三十七話
おれの服も買い終えて、恒例のようにカフェに来ていた。
"フクロウカフェ"というこのカフェは名前の通りフクロウがいる。正直フクロウが好きというわけでもないが≪フィリー≫にはこのカフェしか無かった。よって必然的にフクロウを見ながら話すことになるんだが…
「おい…ここじゃ集中できないんだけど」
「しっ!!………今こっち見てるのよ」
さっきからずっとこの調子だ。
可愛いのはわかるけど、今じゃなくても……
「お〜い、こっちおいで〜」
「ふふっ」
「なっなんで笑うのよっ」
「いや、普段とのギャップっていうか家に猫とかいたらずっとそうしてそうだな」
「いないから今こうしてるわけ」
なるほど、と思いつつおれもほかのフクロウに目をやる。
ここは基本みるだけじゃなく触ることもできるらしい。
周りの客も肩にのっけたりして楽しんでいた。
たしかにあのもふもふ感に触れてはみたいよな。
「お兄さんもどうですか?」
「え?」
「この子とってもいい子なので怖がらなくても大丈夫ですよ」
優しい表情をしたこの店員はおれがフクロウを怖がっていると思ったらしい。
「才原怖かったんだ?そうならそうと言いなさいよ」
愛咲もノッてくる。めんどくさい。
「はぁ……それじゃあ肩にだけ…」
「はい!ほらチユちゃん、お兄さんの肩においで」
なんとチユちゃんと呼ばれたそのフクロウはお姉さんに言われるとすぐにおれの肩に乗ってきた。
「えっ……こ、言葉わかるわけじゃないですよね…?」
「さすがにわからないと思いますけど、いつもお客様の肩に乗ることは多いので」
「なるほど……頭いいんだなお前」
そう言って頭を撫でてやると気持ちよさそうに体をくねらせた。
おっなんだなんだそこが気持ちいいのか?ならもっと優しく……
どんどん気持ちよくなっていってるように見えるな。
「す、すごい……」
「へ?」
おれがチユちゃんをモフモフしまくっているとお姉さんは驚きの声を漏らした。
「お、お兄さんフクロウカフェは初めてですよね?」
「そうですけど……」
「チユちゃんにそんな気持ちいい顔させるなんて……ペットとか飼ったりしてますか?」
「いや全然ですよ。飼ったこともないです」
そんなに難しいのか?頭触ってるだけなんだけど…
「愛咲やってみてよ」
「い、いいの……?…やった…」
かなり嬉しそうだった。まあ見てるだけじゃそろそろ飽きてきていたんだろう。
肩から移動してもらう。
–––––が、
「あれ…動いてくれないんですけど」
チユちゃんが動かない。むしろ撫でるのをやめた手に頭を擦り付けてくる。
「すごく懐かれてますね……こんなこと初めてです」
「ま、まじか……」
意外な才能を発見してしまった…!
まさかおれがフクロウマスターだったとは…
「わ、私もやっぱ触りたい……」
「あ、わかりました。………はい!この子はヤヤちゃんです」
「黒くて可愛い〜」
「チユちゃんとは違う種類っぽいな。そっちの方がふわふわしてる」
お姉さんの手から愛咲の肩にヤヤちゃんが乗る。
「か、可愛い……!!」
「わかるぞ!……おれももう手を止められなくなってきた」
「これ飼いたい人の気持ちわかるわよね……」
猫カフェ行っても同じこと思うんだろうな。
きっと大変だから買うことはないが。
「……あれ、チユちゃんウィンクしてない?」
「え?」
愛咲に指摘されてお姉さんとおれで顔を見てみると、
「あ、ほんとだ。おれ出来ないのに……」
「これ寝てるんですよ……!」
全く別の感想が出てきた。
「え、片目開けて寝れるんですか!?」
「はい。片方の脳を別々に休ませて寝るんです。頭を撫でて寝かせちゃうなんて……」
おいフクロウすごすぎないか?
ウィンクは毎日してるってことだし、片方ずつで眠れるなんて……
来世はフクロウ一択だな。
「あんた頭なでんのうまいのね」
ヤヤちゃんがそんなに懐いてくれないのか、少し不貞腐れた感じで言ってきた。
「そういうマッサージとか知っているんですか?」
お姉さんも聞いてくる次第だ。ほんとに珍しいみたいだな。
「いや、そんなことは。……あ、もしかしたら妹がいるからですかね」
「え、妹いたの?」
「いま中3だけどめちゃくちゃ可愛いぞ」
「あぁ、シスコンね」
「……もうそれでいいか…」
さすがに否定するのもめんどくさい。
逆に本当みたくなりそうだしな。
「妹さんに……マッサージですか?」
「あんた……変態」
突然の風評被害に思わず顔をしかめる。
でもある意味マッサージだったりするかもしれない……
「というか、妹がよく抱きついてくるんでその時に頭撫でると喜ぶんですよ。気持ち良さそうっていうか」
「な、なるほど………長年の鍛錬でできた技なんですね……」
「中3で抱きつくって……妹もブラコンなの?」
「え…普通じゃないのか?……ちょっとだけ兄離れできてないかもしんないけどさ」
「たぶん普通じゃないわよ」
「えぇ………」
そんなことはないと信じたいものだ。
なによりまともに話してくれなくなったらしたらおれが悲しい。
「今のチユちゃんみたいに毎日なでなでされてたらお兄さんのこと大好きになっちゃいますよ!」
「そんなうまいですかね……」
「はい!きっと妹さんもお兄さんにメロメロですよ」
「………ほう」
それは結構嬉しい。
いまでも抱きついてくるのは撫でられたいからだったりしてな。
「変な方向に行ってなきゃいいけど」
「ん?なにがだよ」
「別に〜。ただスキンシップもほどほどにしときなさいよ」
「そうだな」
ヤヤちゃんとチユちゃんを撫でている間に、外はどんどん夜へ近づいていった。
仕事の話はまた今度かなあ……
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