五十七話
遅くなりました
「えっと………」
戸惑いを隠せない女の子。
そりゃそうだろう。しつこいナンパを助けてくれた人からナンパされてるんだから。
冷静に意味がわからない。
「友達が来るまででどう?」
友達が来ると言ってるのに誘うのもおかしい。遅刻してても十数分でくるものだ。
だがおれは聞く。ここは引くべきじゃない。
「はい…少しだけなら…」
「え……ほんとに?」
「友達もちょっと遅れてるみたいなので……助けてくれたお礼もしたいですし」
女の子はさっきとは打って変わって微笑んでくれる。
こんな純粋な人をナンパしてるのか……
「じゃあ行こうか」
無論続行するが。
フクロウカフェはこの前行ったばかりだから場所もすぐわかる。
おれの結果を見守っていた、いや愉しんでいた4人に軽く笑ってみせた。
「なっ……!!」
「ナンパの後だぞ………なにがどうなっている!?」
「さいちゃんマジかよ………」
「脇毛コールでもやってやろうか………」
……こっちまで聞こえてるっての。
でも女の子は気づいていないみたいでよかった。
4人がしっかり付いてくるのを確認してカフェへ向かう。
「あの…何年生ですか?」
「おれは2年だよ。君は?」
「あ、私も2年です! 同学年なのに堂々としててすごいですね……」
「そういうこともないけど。……あと、タメ口でいいよ。そっちの方が話しやすい」
「あ……うん………」
タメ口を促すと少し静かになってしまった。
人見知りタイプなんだろうか。それにしてはナンパ成功しているが。
「名前––––––」
「あ、凛いたー!!」
おれが名前を聞こうとしたところで左前から声をかけられる。
「あ、文香……!」
「ごめんね少し遅れて!」
駆け足で数人の女子高生が近くにやってきた。
さっき言ってた友達だろうな。
「…………そこの人は?」
「えっと……さっきナンパから助けてくれたの」
「うわ〜やっぱナンパされちゃってたか〜。ごめんね凛! 君もありがとう!」
「いや、全然大丈夫だ。……じゃあカフェはまた今度だな」
「あ………」
友達が来るまでのため、今からというわけにはいかない。
ただ、文香という女の子はおれの発言を見逃さなかった。
「カフェって………え!? 凛どういうこと!?」
「お、お礼しようとしてただけだよ! 深い意味はないから!」
さすが女子高生、すぐに恋愛方面につなげてしまう。凛という子も慌て方だけで誤解されそうだ。
どうしようか考えていると後ろから来た鷹宮たちと目があう。
………よし、今度はおれが軽くジェスチャーしてやろう。
女子にはバレないように、だけど端的に行った結果見事理解してくれたようだ。
すぐに距離を詰めてくる。
「才原〜なにしてんだよ?」
「おお鷹宮か……お前たちがプリクラ撮ってる間にこの子とカフェ行くかってなってさ。でも友達が来ちゃったから無しになった感じだ」
「まじかよ〜! それはどんまいじゃん! じゃあ5人で飯でも行こうぜっ!」
「だな。じゃあな凛」
「「えっ」」
まずは潔く帰るふりをする。
次にマッキーたちの方に体を向けて歩き出したところで宮下に視線を送った。
「……そういえば向こうも5人だな」
「ん?………ああ、なるほど」
おれは今気づいたかのようにわかりやすく頷いて振り返った。ここで意識するのは自然な笑顔だ。
「ちょうど5人ずつだし、よかったらみんなでカフェでもどう?」
「み、みんなって………合コンてこと?」
「まあそうなるかな」
ただ、言葉は凛や女子全体に向けているが視線は違う。
おれの視線が向かうのは室内にも関わらずサングラスをしている女子高生––––––
––––––愛咲春、ただ1人だ。
愛咲ならおれの言葉の意味を考える。普通ならこんな状況、すぐにでも終了だからな。
「さすがに合コンは無理かな……」
「そうだね〜。凛を助けてくれたのは感謝するけどそれは違くない?」
「……私はいいわよ」
拒否する女子とは反対に場の空気を一刀両断、て感じか。
愛咲に女子高生たちの視線が集まる。
「ちょっ…春なにいってんの!? 春が一番こういうのダメじゃん!」
「そ、そうだよ! 急にどうしたの?」
「ギャグのつもり……?」
あり得ないといった表情でわちゃわちゃと騒ぎ立て始めた。
まあ、女子4人が取り乱すのは当然だな。
仮にもアイドルをやってるやつが合コンするなんて言い出してるんだから。
「凛がカフェ行くつもりだったんでしょ? 私もフクロウ触りたいしいいわよ」
「いやいや、それでもダメだよ!」
「この前だってテレビ出たばっかじゃん!」
細かい内容は聞こえないが、きっと愛咲を止めようとしてくれてるんだろう。本当にいい友達だ。
「個人的にも凛を助けてくれた人にお礼したいだけ。私たちの遅刻が原因でもあるから」
「でも………」
「それに……いつまでも逃げてらんないのよ」
「春………」
