六話
「あ、ありがとぅ、、、」
頬を赤く染めた毒舌女に上目遣いでお礼を言われたことは流石にない。
ただそんなことがどうでもよくなるくらいに、おれは彼女に見惚れてしまっていた。
「……………っ」
言葉が出てこない。
「な、なによ。なんか言いなさいよ!!」
「あ、いや、その、、どういたしまして、、、」
「なんであんたが照れてんのよ!!」
「は、はぁ!?照れてないし!!お前がお礼なんて言うから驚いただけだ!!てっきりまた死ねってくるかと思ったねおれは!」
「私だってお礼くらい言うわよ!とにかく!あんたの手腕はまあ少しなら認めてあげるから!」
「なんでそこはいっつも上からなんだよ、、、」
いつだってブレないようで、、、
まあ、そんな彼女のおかけでおれも気を取り直せた。
「とりあえず、これで愛咲のデビューは最高の形になったんだ。きっといろんな番組の声がかかり出すと思うしこれから忙しくなるぞ」
「望むところよ。今日のことは一生忘れない気がするわ。」
「おれもだな。っと悪い!おれもうチェックインしないとホテル泊まれなくなっちゃうんだ!てことでまたな!」
「えっ!!ちょっとどういうことよ!!」
愛咲の声を無視してエレベーターに全力疾走。
今日は無視して走ってばっかだなあ。
「ってなんでお前もいるんだよ!!」
「あんたが急に走るからでしょうが、、、!こっちはヒールなのよ??」
どうやら愛咲を振り切れなかったらしい。
てかヒールで追いつくってやばくね?
「お前他の出演者と話したりしなくていいのかよ」
「そんなの今日はいいのよ。それより大事なこと気づいちゃったし」
「へぇ、、、枕とか言わないよな?」
「死ねば?」
3時間前となんら変わらない殺意を向けられたんですけど。
まじで関係築けてない説、、、
「じゃあなんだよ」
「ん」
ポケットからスマホを出してきた。
「スマホがどうした?あ、写真撮っておいたってことか!!なるほどなあ。あとでSNSにあげれば効果まちがいなすいません冗談です」
また殺されそうだった。
「ん!」
「だからスマホがどうしたんだよ、、、」
「なんでわかんないのよ!!!ふつう女がスマホ出したらやることなんてひとつでしょ!?」
「自撮りしか思いつかないんだが、、」
「れ・ん・ら・く・さ・き!!!!交換して」
「え?」
「だから連絡先!!私のマネージャーなんだから知ってないとおかしいでしょ!」
「ああ!そういうことか、、最初からそう言えよな」
「ふつうこういうのは男が察して先に言うものなの。自分の経験の無さを私に押し付けないで」
「なんでおれこんなディスられんの、、、」
もはや恒例のような会話をしながら連絡先を交換した。
「才原、、、って言うのねあんた」
「え?そうだけど、、、あーーもしかしておれ名前言ってなかった?」
「やっぱり忘れてた、、、。自分の名前言わずによくアイドルのマネージャーなんてこなせたわね。」
「う…さすがに名前言い忘れてたのはやばいな。ごめん。」
「別にもういいわよ。これでいつでも連絡できるようになったわけだし」
「そう言ってくれるとたすかるよ。でも改めて挨拶しとくか!」
「愛咲春のマネージャーを担当することになった、三光高校2年さいはら しんだ。これからよろしくな!」
「え?」
「ん?ふつうに改めただけなんだけど、、、」
「あ、あんた高校生なの!!??」
おっふ。
「あ、チェックイン間に合わねえ!!またな愛咲!!」
「ちょっと!!逃げんな!!!」
本日3回目の全力疾走はなんとか成功した。
――――――――――――――――
ホテルになんとか着いた後、おれはシャワーや夕飯を済ませてベットに横たわっていた。
「ほんっとに濃い一日だったなあーーーー!!!」
これは誰にも否定できないよな。
家に帰ったら借金生活がスタートして一時的に借金取りから身を守るためにセカンドビルにむかう。そこで奇跡的に片山代表と契約を交わし、それが悪魔の契約だったにもかかわらずある程度の結果をだした。
もうこれだけで映画一本作れるんじゃないか?
そんな1日でも1番関わったのは愛咲だろう。
最初は聞く耳すら持たなかったが最終的にはお礼まで言ってくれたんだ。それにおれの借金返済の鍵にもなりそうだしな。契約を守れたらこれから長い付き合いになるかもなあ。
「あ、あいさきだから1番上にくんのか」
手に持ったスマホの画面の友達欄にはさっき追加したばかりの愛咲春がいた。まさか自分がアイドルと連絡先を交換するなんて、、、
「てかこれ見られたらふつうにやばいよな。学校にも基本は行くわけだし通知の名前見られただけでも詰みだ、、」
通知をオフにしてしまうとさすがに支障が出そうだからやっぱり名前を変えるのがベストか。
数秒も迷うことなく、少しスマホを操作してテーブルに放り投げた。
「今日はよく寝れそうだな」
そう呟くおれの友達欄には《アイドル兼毒舌》が追加されたのだった。