六十四話
久々の登場です
「そりゃ驚くよな。高校2年がアイドルのマネージャーでそのアイドルもある程度知名度のあるやつだし」
「高校生がなれるの………!?」
「おれの場合、片山代表が絡んでるからな。その辺はうまくやってる」
「なっ………なにそれ……!?」
片山さんと関わってる人なんてそういないだろう。
でもここに社員証はあるわけで、それが何よりの証拠だ。
「なんならメッセージのやり取りも見せようか?」
「っ、そうだね……そこも細かく見させてもらおうかな」
「わかった」
流石に見られたくない部分もあるため渡したりはしないが見えるようにスライドしていく。
「ほ、ほんとみたいだね………」
「ああ」
この話をしたのはMOX外では初めてだ。
なにより、片山さんとの繋がりを教えるのはかなりのリスクがある。そこがバレたら芋づる式に執事や借金のことまで引っ張られるかもしれない。
ただ、そうまでしても少しでも手段を広げておくべきだ。
「まず色々と不安だと思うけど、おれはあんたに危害を加えるつもりはない。いまから話すことを落ち着いて聞いてくれ」
「うん。とりあえずは聞くつもり」
「よし……まずはどこから話すかな……」
「いちばん最初からだよ!! 当たり引けなかったらこんなことそもそも無理だからね!?」
「急に大声出すなよ………」
意外と心の中は乱れまくってるようだ。
喋る場より撮られる場の方が多いから表情は作れても言葉までは難しいのかもな。
「まず奈々……彼女にこのイベントに誘われたんだ。それでちょっと調べてみたらあんたが予想以上にすごくて愛咲と組んでくれたら面白そうだなって思ったんだよ」
「まあ………とりあえずはいいよ。それで?」
「その日の夜にすぐ知り合いに電話したんだ。……まあ名前は伏せるけど–––––」
「–––––顔のきく俳優、だな」
頼んでおいた紅茶を飲んで、あの日の晩のことを少し思い出した。
「––––––もしもし」
「………何の用だよ」
「別に。調子はどうかと思ってさ」
「はっ、ふざけんな。お前のせいで毎日夜も眠れねえよ!!」
「こんな時間まで起きてるってことは本当みたいだな、原」
「………それでどうした?ついにバラしたってわざわざ報告してきてくれたのか?」
声や話し方の感じからしてこの一週間は結構こたえたようだ。
いつ捕まるか、気が気じゃなかっただろうな。
だからこそこのタイミングだ。
「そうしてやりたい気持ちは山々だけど、違うから安心しろ。これからする話はお前にとってむしろ吉報だ」
「………言ってみろよ」
「もしこの話をお前が飲むならバラすのは辞めると約束しよう。また誰かに手出したらダメだけどな」
「口約束を信じろって言いたいのか?」
「どの道おれには逆らえないだろ。だけどおれは譲歩してる。このままお前の神経がすり減っていつか刺されるかもしれないからな。だから今のうちに和解しとこうと思ったわけだ」
「…………」
返答はない。おれの真意を測ってるってところか。
この感じなら原はあの画像の送信者と関係がないな。
おれが原の犯行を撮った日から大したアクションが無いのを見ると万策つきた、加えてリスクのある行動をできるほどの度胸もないと見るべきだ。
更なるリスクを負っておれのことを家や学校からどんなことまでも調べて脅すくらいの時間はあっただろう。
なら譲歩するデメリットはほとんどない。
「おれとの口約束、信じるか?」
「………なにをやらせたい」
「何個かあるけどな…まずは天音麗花って知ってるだろ?」
「ああ。アイドルからモデルになったパターンだな」
「ははっ、さすが新人狩り。人気出始めの女は大抵調べてあるな」
予想通り、原はその弱みを手に入れようと画策してたはずだ。
「天音麗花の弱みを金曜までに調べろ。……もうある程度は手がかりがあるんじゃないのか?」
「……確証はない。木曜まで待ってくれ」
「十分だ。次に金曜そいつのイベントがあるんだけどどうしてもくじで当たる必要がある。操れるスタッフはいるか?」
「そこは問題ねえよ。NAFORIAには何人かツテがあるからな」
「ははっ!! それなら余裕そうだ」
その後も少し話して夜は明けていった。
「-–––––ていう感じだな」
「は、原さんがそんな人だったなんて………」
あの人気俳優から新人狩りなんて想像もできない。
おれが現に会えてる状況じゃないと信じられないだろう。
「まずはスタッフに椅子の修理を装って当たりのくじを隠してもらった。30分前に離れるからそのタイミングで座ることになってたんだ」
座ってすぐに椅子が壊れていないかじゃなく、くじがあるかを確認してもちろん問題はなかったわけだ。
「それですぐに手のひらにつけてた絆創膏の中に隠した。サイズは確認済みだったからな」
「そのままくじを引くときに中から取り出して、あたかも引き当てたように演じたってこと?」
「ああ」
あの場面でくじを落とすとどれか分からなくなる。だから普通みたいに漁ったりはしなかった。
「それであんたの前に来て、次は絆創膏で隠してあった手のひらのメッセージを見せた」
「私に服を要求した時だよね……手まで出すからそっちを一瞬意識しちゃったよ」
「カフェの名前と時間、それから弱みだけならギリギリ読めただろ?」
「カフェと時間は聞いたりできたし……妹たちの名前は絶対に見逃せないからね」
そう、天音麗花の弱みは木曜の朝しっかり送られてきていた。
「あんたは妹たち、家族のために仲間を捨てたんだな」