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四十話

遅くてすいません!

 


 日曜日、今日も収録をするためにセカンドビルを訪れる。


 MOXの社員証があることで、周りの目を気にする必要もなくなったのは本当に良かった。

 一回脅すようなことをしてしまった受付嬢の井出さんとも和解できたし、すでに顔を覚えられ毎回挨拶してくれる。


「おはようございます才原さん」

「おはようございます井出さん。休日も出勤なんて大変ですね」

「いえ、その分お給料も弾むので大歓迎なんですよ!」


 そう笑う井出さんは本当に嬉しそうだった。


 MOXのことだから相当いい給料だったりするのかな……

 いや、片山さんからあの件で給料上げてもらったりしてるのか……?


 すると、井出さんが顔を近づけて小声で答えてくれた。


「それに!才原さんの頑張りが私にも反映されるようなので、頑張ってくださいね!!」

「あ、あはは………………やっぱそうか……」


 予想的中。


 まあどの道失敗するつもりはないから、あまり関係はないな。


「……それじゃあ行ってきます」

「はい!いってらっしゃいませ!」


 元気な声で井出さんに送り出されておれは3階へと向かった。








  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––







「よう」

「ん、おはよ」


 軽い挨拶だけ済ませてとりあえず荷物を置き、上着をかける。


「ちょっと……上着着たままこっち向いて」

「え?………まあいいけど」


 愛咲に言われた通り、上着を着て目の前に立つ。


「………ん、大丈夫。似合ってるわよ」

「え…………ああ、これこの前買ったやつか」

「なっ…あんた私が選んであげたの忘れたの!?」

「いやいや覚えてるって!……ただ意識しないで着て来たからさ」

「あきれた………人が選んだものくらい覚えてなさいよ」

「咄嗟に思い出せなかっただけで忘れてないって!………お前の今着てる私服だってあそこで買ったやつだろ?」

「っ……なんでそれは覚えてるのよ…」


 どっちも忘れてはいないんだけどな…


 おれはそのまま椅子に腰掛ける。


「メイクさんとか他のスタッフが台本持ってきてくれるまであと30分くらいか」

「………そうだけど」

「なんだよ」

「なんでもない!」

「えぇ……」


 ちょっと情緒不安定な愛咲。


 いや、いっつもこんな感じだった気がするわ。


 おれはスマホでスタッフの人から送られてきたメッセージを確認する。


 この前の収録は愛咲にとっては災難だったがおれにとってはほかのスタッフと連絡先を交換するいい交流になっていた。


 さすがに司会の人みたいな大物とはまだだけど、そのうち知り合えるだろ。


 あとは原のスクープをいつバラすか、だな。


 あの日ホテルで撮影した映像はまだひとつもメディアに渡していない。愛咲はもとからある程度の知名度があったが、波に乗ってきたところで暴露して勢いをつけるべきだ。毒舌アイドルなんだからあのスクープに関しての収録でズバズバ言いまくればもっと人気がでるに違いない。


 そんな風に愛咲のこれからを考えていたところで台本を持ったスタッフがやってきた。


「よし、やるか」

「今日は前みたいにはいかないわよ」


 愛咲のあまりの意気込みに少し驚くが、当然のことだった。


 原による、トラウマになってもおかしくない収録からまだ一週間しか経っていない。誰でも緊張したり、不安になるだろう。

 加えてこの毒舌スタイルもまだ3回目ということだ。気を抜ける状態じゃないな。


「めちゃくちゃ盛り上げてやろうぜ」


 軽く肩を叩いておれのやる気も伝える。


「当然」


 短く告げられた言葉にはその分熱意がこもっていた。







  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––






「はい!お疲れ様です!!」


 ツルツル頭のザ・男性ホルモンといった感じの男が収録の終わりを告げた。


 おれも台本の段階から切り込めるポイントを伝えたりしていたが愛咲の自然に言うその様はさすがの一言だ。

 打ち合わせでの緊張なんて嘘のように感じさせない。


「おつかれ!完璧だったな!」


 拳を突き出す。


「今回も、才原が言った通りだったわよ………司会の人の言葉が本当に一緒でそっちにびっくりした」


 スルーはされたが、一応本人も上手くいったのは感じたらしい。


「毎回予想通りにいくことはないけど、結構な確率で流れはわかるんだよな。でも、それもお前がしっかりと自然に切り込めてるからだよ」

「……まあ、そうよね。私も3回目だけどスラスラ言えてる気がするし」

「やっぱりMOXに来る前の経験も生きてるんだろうな」

「あの可愛いキャラで媚び売ってた時の……?」


 まるでいやな過去のように少し苦い顔をする。


 愛咲にとっては途中から伸びなくなったから失敗として捉えてるのかもな……


「そうだよ。ちゃんとあの時があったから今がある。消してしまいたい過去、失敗なんかじゃ全くない」

「私も全否定してるわけじゃないけど………ただ…」

「……ただ?」

「あの時の自分の映像を見ると、死ぬほど恥ずかしい……」

「あぁ………」


 高校生が中学2年生の頃のいろいろ書いてあるノートを見てしまった時と同じ感覚か。


ノートまではいかないがおれも似たような記憶はある。


「まあ、それならそのうち笑い飛ばせるようになるよ」

「………そうだといいけど…」


 まだそんな未来は見えないんだろう。


 でも確実に来ると思うぞ。





 周りのスタッフや出演者に軽くお礼を言って楽屋に戻る。


「ねえ、今日はカフェいく?」

「ん?……そうだな、なんか言わないといけないことが…」


 おれはスマホでメッセージを確認する。


 ピン留めされたスタッフとのトークルームを見て目を見開いた。


「あ、そうだ!!!今日めちゃくちゃ大事なことがあるぞ!!!」

「な、なによ………また打ち上げとか言わないわよね」

「この前撮った収録!!愛咲の毒舌アイドルとしてのデビュー戦!!今日の夜放送だぞ!!」


「え?…………きょ、今日なの!!??」


 椅子が倒れるのも気づかないくらいの驚きと勢いで立ち上がった。


「おれがマネージャーになったから基本はそういう連絡がおれに来るようになったんだよ。もちろん見るよな??」

「当たり前よ!!12時とかから??」


「––––––9時」


「え?」


 そうなるのも無理はない。おれだって時間を聞いた時はカレンダーで確認しまくった。


「日曜日の夜9時、ゴールデンタイムだ」


「え………ええええええええ!!!???」


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