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五十二話

今回は長くしてみました

 


 痴漢リーマンがどっかへ行ってしまってから数分経った。


「先輩、痴漢なんてもういいよ」

「なんでそんなに嬉しそうなんだか……」


 さっきまで痴漢されていた女子高生とは思えない笑顔を振りまく天鳳。

 社長令嬢は切り替えの早さもすごいのかもしれない。


「それより。ふふっ電車で会うなんて初めてだね?」

「おれもびっくりしたよ。お前なんで車通学とかじゃないの?」

「三光高校っていっても車じゃ目立つよ。まあ、それでも基本は近くまで車で送ってもらってそこから歩きだけど」

「そういうもんか。で、今日はどうしたんだよ」


 電車に揺られる社畜を見たかったとかはありそう。

 いつかは上に立つからその自覚を持て、なんていう流れだろうか。


「先輩に会えるかなって」

「………おれ?」


 どうやらとんでもない確率を当ててきたらしい。


「あ…たしかにおれが住んでるホテル知ってたらどういう路線使うかわかるよな。………時間は無理だけど」

「大丈夫だよ。盗聴なんてしてないからね」


 おれの部屋に仕掛ける、メリットもないな。


「じゃ、本当に偶然か」

「うん。………じゃあ早速––––––」


「じゃじゃ〜ん!」


 豪勢な?効果音で現れたのは


「………イヤホンがどうした」


 市販のイヤホン。特に高そうでも、かといって安そうでもない通常のものだ。


 これでなにかやるらしい。音楽聞くことしかできそうもないけど。


「はい、先輩はこっちね」

「おお」


 言われた通りに左耳へ。


 なるほど。……でもおれでいいのか。


「んふふ。満員電車だとちょっと聞こえにくいけどなんか楽しい」


 満足そうな顔をする天鳳の右耳には同じようにイヤホンがつけられている。



 つまり、これもまた全カップル憧れシチュエーションベスト20にランクインする初歩中の初歩––––







 ––––––「ち、ちかい……!!」だ。(呼び方は諸説ある)



 この行動は音楽を聴くためでは全くない。イヤホンのコードの長さに限界があるため2人で意図して使うと、必然的に顔と顔との距離が近くなる。そして、甘酸っぱい空気が漂い始める。


