三十一話
5時間目6時間目と今日のコマを終わらせて今は部室練にきていた。目的地はその中でも一際寂れた雰囲気のある一番端の部室、テニス部だ。
「おつかれー」
まだきてないみたいだな。いや、今日も––––
「わっ!!!!」
「…やっぱりいたか」
「えぇ〜もっと驚いてよ。せっかく5分も待ってたのに」
「これ何回目だよ!お前5月に入ったばっかなのに恒例化してるのやばいだろ」
「先輩がいろんな反応してくれるから楽しいの!今みたいなやつはあんまりよくないよ」
「さすがに無理あるだろ……」
おれの反応が気に食わなかったらしく、口を尖らせる天鳳。こいつは常におれをからかってないと気が済まないタイプだ絶対。
ともあれ、なんでこんなとこで天鳳と会っているかというとおれと天鳳がテニス部所属だからである。おれは中学もそうで天鳳は高校から。ほかの部員も数名いる。
ただし、このテニス部には大きな欠点がひとつある。
それは今年の2月、先輩たちが喫煙していたらしく、二年間の部活停止、大会などもってのほかになってしまっているということだ。幸い2年後には再開できるため部室はこうして残っているがおれの代の部員は2人、そして後輩は天鳳のみとなってしまった。
新入生歓迎会の時点で2年間動かない部活に誰がはいるのか。結局、天鳳以外入ってこなかった。
おれは部室をたまに使えるというだけで在籍しているが、まあ他の連中もそうだろう。天鳳に至っては寝ていたこともあったしな。
その部室でたまに駄弁っているわけだ。
今日は授業中にスマホで話しかけられたから相手をしていたら誘われたって感じ。
「先輩〜」
ソファ、というかベンチに寝そべったまま話しかけてくる。
いろいろと見えそうで困るな……
「耳は触らせないぞ」
「あははっやっぱあれ気にしてるんだ?気持ちよかったんだね〜」
「驚いただけだからな?あんなことされないだろふつう……」
「まあ社長令嬢だからね」
「全社長令嬢にあやまれ」
そんなやつらばっかりならその企業もろくなもんじゃない。
「昨日学校サボったの?」
「え…なんで知ったんだ?」
「奈々先輩がぷんぷん怒ってたの見たからさ」
なるほど……。昨日のあいつなら叫んでそうだもんな…
「まあちょっと友達に勉強できるやつがいてさ、教えてもらってたわけ。サボってでもする価値があることだったんだよ」
「へぇ……絶対嘘だけどそういうことにしておくね」
「信用なさすぎだろおれ」
「そんなことより〜前から聞きたかったんだけど」
「なんだ?」
ホテルに泊まってる理由とかだろうか。グループ所有とかいってたからなんかあんのかな…
しかし、天鳳は予想の斜め上からきた。
「奈々先輩と付き合ってたりするの?」
「………はぁ??」
何を言ってるんだこいつは?
「先輩見つけた時だいたい奈々先輩いるじゃん」
「鷹宮もいるだろ?あと他にもクラスのやつら移動してる時もあるぞ」
「女は奈々先輩がほとんどだよね?いっつも仲良さそうに話してるし」
「まあ、気があうからな。けど付き合ってない」
「……証拠は?」
「……ん?」
「付き合ってない証拠。見せてよ」
いや無理だろ?付き合ってる証拠とかならすぐ出せるんだろうけどその逆って悪魔の証明じゃん……
「ないない。てか今はバイト忙しくて無理だから!」
「まあ、先輩忙しいと本当に相手してくれないもんね。………この前も2回くらい連続で断られたし」
「あれは誰だって断るだろ!なんでおれがお前の宿題手伝わないといけないんだよ…」
「令嬢の宿題だよ?プレミアつくかもよ」
「いらないわそんなプレミア。それならおれは妹とゲームしてたい」
「やっぱりシスコン……」
「もう否定はしない」
今度から認めるかな。
認めたらどんな反応するんだろ。たぶんすごい目で見られる。
「シスコンの先輩には彼女なんていないかあ」
「不本意ではあるけどそういうことでいい」
まあでも、
「––––クラスだと奈々が一番だけどな」
「え?」
「学校全体とかだとさすがにわかんないけどあいつかなりモテてるぞ?お前には負けるかもしんないけどさ」
社長令嬢な上に可愛い天鳳には及ばないかもしれないが、誰とでも仲良くなんでもこなせて可愛い、そんなやつがモテないはずがない。
そういや、先輩のそういう話は聞かないけどまあ多分めちゃくちゃモテてるだろうな。
「……な、なんでそんなこと言うの」
「いや、特には……。強いて言うならそんなにモテてる奈々とおれじゃ釣り合わないって感じかな」
実際は、考えたこともないが。
「え、や…そんなことないよ」
「フッ…さすがは後輩。…このあと何をたかるつもりだ?」
ジュースまでならいいぞ。
「先輩の耳柔らかいし、いい匂いするし」
「それ方向性違くね」
「いっしょだよ。……じゃ、じゃあ耳食べさせてね」
「それはダメ!プレミアだから!そんな安くないから!」
今日の放課後は飛びついてくる天鳳から逃げ回って過ごした。