騒ぎ始めてから1分ほど話した結果決まったみたいだ。
「じゃあ……みんなでカフェ行こっか」
「おう」
後ろの4人が発狂しなかったのは去年の失敗があるからなのかもしれないと1人思ったおれであった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「いや〜栄女の人と話す機会があるとは思わなかったっ!! 今日はついてるぜっ!!」
「私も三光の人と合コンなんて初めてかな。そもそも合コンもほとんどしないけど」
「おれたちもこれが初めてだ。さっきのチャラ男と一緒にはしないでくれよ」
宮下、それはただ合コン出来なかっただけだぞ。
そう心の中で突っ込みながらおれは一旦あたりを見回してみる。
ここはフクロウカフェではなくて、バイキング式のレストランだ。さすがにフクロウと戯れる場所で合コンはできないからな。
メンバーを見ると、マッキーだけでなく宮下も硬い口調ではあるが楽しんでいるのがわかる。小林は見た目が少し怖い分ギャップで相手が喜んでいそうだ。おれの隣の鷹宮はムードメーカーだから言わずもがな。
それに対して……
「へぇ……才原くんて言うんだ?ナンパの後にまたナンパして友達も来たのにナンパするなんてすごいわね」
「………まあ、たまたまな」
右斜め前の愛咲の機嫌は良くないらしい。
こんなナンパが詰め込まれたフレーズも初めて聞いた。
気持ちもわからないでもないが、これは必要なことだ。
「春はあんまり合コンとかしないみたいだけど、女子校でも必要だと思うぞ。少しずつ経験を踏めばいろいろ慣れてくるもんだ」
「別に男が苦手なわけじゃないわよ」
「間接的にでも男が関係してるなら、それから逃げてるだけじゃ何も変わらないだろ?」
「………わかってる」
きっとおれの意図は届いた。
あとはこの合コンで少しでも男と関わってもらいたいものだ。
「………なんか2人仲良いね?」
初対面のはずなのにおれと愛咲が結構話してると思ったのか、目の前の凛が何気なく言う。
「そうでもない。むしろ、さっきからなんでサングラスしたままなのか気になってる」
「そういうファッションよ。制服にサングラスなの」
「春はこれハマってるんだよね」
凛もちゃんと愛咲に合わせるあたり慣れてるやり取りなんだろう。
最初にした自己紹介は男子から始まり全員フルネームだったが、女子の時は凛から始まり凛が苗字を言わなかったことから全員下の名前しか言っていない。
舞崎春と愛咲春は母音が全て同じでバレるかもしれないからこういう流れにしたんだろう。
よって男子は苗字で、女子は下の名前のみで呼ばれ、いまのところおれ以外の男は誰も愛咲春だと気付いていない。ふつうの合コンだ。
「凛たちはよくここくるのか?」
「月一くらいだけどね。才原くんは?」
「おれたちはもっと来ないな。全員のやりたいことがたまたまここにあったって感じだ」
「そうなんだ。すごい確率だね」
「ナンパ三連続される方がよっぽどすごいわよ凛」
「あはは」
たまにこっちに割り込んでくるも、鷹宮たちとも楽しく話せているようだ。
ちょうど5人だったのは予想以上に良かったかもな。
「それより才原くん格闘技とか習ってたの?」
「いや、ちょっと知ってただけだよ。有段者とかじゃない」
「それにしてはすっごい滑らかだったよ! 映画みたいでかっこよかった!」
「まあボディガードとかは一時期考えてたかもな……アイドルの側にいたりしてさ」
「アイドル好きなんだ?」
「妹が俺を利用して会いに行くからなれってな」
もちろん、そんな話されたこともないがアイドルという言葉に凛はまったく動揺しない。
「私もアイドル好きだよ! 最近はね––––––」
それどころかその手の話を自然にしてくる。
むしろ愛咲のほうがビクついたかもな。
それを確認して、おれは一気にジュースを飲み干して立ち上がった。
「なるほどな、おれも今度見てみるよ。ちょうど飲み終わったけどジュース取り行かないか?」
「うん! 行こっか!」
若干周りから生暖かい視線を感じつつも凛と一緒にドリンクバーのコーナーへ。
「才原くんは何飲むの?」
「おれはメロンソーダにするよ」
「あはは! やっぱ飲みたくなるよねそれ。私もそうしよっかな」
おれの隣に来てニコニコとジュースが注がれるのを待つ、その凛の様子を見て共学ならモテるんだろうなと思わずにはいられない。
そもそも今日いた愛咲の友達は全員可愛かった。愛咲のことだから顔で交友関係なんて決めるとことはない。
つまり可愛くて友達でいたいと思えるほど性格もいいわけだ。
とっさの対応力も申し分ないしな。
そういうわけで、今日おれは凛の前で2度目の決心をした。
「なあ凛」
「ん?」
「おれと–––––––」
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