 そのためだけに存在するのだ。


 他人目線で見れば微笑ましい、または羨ましいことこの上ないわけだが、近年ワイヤレスイヤホンというものが出始めた。


 もちろん、この「ち、ちかい……!!」(呼び方は諸説ある)を脅かす存在なわけだ。


 その便利さゆえに多くの学生も手を出し始めているのだが先週くらいだったか。

 ある男子が頑張って「この曲聴こうよ」と言ってイヤホンを渡した時に女子が「あ、私ワイヤレスあるよ」と言ってワイヤレスイヤホンを出すのを見た。


 男子の表情の落差がマリアナ海溝より深いこと深いこと。


 R18商品にしてくれれば少しは青春の蕾を蹴ちらさずに済むのに…と思わずにはいられない。


 ともあれ、おれも今その初歩中の初歩を体験しているわけだが……


「楽しむ余裕もないな……」


 満員電車で天鳳が窓側。おれは痴漢リーマンと入れ替わる形になったから向かい合う状態。

 そもそもの乗車率でお互いの顔は近いが、押しつぶされないように手をついていてむしろ疲れてるぐらいだ。


「お願いだからね。そのままそのまま」


 こいつやっぱり鬼畜だ。昨日の胸の痛みを返せ。


 ………それにしても


「ほんと楽しそうだな、お前」

「楽しいよ?初めて……じゃないけど電車に乗って先輩と一緒だし」

「人がいなきゃおれも楽しめるんだけどな」

「ふっ」

「っと…!!……息吹きかけんな」

「〜〜〜♪」


 こういう時だけ音楽を聴くと。


 無視を決め込むやつを傍目に、曲をよく聞いたらおれ達の卒業ソングだった。


「これ懐かしいな……!天鳳の時もこの曲だったのか?」

「そうだよ〜。卒業だけど明るい感じだから好きなんだ」

「たしかにな。コンクールでもないのに先生に怒られて練習してたのが懐かしいわ」

「先輩歌下手そうだもんね」

「この前49点とった」

「あはは!!ほんとに下手なの!?49なんて死んでるも同然だよ!」


 死刑執行中だったからな。あながち間違いでもない。


「あ〜おもしろい。……じゃあ今度カラオケいこうね」

「来月ならメンタルも回復してるだろうしな」

「ふふ、大丈夫だって。なんなら一緒に歌ってあげるよ」

「それがダメなんだよなぁ……」





 そんな風にいつかカラオケに行く約束をしていると三光駅に到着していた。


「あ、あたしトイレ行ってくるから先輩さき行ってていいよ〜」

「せっかくだし待つぞ?」

「あ、あたしトイレ行ってくるから先輩さき行ってていいよ〜」

「NPC適正高いな」


 NPCの言う通り1人三光高校へ行くことにする。







  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––







 あと少しで2年2組の教室というところで、教室前のトイレから出てきた男に挨拶する。


「よう」

「あれ、才原はえーじゃん!どうした?」

「たまたま早く起きたんだよ。朝練終わったとこか?」


「まあな」と言って水の滴る髪をかきあげる鷹宮。

 イケメンなら話は別だが、こいつにそこまでのカッコよさはなかった。


「それ天音の前ではやるなよ」

「いっちばん傷つく言い方すんなよ」


 この手の話題に関しては命中率100%だ。


「あ、そういや宮下がいつクレープ奢ってくれるんだって喚いてたぞ」

「やっべ……完全に忘れてたな」


 あいつのおかげで執事になれたと言っても過言じゃない。

 すぐにでも、奢ってやろう。


「あ、じゃあさ今週のどっかで遊び行こうぜ」

「お、いいな!!打ち上げしてから遊んでなかったし。宮下とかクラス違うけどメンツどうするよ?」


 宮下は3組のバレー部。鷹宮は2組のサッカー部。

 共通の知り合いは少なそうに思えるが


「小林とあとマッキーとかは?」

「ははっ!!懐かしの文化祭準備メンバーだな?」

「そういうこと。あと1ヶ月くらいであるわけだしなんとなく懐かしくなってさ」

「いいな!ひっさびさにあのトークルームが動き出すと思うと楽しみだ!」


 鷹宮と同じでおれもわくわくしてきた。

 全員で遊ぶのは数ヶ月ぶりだからな。


「部活サボれそうな日あったらすぐ教えろよ?」

「わかってるって!お前こそバイトはいいのかよ?」

「今週は一回くらい遊んでも大丈夫そうだ。でも予定は早く決定したいな」

「おっけー!早速宮下に言ってくるぜ!」

「え……おい!」


 懐かしのメンバーで集まることに興奮を抑えきれなかったのか走り出してしまった。


「トークルーム使うんじゃないのかよ……」


 ムードメーカーたる所以を垣間見た気がした。


「慎はやいね」

「ん……おお、おはよう」


 鷹宮が走っていったのとは逆から奈々が登校してきた。

 いつメンは集まるものらしい。


「……うん」


 いつもの明るさがない、というか眠そうだ。


「どうかしたか?」

「いやぁ、あ、そうそう!昨日沙雪ちゃんがバスケ見に来てたんだよ!?」

「おお……そうなのか」

「なんか私のことじっと見てきた気もするし、歩み寄ろうとしてくれてるのかな?」


 それは多分あなたの一部を見ていただけです。


「わからないけど、そのうち仲良くなれるだろ」

「だよね!なんかテンション上がってきちゃった!」

「……その割にはクマあるけど」

「え、っとこれはなんていうか考え事しちゃってて………ていうか慎もあるからね!?」

「ま、おれも同じようなもんかな」


 考えても仕方ないことを考え続けてる。

 天鳳も昨日は同じだったかもしれない。


「あ、あとね私すごい人見つけちゃった!!」

「すごい人?」

「そう!天音麗花さん!妹ちゃんと一緒だね!」


 天音が言っていた人だ。


「その名前昨日も聞いたな。たしか急に人気出てきた感じだっけ」

「前からある程度は人気だったらしいよ。でもここらで急にブレイク!!可愛いから当たり前だよね〜」

「高3だっけ?大人にしか見えないよな」


 もちろん、天音から聞いてホテルに戻った後調べてみた。

 事務所はNAFORIAというMOXより小さいが十分大物のいるところだ。

 モデルを始めたのは最近のようだが元はアイドルだったらしい。3人組グループを解散して今は1人。それでもやっていけるだけの実力がある。


 髪型は肩下までのセミロングで毛先に向かって少しパーマがかかっている。本人の明るさに加えてグラデーションピンクが華やかさを足し、愛咲に勝るとも劣らない美貌。


 こいつがアイドル路線から逸れてくれたことはありがたかったな、と思いつつ実際に愛咲と並んでみせたいとも感じた。


「この人の服も可愛くてね。慎はMOXって知ってる?」


 急な話題転換に動揺しかけるが、瞬時に抑え込む。


「でかい事務所だろ?この人のいるとこなのか?」

「違うんだけどそこの有名なコーディネーターさんが褒めちゃうくらいセンスがあるの!」


 話題転換じゃなかったけど心臓にわるい……


「天音にも着せてやりたいな」

「それでね……その……」

「……どうした?」


 指をもじもじ。視線はキョロキョロ。

 ……こいつは今日情緒不安定なのか?


「撮影会みたいなのがあるらしくて……行ったら服もらえるかもしれないんだって」

「男限定なのか?」

「違うよ!!」


 だろうな。意味がわからないし。


「じゃなくて、女の子だけの抽選とカップルで来てくれた人だけの抽選があって………どっちの方が当たりやすいと思う!!??」

「あたりの数が一緒ならカップルだろ?」

「そう!!だから……その…」


 あ、この感じどこかで………









「わ、わたしと付き合ってください!!!!」





 え?




続きが気になる人、奈々に告白されたい人、ぜひ評価ブクマおねがいします!!!

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[気になる点] 急すぎるっ! [一言] なぜ急に告白したのか知りたい
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