四十七話
ちょっと変態だと気づいたらしいです。
「どういうこと……?」
あたしは奈々ちゃんから送られてきたメッセージを見て顔を顰める。
『慎はお昼にバイトの男の人と会ってたよ』
………本当にバイト友達がいた?
お兄ちゃんが家を出るって言った時、間違いなく嘘をついてた。
あたしが勘違いしてたってこと……?
でもそれだとこの前の休日のは……
「…ていうか、沙雪ちゃんとは連絡先ゲットできずか〜」
色々と話してみたいことはあるんだけどなあ。
溜息をついて一旦考えるのはやめた。
とりあえず、服を着替えよう。
今あたしは青葉中学から帰ってきたばかり。お兄ちゃんがいない家に帰る意味なんてないけど、お兄ちゃんの部屋を使い放題にできるからね。
「今日はどれにしよっかな〜」
クローゼットを開けて兄の私服を漁る。
昨日は中学の時の制服を着てみたが、さすが妹というべきかかなり似合っていた。
でもやっぱり……
「このパーカー!!!………はぁ〜お兄ちゃんの匂いだぁ〜〜」
これがあたしの1番のお気に入り。
下はジャージで上はお兄ちゃんの黒のパーカー。
くんくん。
「………うぇへへ」
顔が蕩けるのを止められない。
ここ一週間、暇な時はずっとこの調子だ。
お兄ちゃんの部屋を漁ってもえっちな本とかは一切なかったから服を堪能しているわけだ。
でも、これはただの前戯。
あの日からほぼ毎日戦いは続いている。
ちなみに今のところあたしが10戦10敗だ。相手が強すぎる。
「昨日よりはお兄ちゃんが弱いやつにしなきゃ………」
その相手とは––––––
「チェ、チェックのボクサーパンツ………!!!」
––––––そう、兄のパンツだ。
「……う、うん。……昨日の黒よりはいけそう……!!」
あたしはお兄ちゃんが出かける時、可能なら絶対についていく。友達とも遊ぶから1人で家にいることはあんまりなかった。
でも、今は強制的と言っても過言じゃないくらい1人で生活してる。
そして、気づいてしまった。
兄が絶対に帰ってこないという寂しさが、絶対に気づかれないという安心感にもなり得るということに。
気づいてから実行はすぐだったけど、やっぱり刺激が強すぎたんだ。
––––––兄のパンツを履くなんて
「……よ、よし、準備は万端……」
あたしはジャージを脱ぐ。そして………その下も。
「………ま、まずは両手で持って……」
出来るだけ遠い距離を保ちながら、次は片足を上げる。
「…………と、通った……!!!」
まずは左足を通すことに成功。
「やっぱりチェックなんてお兄ちゃんらしくないからね……昨日のより弱い!」
勢いのままに右足を繰り出す。
「や、やった!!!……両足とも……入った……!!」
11戦目にして初めて両足を通すことができた。
あとは
「パンツを………あげる…だけ………」
スルスル。
膝下から膝上へ。
「…っ……」
膝上から太ももの中間あたりに。
あ、あとすこ––––––
「––––––プルルルッ」
「ひゃあっ!?」
突然の着信音に背中を仰け反らせるあたし。
「あっ……ちょっ!!…」
足がパンツでつっかえて………!!
そのままクローゼットの中で鈍い音が響き渡った。
「ったぁ………お尻うっちゃったよ………」
なんてタイミングの悪い電話だろうか。
久しぶりに怒りが湧いてきた。
すぐに立ち上がるとパンツを脱ぎ捨ててそのまま鳴り続けているスマホをとる。
「はい。もしもし」
『天音か?おつかれさん』
「えっ!?お、お兄ちゃん!?」
『そうだよ。電話は久々だな』
う、うそ……まさかお兄ちゃんからだったなんて……
この前家に来て以来だなぁ。メッセージだけじゃ足りないよ。
『急で悪いんだけどさ、家のポストになんか入ってたか?』
「え……ううん、何も入ってなかったよ」
『そっか。ならいいんだ。また休日家に戻るよ』
「えっ!!ほんと!?やったあ!!!」
『ああ。じゃまたな』
「まってよ!!もっと話そうよ〜!最近いろいろあったんだよ?」
すぐに切ろうとするお兄ちゃん。
そんな簡単には逃がしません。
『えっと学校の話とかか?』
「モデルさん!……とかの話かな?」
『…へぇ。流行ってる人とかいるんだっけ。』
「そうなんだよ!天音麗花さんって知らない?苗字が天音だからあたしも気になっちゃってさ」
『すげえ名前だな……。ファッション雑誌の表紙とかいそうだ』
「実際載ってるからね〜。あたしも服買ったりしてるんだよ!」
『……もしかして今着てるとか?』
「あははっ!!流石にそんな準備周到じゃないよ。今は––––」
なんとなく自分の格好をみて思い出した。
あ、あたし………履いてない………!!!
『……今は?』
「えっ………制服だし!!」
『まあだろうな』
「う、うん………」
信じらんない……。
あたし、こんな格好でお兄ちゃんと話しちゃってる!!!
こ、こんなの………こんなの……
「む、むりぃぃいいいい!!!」
『へ?』
通話を切って、スマホを放り投げるとすぐさまベッドにダイブ。
「な、なんて大胆なこと………!!!」
あんな状態で話せるなんて……あたしすごいのかな!?それともちょっと変態なのかな!?
もちろん、返答してくれる人はいないけど自問自答してしまっていた。
結局そのまま動けなかったけど、押し寄せる駒を飛び越えてクイーンをとった、そんな気分だった。
こんな妹が欲しい人、評価ブクマお願いします!!