五十一話
文量を多くして一話か細かく今まで通りか悩んでます。
これくらいが読みやすいですかね?
『自分の信じた道を進む。もちろん、おれだってそうしてきた』
『でもな、いつか1人じゃ限界がくるんだ』
『だから、心の底から信頼できるやつを見つけてみろ』
『慎だけの親友をな』
「………朝か……」
久しぶりに目覚ましが鳴るより早く目が覚めた。
二度寝をする気分でもなかったため洗面所に向かい、鏡に映った自分を見る。
「……疲れてんなあ」
鏡の中の自分に感想を言うキザなタイプではもちろんない。
髪は左右非対称でボサボサ、顔はイケメンとも思わないがいい遺伝子を受け継いでる気がする。
なんといっても天音が生まれてくる両親だからな。
ただ今日は隠しきれないクマがあったわけだ。
今朝見た夢と関係しているのなら天音、いやあの画像のせいでもある。
昨日の心配が引き金だったりするんだろう。
というか久しぶりに父親の声を聞いた。(夢の中で)
結局昨日は家に帰って天音とあったが、なぜかおれの服を着ていてあたふたしていただけだった。寂しくて兄の服を着ていたとかだったら可愛い話だよな。
数時間くらい一緒にいても不安がったり怖がってる様子は全くなかったから、問いただしたりはしないでそのままホテルに戻った感じだ。
何回も顔を洗っているとさっきより幾分かマシになってくる。
「たまには早くいくか」
自分を鼓舞するように独り言つと身だしなみを整えて最寄駅へ行くことにした。
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「………ぅおっ……」
数十分違うだけでこんなに混むのかっ……
おれの乗った満員電車は予想以上の混雑だった。
もともとおれの今いるホテルは三光駅を中心とすると自分の家とは真逆、どちらかといえば七花よりのビジネス街に近い。よって大量の通勤するサラリーマンしかいない気がする。
やっぱ見た感じスーツ姿がほとんどで制服なんて数えるくらいしか––––––
「あれ」
三光高校の制服を発見。女子だ。
端っこに結構押し込まれていて苦しそうだけど大丈夫だろうか。
二年生だったりしないか…と顔を見ようと画策すること5分。
「え……天鳳かよ」
昨日ぶりの見知った顔を発見してしまった。
透き通るような金髪に少しだけ見えた横顔。間違いなく天鳳沙雪だ。
あいつ社長令嬢だろ?普通、車とかで通うもんだと思ってたんだが。
こんな電車でなんかあったら大変どころじゃ済まない。
おれは密集するサラリーマンたちを押しのけて少しずつ近づいていく。あと1メートルほどのところで声をかけてみた。
「おい、てんほ––––」
だが、ここでおれは天鳳の様子がおかしいことに気づく。
電車の壁に俯いた顔を向け、若干縮こまっている。いつものからかってくる雰囲気はかけらもない。
……むしろ何かに耐えているようにも見える。
その背後から覆いかぶさるとまではいかないでも天鳳に寄りかかっているサラリーマンが1人。
このあからさますぎる態勢と雰囲気にどうして周りは気づかないのか。
朝から満員電車に巻き込まれたのは災難としか言いようがなくても、このタイミングで乗れたのは奇跡そのものだな。
痴漢を見つけた場合、いくつか気をつけるポイントがある。
まず、安易に「痴漢してます」なんて言うのは危険だ。動画のように証拠となるものを撮っていても確実に痴漢しているか判別できない場合もあるし、取り乱した被害者から逆に痴漢扱いされるかもしれない。
つぎに、犯人がどうにでもなれ、と暴れ出す可能性がある。人生が詰んだとでも感じたなら何をしでかしても不思議じゃない。
そして、犯人を確保しても被害者がいなくなってしまうこともある。その場合痴漢そのものを立証できなくなり、逆にこっちが犯人から訴えられるかもしれない。
こう考えるとその場で犯人を捕まえるのは圧倒的にリスクが高い気がする。
ただし、今回おれと天鳳は知り合いだ。この場で捕らえられないとしても見て見ぬ振りをするつもりはない。
それに、どうせ犯人は捕まるから。
今はこっそり動画を撮りつつ近づき、軽く声をかけるのがベストだろう。
「よう、天鳳」
「え……せ、先輩?」
「そう。先輩だ。体調でも悪いのか?」
「そういうわけじゃなくて……」
おれと天鳳が話し始めると男が移動を始めた。
そのスキを見逃さない。
「おい。天鳳グループの人いるだろ?おれが怪しい挙動は撮っておいたから捕まえていいぞ」
「えっ!?」
「だから、証拠になりそうな動画は近くから撮っておいた。触ってたのは確定だ。」
あれで万が一触ってないを貫き通しても相手にしているのは天鳳グループだ。それで簡単に済ませたりしないだろう。
あとおれが直接捕まえるわけじゃないからリスクもない。
「……………いないよ」
「なにが?」
「グループの人、今日はだれも付いてきてないよ」
「…………は?」
天鳳の発言に痴漢を見た時より衝撃が走った。
天鳳グループの社長令嬢だぞ?どんなことにも利用される可能性があるのに周りに誰もいない?
100歩譲って今回の通学がいわゆるふつうの社会経験みたいなものだとしてもボディガードの1人や2人つけるのが当然だろ。
「お、お前の親何考えてんの?」
「あはは」
「笑い事じゃないから。どんだけ危険に身を晒してると思ってんだよ!」
「……でも先輩が来てくれたし」
そう言って笑う天鳳はもういつも通りだった。
「そういうことじゃなくて……」
おれは当然周りにボディガードがいるが、なんらかの理由で近づいて証拠を取れないから天鳳を助けてやれないんだと思っていた。(その時点でボディガード失格だが)
だからおれが証拠をとったことを天鳳が伝えれば、満員電車のなかで満足に動けない犯人を捕まえても問題ないと判断して動いてくれる、と考えていたんだが……
「は、犯人取り逃しかよ………」
「動画なんて撮らなくてもすぐに来てくれたら良かったのに」
「痴漢はいろいろ捕まえる側も大変なんだ。指紋とかだけじゃたまたま触っちゃいましたとも言えるしな」
それでも事件にはなりそうだが。
「なんか慣れてたね」
「……たまたま前にも似たようなことがあっただけだ」
苦いわけじゃない。ただあまり思い出したくもない記憶がフラッシュバックする。
久々の夢はある意味正夢ってやつだったらしい。