五話
なぜか徹夜してしまいました。
どうぞ!
「ほんっとに長かったんだけど!!!あんた鬼畜よ!!ちゃんと自覚してる!?」
「鬼畜言うなよ!ちゃんと考えたんだからいいだろ?」
「それは認めなくもないけど、、」
2時間を超える打ち合わせでこのあとの収録の対策は全てできた。あとは愛咲がうまくやりきるだけだ。
「ここが正念場だぞ。自信持っていけよな」
「わかってるわよ。もう時間もないし、収録するスタジオにいかなきゃ。」
そう言って動き始めるが、、、
「ちょっと」
「ん?」
「なんでついてこないのよ。私のマネージャーでしょ。」
どうやらおれが気になるらしい。
「ははっ!最初はあんな嫌ってたのにな」
「う、うっさい!今も嫌いよ!!でもマネージャーならついてくるのがふつうでしょ!!」
「わかってるって。ちゃんとついてくつもりだよ。」
「なら早く行くわよ。楽屋で挨拶もしなきゃだし」
「だな。」
急ぎ足でスタジオに向かった。
「明野さん、私今回出演させていただく愛咲春です。よろしくお願いします!」
「うんよろしくね愛咲さん。」
すこしおれより背の高いこの男が今回の司会を務める明野哲也だ。最近のバラエティによく出ていてまさに波に乗っているって感じ。
思いの外スタジオが遠くてもうすぐ開始時刻になってしまうところだったがこの人にいま会えたのはでかい。
早速おれは愛咲の少し前に出て話しかけることにした。
「6月にしては寒い夜ですけど大丈夫ですか?」
「いや〜それがね僕なんか暑くて汗かいちゃってるくらいだよ!」
「そうなんですか!もしかしたら僕だけかもしれないですね。愛咲もこのスプレー使ったりする?」
「なんで私がそんな男臭いやつ使うのよ!というか汗かいてないし!いらないから!」
予想通りの全力拒否だった。
「まあそうだよな。明野さん、これは新品なんでもしよければあとで使ってください」
「お、ありがとね。マネージャーに渡しておくよ!」
いわゆる制汗スプレーを渡したところでスタッフから開始の声がかかる。
「愛咲!さっき話したこと忘れずにな!自信もっていけよ」
ちゃんと毎回エールも忘れないことがマネージャーのポイントだったりするはず。
「わかってるわよ、、。1割と9割でいいんでしょ?」
「まあ最初だから本音を意識していけばいいさ。リラックスリラックス。」
「いってくるから。」
その一言とともにアイドル愛咲春は戦場に飛び出した。
――――――――――――――――――
ある程度流れは頭に入ってる。あとは自分を変える意思だけ、、、いや違うわね。素の私でいるだけよ。
私の覚悟が決まると同時にカウントダウンかスタートした。
「それでは開始まで5.4.3.2....」
「今月の大変身女性のそのワケはなんなのかシリーズ!!!今回も私が解き明かして見せよう〜!!」
明野さんの元気な声で収録が始まった。
最初は端にいるアイドルから当てられていくなか私はいつも通りに徹する。
MOXのスタッフは少し異変を感じているかもしれない。だっていつもならこの辺で私が可愛く賛同したり話題に噛み付いて行くから。
でも今日は違うんだ。
そんなことを考えていると、わざとぶりっ子していたそのアイドルが髪を切っただけでこの収録に呼ばれていたことに周囲もすこし衝撃を受けているようだった。
「そうなんですよ〜。10センチも切ったんですよ〜?これって女の子にとってすごい変化なんですからね!!」
いや、それすごい変化っていうか
「この前出てたアイドルとキャラも髪型も被ってたから切っただけじゃん。」
一瞬スタジオが静かになった気がした。
あ、もしかしてこれミスっ
「僕も春ちゃんと同意見だわ!!!もっと直すところあっただろ!!」
明野さんの一声で一気に周りが湧いた。
それを機にほかの出演者も動き出す。
「ほんとそうだよ!春ちゃんが言ってなかったら私言おうと思ってたもん!」
「理由がしょうもなさすぎるよな〜!」
これって私が作った流れ、、、?可愛いキャラじゃなくても今できたの、、、よね、、
「春ちゃんなんてMOXに事務所変えてからすっごい大人びたよな!!アイドルの可愛い感じじゃなくて女優みたいだよ!!こころなしか君よりいい匂いするしなあ」
「キャラとか髪型よりまず匂い、ですよね」
私もそれに合わせていく。それだけで笑いがうまれた。
「あ、匂いといえばなさっきマネージャーさんから制汗スプレーもらったんだけど、そのスプレーのこと春ちゃん男臭いってめっちゃディスってたんだよ!!そんなことないよな??僕も結構使うやつなんだけど、ほら俳優さんも使ってるの見るし」
出演してる俳優に同意をとりながら明野さんはスプレーをかける。そしてこの流れはもちろん
「ほら、春ちゃん!いい匂いだよな?」
「無理ですね。死んでください!」
「うそぉ!?」
予想通りの大爆笑コースだった。
その後のダンスも問題なく終え、長かったようなそれでも私にとってものすごく大切な1時間が終わった。
「おつかれ!春ちゃん他のアイドルの子と違ってズパズパ来てくれるからすごいよかったよ!!また次もよろしくね!」
「は、はい!ありがとうございました!!!」
うそ、、今まで司会の人からこんな風に話しかけてもらったことなんて一度もなかった、、、!!これってつまり、、、
「大成功だな!」
肩を叩かれて振り返るとあのマネージャーが拳を突き出しながら笑っていた。
「このグーはなによ」
「え?これ合わせて信頼関係ってできてくんじゃないの?」
「別に信頼とかしてないから」
「えぇ、、、おれ結構なファインプレーしたと思うんだけどな、、」
少し残念そうに項垂れてるのを見て、私は聞いてみることにした。
「ってことはあのスプレーとかって、、」
「あぁ。身だしなみに目が行くのはわかってたから前もってなんか言っておければってな。スプレーなんて出したらお前がディスるのはわかってたし、開始5分前のその会話ならすぐ明野さんも思いつくはずだろ?」
やっぱり。だからあそこでうまくいったのね。
このマネージャーに変更されまくったダンスも衣装も全部ウケが良かった。たぶん暗さがある分毒舌とかも際立った気もするし、、、
「……なんだよ?おれは大成功だと思ったんだけど違ったか?」
「え?、、、あ、いやそうじゃなくて、なんていうかその、、」
な、なんかはずかしい!!こいつにこんなこと言わなきゃいけないなんて、、!、、、でも、助けられたのは本当なのよね、、
だからせめて
「今回は私も、その、大成功だと思ったわよ。あんたのおかげで間違いなく最高のデビューになった、、、だから、、」
「あ、ありがとぅ、、、」
数年ぶりに心から人に感謝を伝えた。
評価とてもやる気になるのでお願いします!!