花の服をあげることは伝えてあるから帰ってくるのを待っててくれるかな、なんて思ったりも、
「………いないのか?」
靴はあるけど……まあ天音なら昼下がりから寝てることもあるか。
とりあえず自分の部屋までいってドアを開ける。
「…………は?」
だが、おれは思わず服やカバンを落としてしまった。
なぜならそこには変わり果てた妹がいたから。
––––––おれのパンツを履いた妹が。
久々の妹です