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六十三話

 


「ばいばい」


 私の声は聞こえたかわからないけど慎の気持ちはわかってしまった。


 今日のカップルのフリはもちろん、天音ちゃんに伝わってる。私が言わなくても慎がフリをしてくれる理由が天音ちゃんならすぐバレちゃうからね。


 先行予約は私の名前だから天音ちゃんが行くことはできない。私が行っていいかわりに、なんとしても情報を手に入れてねということだった。


 でも私はそれを無視してただ楽しんだ。

 もしかしたらこれが唯一慎とカップルでいられる時かもしれないから。


 結局、今のカフェで慎に断られた時わかっちゃったんだ。


 私のことを好きじゃないって。


 慎は自分の気持ちに結構素直だと思う。照れながらも本当に好きなら「してほしい」っていうはず。


 でも言わなかった。


「2週間……いっぱい話したんだけどなあ……」


 忙しそうな時でもわざわざ話しかけて特別棟まで尾行したりもした。

 でも天音ちゃんに話せる情報なんてなにもないし、このままバラされて終わり。


「……慎になんて言われるんだろ………悪口言われたら、流石に泣いちゃうなあ……」




 私は家に帰る気にもならず、その場で立ち尽くしてしまった。








  –––––––––––––––––––––––––––––––––––









「あれ、あの子は………」


 少し急ぎながらも目的地に向かっている途中で私は見覚えのある女の子を見つけた。


 カフェの前で誰かを待っているようには見えない。

 様子もちょっと変だ。


「ねえ、大丈夫?」

「え……あ、はい。大丈夫ですよ」


 そう言って笑う顔にはあの時の明るさなんてかけらもなかった。あるのはただの悲しみだけ。


「何かあったの?………えっと彼氏とかは?」

「あはは、彼氏なんていないですから」

「え……?」


 そんなはずはない。だってさっきまで彼氏と一緒に私のイベントに来ていたんだから。


 でも、嘘を言ってるようにも見えない。


「君……今にも死にそうな顔してるよ?」

「……そんなこと……」

「ある。ほぼ初対面の私に言わせるんだから間違いないよ」


 こんな子をほっておけないし、私としても気になることがある。


「これ、私の連絡先」

「………え?」

「人生そう簡単に諦めちゃだめだよ」

「別に諦めてるわけじゃ………ただもう無理で……」


 今まで何人こういう子を見てきたんだろう。

 こんな時、元気にさせてあげたい。


「なら私の歌を––––––」


 そこまで言いかけてすぐにやめた。


 違う。私はもうアイドルじゃないんだ。

 今の私にこの子を元気にさせる力なんてない。


 自分の無力さに、あの時の信念が揺らぐ。


「………私でも話し相手くらいにはなれるよ。だからいつでも話しかけて」


 こんな軽い言葉しか言えない自分に心底怒りが湧いた。

 きっと、永遠に続く怒りが。


「…………うん」


 私の連絡先を登録してくれたのを見て少し安心する。


 でも、逆に言えばこんな見ず知らずの人を頼ってしまうほど辛いのかもしれない。


「ごめんね。私行かなくちゃいけないから。すぐ連絡返すからね!」


 私はそんな女の子を置き去りにしてまた走り出す。


 自分の決めた信念に従って。








「ここ、だよね……」


 数分して"箱カフェ"と書かれた看板を見つけた。


 軽い説明がされていて、他の人と一切会わずにゆったりと楽しめるカフェらしい。

 私のようなモデルには適しているがそれ故に入るところを見られやすい。


 しっかりと人がいないことを確認して入った。


「あの待ち合わせしてる人がいて……」

「はい。ご予約いただいています。天音様でよろしいですか?」

「はい……そうだと思います」

「すぐそちらの3と書かれた箱に入りください」


 店員さんの言う通り入ってみると、そこには質素ながらにも丁寧な装飾が施された部屋が広がっていてこれで防音性もあるなら大人気じゃないかと思ってしまう。


「きたか」

「っ………」


 視界の右端に高校の制服に身を包んだ男の子が座っていた。

 別になにをしているわけでもないのに少し緊張が走る。


「盗聴器とかはどこにもなかった。まあもともとそんなつもりもないしな」

「……………」

「サングラスとかもとっていいよ。話はそれからだ」


 さっきステージで私と話していた時とは雰囲気が違う。

 私はその不気味さを感じながらも変装をとって正面に座った。


「改めて、才原慎だ。よろしくな」

「………天音麗花……よろしくできるかは話によるかな」


 ただ、私はこの男の正体を見極めないといけない。逃げてはいられないんだ。


「あ、まずだけどお前を脅すとかそういうつもりは全くない。ゼロだ」

「………どういうこと?」


 あんなものをチラつかせておいてにわかには信じられない。


「ただ協力してほしいんだよ。愛咲春と」

「愛咲春って………たしかアイドルだよね?………私はモデルだし、そもそもなんで君が……」

「あ……出し忘れてた……!」


 急にカバンの中をゴソゴソしたかと思うと一枚のカードを出してきた。どこか見覚えのある………


「これって………!」

「おれMOXの社員なんだ。ちなみに愛咲春のマネージャーでもある」

「え……えええ!!??」


 な、なにがどうなってるの……!?


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