五十八話
「ジュースとりいかないか?」
そう聞いた才原に対して私の友達、式部凛はニコニコとついて行ってしまった。
ついていくのが悪いなんて思っていないけどあいつがわざわざナンパしたことにも嫌がってはいなかったようだし、なんというかもう仲良くなっている気がする。
そもそもなんでここに才原がいるのか。私は遊ぶ時、ここより人が多い所に行くことだってある。ここだってまだ2回目だ。
もし本当にたまたまだとしたら最初に凛をナンパしたのは完全に私と関係がない。
つまり、凛はまさに才原のタイプだったりするわけだ。
これもだけど、別にタイプだってなんでもいい。本当に。才原とは二週間で一気に仲良く……まあ仲良くなったとは思う。けど好きになってるわけじゃない。
関係が急に動きすぎて戸惑っているだけ。それだけだ。
別に1番可愛いって言ってくれたことを意識してなんかいない。
「春ちゃんどしたの? ボーっとしちゃって」
「え」
やばい、ちょっと気が抜けてたかも。
「ううん。こういうの栄女に入って初めてだからなんか新鮮なのよ」
「わかる〜! おれもテンション上がっちゃってるよ! ね、文香ちゃん!」
「マッキーは上がりすぎだよ! でも結構楽しいかも!」
急に牧野という見た目はチャラ男に話しかけられてびっくりしたけど、文香とすでにあんな感じなことにさらに驚いた。
才原だけじゃなくて、みんな仲良くなるの早すぎない?
私も全然話せてはいるがあそこまでノッていけない、というかあんなに楽しめない。
そんな風に少し疎外感を感じていると才原と凛が戻ってきた。
「お、やっと戻ってきたな?何分話してんだよ!」
「本当に〜。なんか怪しいー!」
「悩んでたんだよ何にするか。な?」
「そうだよ! あとは学校の話も少し、くらいかな」
ドリンクを取りに行っただけにしては本当に長かったと思う。
心なしかさっきより仲良くなってる気も……しかもメロンソーダ一緒だし。
「同じのにしたんだ?」
「ああ。あとで春も飲んでみなよ」
「美味しいよ〜!」
こいつに春って呼ばれるのもなんか変な感じがする。まあ今はみんなそうなわけだけど。
なんとなく才原の足を蹴ってやる。
「……なんか食べたいのか?」
そう言って自分の皿に乗っているスイーツを見せてきた。
ケーキにゼリー、そして小さめのミルクレープ。
ここだけ見るとほんと女子よね……顔も結構中性的だし、意外と女装とかできそう。
「いらないけど甘いの好きなのね」
「バイキングのってやっぱり質が下がるけど、このミルクレープは当たりだったんだ」
そう言ってパクパク食べ続ける才原を見つめる凛。
「どうしたの?」
「え、あ……いや美味しそうだな〜って」
「まだ結構あったぞ?」
「ううん。でもお腹いっぱいだし」
お腹をさする動きをする凛も可愛い。ほんとナンパされてなくて良かったと思う。
いまの状況もナンパが原因ではあるけど。
「一口食べるか?」
「え…いいの?」
「ほら」
才原は新しいスプーンを取り出して口の付いてないほうを切り取る。やっぱりタイプだから意識しているんだろうか。
「お、まさかもう『あ〜ん』か?」
「さいちゃんがこんな押していく男だったなんて!」
「ちげえよ」
「………でも結構積極的ではあったよね?」
「え?」
凛までのってくるとは思わなかったらしい。
「今日ずーっと積極的だったな〜と思うよ」
「……まあナンパしたわけだしな」
あれ、本当に少しバツが悪そうな顔に見える……
でもやっぱり違うかな。こいつ上手く隠すのよね……
「あ…いまミルクレープとナンパで思い出したんだけどさ、7月に文化祭あるから来てよ!! 」
「文化祭か〜他校のはまだ行ったことないねー!」
「三光は結構規模でかいし楽しいぜ」
「たしかに意外とありかも」
文化祭なんて行ってもナンパされまくるだけでしょ。
4人ともみんな可愛いんだし。
「去年才原が『クレープで積極的に誘えばナンパできる』って言って試してたからなー!」
「えっ………ほんと?」
「全然うまくいかなかったけどな」
い、意外すぎる……凛だけじゃなくて文化祭でも結構してるのね。……しかも失敗。
「慎、お前はもっとやる気を出すべきだったんだ。自分もクレープに夢中になってしまったのが原因だ」
