三十八話
楽しんでくれたら嬉しいです!
金曜日を終えて今日は土曜日だが、おれは朝早くから桜楽家にきていた。
「おはようございます先輩」
「おはようございます、慎。朝早くから申し訳ないですね…」
「いやいや、全然大丈夫ですよ!……ちょっと緊張はしてますけど…」
「ふふっ慎なら耐えられますよ。頑張ってください!」
「耐える、の時点でキツさが滲み出てるんだよな……」
休日も先輩のそばにいる場合、ある程度の実力が求められる。
よって、今日が最初の訓練というわけだ。
運動神経は良い自信があるけど、痛みに耐えられるか、そこが重要そうだな。
「それでは、今日は彩香さんに教わってくださいね」
「え……男じゃないんですか?」
「はい。彩香さんには基礎の部分をやってもらいます」
「なるほど…それを習得したら執事の人が担当してくれるわけですね…」
「そういうことです。でも、なかなか基礎もきついですよ?」
そういう不安になることは言わないでもらいたかった……
それと、女の人と訓練とはいえ痛みを伴うことをすることになるとは……
あまり気がのらないままおれは訓練をするという別室に向かった。
「おはようございます才原様」
「お、おはようございます」
肩までのサラサラとした黒髪に、色白な肌と黒い服。
唇に塗られた口紅の朱が強調されていて、メイドというよりはめちゃくちゃ大人なお姉さんという感じだ。
足は細長いのに胸が大きくて、まさに完璧なスタイル。
………え、えろい……
「どうかしましたか?」
「あ、いえ大丈夫です!今日はお願いします」
「はい」
彩香さんはとくに気にもせず淡々と、といった感じか。
こっちが意識してるのが余計恥ずかしく思えてくるな…
「今日は外での振る舞いかた、目の配りかたについてがメインです」
「肉体的なことは今度ってことですか?」
「少しだけやりますけどほとんどないと思ってもらって構いません」
「おお、そうなのか………」
正直ちょっと嬉しい。
誰でも訓練と言われたらやりたくないものだ。
パソコンを使いながら、この状況ならどこを見るか、主人の後ろに控えるときと前で注意を払うときの違いは何か等々、様々なことを教わる。
学びながら給料も貰えるなんて最高じゃないか……!!
「それでは次に軽くテストをしましょうか」
「早いですね……」
「才原様は飲み込みが早いようなので始めますよ」
「……わかりました」
褒められたのは嬉しいけど、この調子だと今日中に護身術とかのほうまで行っちゃうんじゃないか……?
おれがテストどうこうより護身術の始まるタイミングを考えていると、彩香さんは紙を取り出した。
––––––胸の谷間から。
「えっ」
「失格」
その一言とともにデコピンが飛んできた。
「いたっ」
「いまどこを見てましたか?」
デコピンをした指を弾きながら問いかけてくる。
………可愛い………じゃなくて!
「え、いや……だってそんなところから出すから…」
「たとえスカートや口の中から出してきても全体を俯瞰して見ていなければなりません。先程やりましたよね?」
「うっ……はい……」
ただでさえ彩香さんが大人ボディすぎるのに、谷間から何かを取り出すなんて……
男子高校生なら凝視するのはしょうがないだろ。
「それじゃあ、この紙を渡します」
「は、はい」
一枚の紙を渡される。
2回ほど折りたたまれているのを戻すと、
「なっ!」
「失格」
「いてっ」
またデコピンされた。
「先程注意したばかりですが……?」
「い、いや!!だってこれは試験のやり方が悪いでしょ!?なんで彩香さんの水着姿なんですか!?」
そう、おれが開いた紙にはビーチでポーズを決めている彩香さんの写真がプリントされていたのた。
もちろん、水着姿の。
「こんなものまだまだです。いまの一瞬の気の緩みでお嬢様が危険に晒されるかもしれませんよ?」
「それは……たしかに…」
「まあ、一瞬どころか10分でも見つめていそうな感じでしたが」
「そんなことないですから!!…………くっそ……」
地味に弄ってくるなこの人……!!
でも、次こそは!!
「今日はここまでです」
「え?」
「失格」
「あたっ………………くっそぉ………!!!」
また………やられた……。
「ふふっ」
「な、いま笑ったでしょ!?」
「ええ。間抜けだなあと思いまして」
「こ、この女はぁ………!!」
「はいはい。まだテストは早かったですね。もう一度復習しましょうか」
「…………やります」
「ふふふっ」
「ば、ばかにしかしてこねぇ……」
こうして、おれと弄り好きな彩香さんの長い休日特訓が始まったのだった。
ぜひ下から評価お願いします!
ポイント欲しいです!、