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四十三話

 


「よし、出来たぞーー!」

「春と才原くんきて〜」


 リビングでテレビを見ていたおれたちは後ろから声をかけられた。お祝いの料理ができたらしい。


 ちなみに、アルバムは見せてくれなかったしすぐに部屋からリビングに連れ戻された。他にもなにかされている可能性を考えたんだろう。


「おお……すげえ…!」

「2人とも張り切りすぎ………」


 おれたちがみたのはまるでクリスマスパーティーのメニューだった。

 丸焼きにされた七面鳥に、3種類のパスタ、クラムチャウダーにステーキまで。サラダや他のスープも見た目からしてめちゃくちゃうまそうだ。


「今日張り切らなくてどうするのよ〜!!ほら食べましょ!!」

「その通りだ!!じゃあ春と才原くんの新たなデビューを祝って」


 照れながら、おれと愛咲もグラスを掲げる。

 そして4人で交わすのだった。



『カンパ〜〜〜イ!!!!』



「うっま……!!」


 早速パスタを一口食べてみるとあまりのレベルの高さに食レポ的なことはなにも思いつかない。

 この前の先輩や天音といい、愛咲の両親も料理が上手すぎて昼食ってるパンがふ菓子に思えてくる。


 もしかしたら手料理は元来美味いものしか生まれないのかもしれないな。


「ふふっ喜んでくれたみたいでよかったわ!!」

「ほんと料理は美味しいわよね……」


 呆れたように言う愛咲もまったく箸が休まる気配はない。


「春から聞いたけど一週間前くらいに初めてマネージャーになったんだろ?」

「はい。精一杯やらせてもらってますよ」

「それは春を見てればわかるわ〜。その日に今日やる番組の収録があったのよね?」

「そうですね」

「あの日、夜遅くに帰ってきてからいつもと全然違ったのよ!」

「そ、そんなに違ってなかったわよ!!たしかに嬉しかったけど…」


 あの日はやっぱり特別だったみたいだ。


 おれも借金なんてものがなければ心から大喜びしてたしな。


「それからも才原くんが色々手伝ってくれてるんだろ?」

「マネージャーですからね。同じ高校2年ですけど」

「ふふっ春に頼もしいマネージャーがついて良かったわ!ささ、もっと食べて!」

「はい!いただきます!」


 その後も楽しい夕飯が続いた。





 ご飯を食べ終えて、あと1時間ほどで9時というところ。

 愛咲の母親である夏子さんがお皿洗いをしてくれていた。


「春〜お風呂入ってきたら?」

「はぁ!?さ、さいはらがいるのに入れるわけないでしょ!?」


 ごもっともである。


「いいからいいから。私たちも才原くんと話したいことがあるし!」

「まあ、そうですよね」


 そりゃあマネージャーに聞きたいことなんて山程あるだろ。

 むしろ、ここからが本命だ。


「別にジロジロ見たりしないぞ?」

「そうかもだけど………」

「大丈夫よ!変な話はしないから!」

「…………わかったわよ」


 愛咲は渋々お風呂に向かっていった。


「じゃあ洗い物も終わったことだし」


 そう言って夏子さんが拓哉さんのとなりに座る。


「才原くん、そんなに緊張しなくて大丈夫だぞ!!」

「あ、はい」


 意識してなかったけど表情に出ていたのか。


 思ったより親との対面ってのはシリアスだな……


「まずは」


 さあ、何から言われるのか




「––––––春を引っ張ってくれてありがとう」


「え?」


 ありがとう、って言ったか今?


「その顔、何か口出しされたり、苦言を言われると思ってたか?」

「はい……だっておれは無理やり毒舌アイドルの方向に持ってったから」

「その強引さに感謝してるのよ」

「強引さに……?」


 夏子さんが嬉しそうに頷く。


「春ね、MOXに異動してから、いえそれより前の事務所にいた時から『こんなアイドル嫌だ』って言ってたのよ」

「愛咲が…か」


 可愛い系のアイドルとしての自分が、売れる為の方法としても受け入れられなかったんだな。


「最初は本人も可愛いキャラっていうのに納得していたんだけど、去年の冬くらいからは毎日ね」

「それで今年の春にMOXに移ったわけだけど、そこでもあんまり変わらなかったらしいんだ」


 前のマネージャーは可愛いキャラを押し通すことしか考えてなかったからな。なにも変わるはずがない。


「だけど、この前の木曜日だったわね。久しぶりに荒々しい感じで家に帰ってきたからなにかあったのかと思ったのよ。私が聞いたらなんて言ったと思う?」


 おれは無言で続きを待つ。


「『名前も言い忘れる高校生がマネージャーになった』って言ったのよ?」

「ぐっ………」


 やっぱ名前言い忘れたのと実は高校生だったのはやばかったか……


「嬉しそうにね」


「………え」


「色々文句は言ってたけどな!!『無理やりキャラが変わった』だの『ダンスの振り付けダメ出しされた』だの」


「でもな、久しぶりに笑ってたんだ」


 懐かしむように拓哉さんは上を見上げる。


「本当はつらいままやるアイドルなんて意味ないと思ってたけど、あの日春は君に大きく手を引かれたんだ」

「きっと文句ばかり言ってる子だけど、才原くんのことすごく信頼してるのよ」

「………そう……なのか」


 信頼……意外とされてるのか。


「今日の料理だってね、春が言ってきたのよ?」

「料理も?」

「『この前カフェ行った時にパスタとクラムチャウダー食べてたから好きかもしれない。無理じゃなかったら夕飯に出してあげて』って」

「あいつが……」


 たぶん"アリス"で食べていた時だろう。

 あの時のことを覚えてたわけだ。


「きっと口ではあんまりありがとうって言えないタイプなのよ」

「そうですね。いっつも罵倒されてますよ」

「ははっ!!やっぱりそうか!!」


 家でも罵倒してるのかもしれない。いやこの感じしてるな……


「もともと女子校にいるのは、春がモテすぎて女子の反感を買うようになったからでな。アイドルになったのは逃げてるだけじゃダメだと思ったからなんだ」

「………なるほど。……まあ、モテるでしょうね」


 あの顔にスタイル、モテない筈がない。

 そしてアイドルもまず人気が出ないと始まらない。だから可愛いキャラになったけどそのまま燻っていたんだ。


「そんな春と今日話してる才原くんをみて安心したよ。春は全く遠慮なんてしてない。君なら全部受け止めてくれるとわかってるんだ」

「マネージャーに遠慮もお世辞もいらないですからね」

「ははっ!そうか!!そういう才原くんになら春を任せれるよ。………な?」


 拓哉さんは夏子さんを横目でみやる。


「そうね。………これからも春をよろしくお願いします」


 それから、2人が頭を下げるのを見ておれも慌てて応えた。


「はい!精一杯頑張ります!」


いい家族だな、と心から思った瞬間だった。


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