四十二話
七花駅から電車で約30分、愛咲の家の最寄りはおれも知っているところで三光駅からだと20分もかからない距離だった。
さらにそこから歩くこと十数分、
「–––––これが、私の家」
「おお……」
愛咲家に到着だ。
おれの家と同じように、ここも洋風で新築のような新しさだった。
このサイズの一戸建てだと……おれの父親くらい収入がありそうで驚いてしまう。あんな稼ぐ人そういてたまるものか。
「入らないの?」
いつのまにか玄関のドアを開けていた愛咲が振り返る。
「あ、いやでかいと思ってさ。入るよ」
「普通……よりは大きいかもね」
玄関に入ると、おれの家とは全く異なる空間が存在していた。左右には観葉植物が置かれていて手入れも行き届いているように見える。外から二階にベランダがあるのも見えたが、あそこでもなにか育ててそうだ。
その分、毎日の家事が大変そうだが。
というか、最近ホテル通いだったせいかめちゃくちゃ広く感じるな……こんなとこに住んでるのか…
「リビングはこっち」
「おう」
ここまで高そうな家なんだ。
いったいどんなリビングが待ち受けてるのか。
アイドルの家に期待を膨らませて扉の先へ踏み込む。
「ただいまー」
「お邪魔しま〜す」
「–––––おめでとおおおお!!!」
パパンッ!!という音が響いたかと思うとおれと愛咲にはクラッカーが放たれていた。
「「えっ!?」」
急な左右からの音にビビるおれと愛咲に対して、満面の笑みでクラッカーを持っているのは愛咲の親。
どうやら盛大なおもてなしを受けたらしい。
「9時から放送なんでしょ!?すごいことじゃない!!」
「そうだぞ!!才原くんもありがとうな!!!」
「は、はぁ…どうも」
おれもハイテンションで感謝されてしまった……
となりのアイドルはというと
「ちょっと!!恥ずかしいから何もしないでって言ったでしょ!?なんでクラッカーなんて買ってるのよ!!」
話が通ってなかったらしく抗議開始のようだ。
「だってゴールデンタイムってやつでしょ!?今までバラエティだって少なかったのにいきなりなんて!!ねぇ!?」
「父さんと母さん、メッセージみてすぐに買い出しに行ったんだ!『これは祝うしかない!』ってな!」
「喜んでくれてるのはわかったけど、才原が来るのに……!!」
「そんな恥ずかしがるなよ春!!」
「まったく、乙女ねぇ〜」
「お、乙女とか関係ないでしょ!?………ほんと恥ずかしい……」
前に礼を言ってきた時並みで顔が赤いな……
でも、
「あははっ!ありがとうございます!びっくりしましたよ!」
こんな優しい親が一緒にいるのは幸せだぞ?
「……ごめん、親が……」
「いいじゃん。デビュー番組だぞ?むしろおれもなんか用意するべきだったな」
「ほら、才原くんもこう言ってるんだし!!」
「そうだそうだ!!ケーキもあるぞ?才原くんは甘いもの好きか?」
「はい!大好きです」
「あんたまで乗らないでよ……」
ケーキと来たら乗らないわけがない。
「ははっ、春の言う通り話しやすい男じゃないか」
「愛咲がなにか言ってたんですか?」
「何もいってないわよ!?お父さん達はちょっと黙ってて!!ほら、才原こっち!」
「……いっつもなに言ってるのか気になるなあ」
「は?」
「はい。ついてきますどこへでも」
家でもこの殺気は出る。もう一度来るかはわからないけど覚えておこう。
愛咲に引っ張られて二階の部屋の前に来た。
「ここって…」
「私の部屋。ここなら入ってこないし2人の熱が冷めるまで入ってるわよ」
「まじか」
リビングで見て帰るつもりだったのに、部屋に入れられるのは予想外だな。
「おお、めちゃくちゃ綺麗じゃん………」
部屋に入ると想像より広い空間が広がっていた。
白い壁で統一されていてシンプルだが、部屋に広がる匂いのせいかちゃんと女子高生らしさを感じる。
予想通りと言うべきか、ぬいぐるみとかピンクの家具はなかった。
「あんまり、ジロジロみないでよ…」
「見てないって。やっぱ可愛いってよりは綺麗だなと思ってさ」
「……なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた……!!」
「ははっ今日はずっとそうかもな」
家に友達、それも異性が来たらだいたいみんなそうなるだろ。
「とりあえずここら辺に座っていいか?」
「あ、椅子使っていいわよ。私ベッドに座るから」
あと数時間この部屋にいるってのもなあ……
椅子に座りながらなにかないか探すと定番のものを見つける。
「これ卒業アルバムか?」
「なっなんでそんなとこに!!??」
「たしかに。いっつも見るわけでもないならこんなとこ置かないよな」
「…っ……もしかして!」
「おわっ!」
すぐさま愛咲は立ち上がると、おれの手からアルバムを掻っさらい部屋を出て行った。
部屋の外に耳をすますと、
「お父さんかお母さん!!私のアルバム机にだしたでしょ!?」
「お、やっぱ定番の流れになったか!?」
「家に来た男の子と部屋で卒業アルバム……青春ね〜」
「やっぱりそうじゃん!!勝手に出さないでよ!!あと青春とかじゃないから!!」
「こんな早く戻ってきてまだ中身見せてないだろ?お父さんたちはもう少し料理作ってるから話してていいぞ!」
「大丈夫よ春!中学の時も今に負けないくらい可愛いかったんだから!!」
「この親はぁ……!!」
どうやら、めちゃくちゃ明るい両親にからかわれているらしい。
「楽しい家族じゃん」
部屋の中には目もくれずに、愛咲とその親のやりとりを聞くことにした。
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