「女よりクレープに行ったさいちゃん! さすがだね!」
「現にさっき、入口のクレープ屋さんの店員に名前聞かれてたぞ」
「「え?」」
店員に名前聞かれた?逆じゃなくて?……まあ、逆はしなそうだけど。
「優しい人だったな………まあそれよりも来月文化祭だな! そっちはどんな感じなんだ?」
強引に流れを変えていったけど文香たちは他校のことも結構興味があるみたいでその会話に花を咲かせ始めた。
突然の合コンをそれなりには楽しむことができた。
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「じゃあまたねっ!文化祭じゃなくても普通に遊び行こう!」
「うん!結構たのしかったよ! ばいばい〜」
愛咲たちとの合コンは2時間ほどで幕を閉じた。
おれたちもそれと同時に帰り始める。
「いやーめっっっちゃ楽しかった! 才原の手柄だな!」
「間違いない。一点差でおれが勝っていて本当によかった……!!」
「どういたしまして……」
こいつらも楽しんでくれたようでなによりだな。
久々の息抜きにもなったし良かった。
「連絡先は文香ちゃんだけだけどこれでまた遊べるかもだしねっ!! 文化祭も来てくれるとイイネ!」
「それまでに筋トレしとくか」
「ありっちゃありだな」
それぞれ次に遊べる日を思い描いてニヤついている。まさに男子高校生といった感じだ。
おれもそれを再確認できた気もする。
「おれこれからバイトだから、じゃあな!」
「うわっ夜にもあんのかよ…。わかった!今日はありがとな!」
「クレープごちそうさま」
それぞれに挨拶をして別の道へ進んでいった。
とある街角–––––
「おつかれ」
「……ほんとにびっくりしたわよ。才原がいるなんて思わなかったし」
周りに人がいないのを確認しながらサングラスを外すのは現役アイドルの愛咲。流石に6月とは言えこの暗さで着けているのは邪魔なんだろう。
「ははっ。だろうな。ひさびさに男子高校生と話してどうだった?」
「……やっぱそれが目的?まあ意外と楽しかったけどやっぱり女子同士の方がいいかな」
「全然話せてたのはさすがだったよ。これから少しずつアイドルの方面以外からも慣れていけるといいかなと思ってさ」
「言いたいことはわかるわよ。この前、私が女子校に入った理由聞いたんでしょ?」
「そういうことだ」
無理にでも会わせて、おれが促せばとりあえず拒否はしないと思ったからな。
「やっぱ場所わかってたのよね?じゃあ凛をナンパしたのもわざと?どうやってわかったのよ」
「一気に質問するなって。……まず場所だけど、"ラース"があって学校終わりに人が少ないのはここしかない。他は栄女から遠いからな」
「あ、私どこの服買うかも言ってたっけ……。たしかに水曜日で学校帰り、それから"ラース"もってなるとここだけ……」
「そんで凛はお前と制服が一緒だったからすぐ気付いたよ。ちょうどナンパしないといけないゲームで負けたからお前と会うキッカケ作りのために凛にしたんだ」
凛がもし愛咲と関係ない栄女生だったらカフェの後で"ラース"に行ってみれば会える可能性はあっただろうしな。
加えて今週は木曜、つまり明日に軽いテストがあったらしい。よって大抵の栄女生は今日勉強して明日遊ぶわけだ。そこをわざと今日にずらしてもらったからほぼ愛咲の友達で確定だった。
「まあ、ふつうに誘われたら私も私の友達も断ってそうね」
「とりあえず受け入れてはくれる、とは思ったからな。そしたらもう目標達成みたいなもんだ」
「なんでそんなに頭使うんだか………あ、じゃあ付き合ってあげたんだから今からカフェいくわよ」
「いや今日はここで軽く仕事の話をしたかっただけで……」
「明日のテスト勉強はしなきゃだけど、会話相手になってよ。なんか今日集中できなそうだから」
なんだその暴論。というか中間レベルならテスト勉強しなくても大丈夫なんじゃないのか?
「あ、それってさ」
「奢り」
「………まあいいか」
「は〜、あんただと気兼ねなく話せるからやっぱ楽よね」
「マネージャーの使い方が荒いんだよなあ」
「ふふっ私の担当だからしょうがないわよ」
謎の自慢をしながら一旦最寄駅を目指して歩き出した。
今日は諭吉が溶けないことを祈る。




