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三十四話

 


 何分泣いていたんだろうか。


「………んぅ……」


 私の頬から落ちた涙が当たってしまったみたいだ。


 起きてしまうかもとしれないと思い、急いでトイレに駆け込む。涙や鼻水やらでぐちゃぐちゃになった顔が鏡に映し出される。


「ははっ……ひどい顔……」


 それでも、こんな状態でも帰るわけにはいかない。


 もし、不用意に距離をとればバラされるんだ。

 それだけは、なんとしても阻止したい。


 私はそのままなんとか表情を戻してベンチに戻っていった。

 慎には少し怪しまれたけど大丈夫だったと思う。




 でもそのあとの気分は過去最悪で、特にカラオケのデュエットは死刑も同然だった。


 海斗に軽く根回しされて断れずに誘ってしまったけど、恋愛ソングなんて一緒に歌うものじゃない。

 天音ちゃんの言葉がフラッシュバックして、また涙が溢れてきてしまった。



 長くトイレに籠ってたことを変に疑われなかったのはラッキーだったかな。




 カラオケが終わると、気分の悪いまま誰にも打ち明けることなく帰っていった。






  ––––––––––––––––––––––––––––––––––––








 私があの日以来連絡を取り合っているのは天音ちゃん。

 クラスで交換した2人とはほとんど話してもいない。


 打ち上げの日は物凄く取り乱してしまったけど、きっと天音ちゃんは簡単にバラしたりしない。私から情報を集めるだけ集めてからのはずだ。

 そう思ったから、なるべく慎にはつっこんでいくようにした。特にこの前の密会していた女との関係は重要になってくると思う。



 それでも「一番可愛い」って言われたのが冗談かどうかはさすがに聞けなかったけど。


 私もまだその真実を知るだけの覚悟がないんだ。



 今、天音ちゃんからきたメッセージはいつも通りだった。


『今日はなんかないの?』


 年下なのにタメ口、なんてことを指摘することもできないほどの立場の差。私はおとなしく、従うだけだ。


 それでも、今は目の前のことをどうするか聞くことにする。


「沙雪ちゃんっていう子と校門で話してた。まだいるけどどうする?」

『話しかけて』


 秒で返ってきた。

 まあ、私の想いなんて知ったことではない、そういうことなんだろう。


 嫌気がさしながらも、通話を繋げて私は近づいていった。


「沙雪ちゃん、何してるの?」

「奈々先輩……いや、なんでもないよ。先輩と話してただけ」


 この子は慎を"慎先輩"とは呼ばない。

 それにはなんの意味もないのか、それとも只ならない想いがあるのか。


「わざわざ校門で?珍しいね」

「先輩に呼ばれてね。………なんでなんだろ」

「慎がわざわざ…?」


 いつでも部室で会えるのに……急ぎの用だったのかな。


 しかも、私たちにバイトって言ってたけど教室出てから30分も学校にいたの……?


「どういうことだろ……」

「奈々先輩はどうしたの?」

「あ、私は慎がタクシーに乗ってくのが見えて、沙雪ちゃんもいるから……その、ちょっと気になってね」

「ふぅん…」


 沙雪ちゃんとはそんなに話すことがないけど、慎や学校の噂でいろいろと情報が入ってくる。

 ほとんどが嘘だと思うけど、私はそれとなく聞いてみることにした。


「そういえばさ、社長令嬢なのは本当だけどお金が自由に使えるわけじゃないんだよね?」

「もちろんだよ。あたしに使えるお金なんて限られてるよ」

「そうだよね〜。いや、お金で成績買ってるとか言ってる人がいたからさ、もしかしてそんなにお金あるのか!と思ってさ」

「あたし成績いいから妬みとかかな。ちゃんと勉強してるよ」

「この前掲示板載ってたもんね!すごいよ」


 私も成績は悪くないけど、真姫や沙雪ちゃんと比べるとやっぱり下になっちゃうからね。


「あ、ちなみに慎とは何話してたの?」


 ここで聞いてみる。


「タピオカと耳の柔らかさ、かな」

「へ?」


 沙雪ちゃんは手に持ったタピオカを見つめて言う。


 タピオカと……耳……??


「先輩も帰ったし、あたしも帰るかな。じゃあね」

「あ、うん。ばいばい」


 意味を理解する前に、私には興味がないのか帰っていってしまった。


 ってか、沙雪ちゃんもタメ口なんだよなあ。まああの子はみんなに対してそうだけど……


 とりあえず慎と話してたことはわからなかったけど、今日の天音ちゃんへの報告はこんなところだろうか。


 私もやっぱり部活に戻ろうかな、と引き返したところで


「あ、奈々先輩」


 少し離れたところから振り返る沙雪ちゃんに話しかけられた。


「どうしたの?」


「あたしね、人の耳なら買おうとしたよ」


「………え?」

「あ、正確には耳の権利、かな。じゃあね〜」


 ……耳の権利……ってなに?……どうやって使うか、みたいな?


『………は?』


 スマホから聞こえてくる負の感情を受け止めながら思う。




 慎の周りの年下、癖のある子しかいないよ………



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