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二十五話

ぜひたのしんでください。

 

 学校をサボったのはいつぶりだろうか。

 遅刻はしてもまるまる学校から出て行くなんてのは間違いなく人生初だ。


 けど、そんな人生初の気持ちを味わう時間すら惜しんでおれは栄女学院に向かっていた。


 三光駅から約40分かけての道のりが今はものすごく長く感じる。学校に着いたらまず中に入れてもらえるのかもわからない。


 だけど机の上で悩んでいても変わらないんだ。


 電車に揺られながらなんとか会えるよう願った。








  ––––––––––––––––––––––––––––––––







「ここが栄女……」


 その出で立ちはまさに小さな城。こんなとこで勉強に集中できるのか甚だ疑問だ。ただ雰囲気は中世ヨーロッパのようなものを彷彿とさせる気もする。

 もちろん中世ヨーロッパは知らないが。


 しかしラッキーなことに入り口に人はいないらしい。


「よし……」


 栄女も三光も私立高校のため、お互いの時間割はたいして変わらないだろう。いまは3時間目が終わる頃か……


 おれはスマホで愛咲にメッセージを送る。


「あとは見てくれるのを待つか…」


 そしてこっそり移動しながら、おれは目的地へ向かった。




 


  –––––––––––––––––––––––––––––––




 なんであいつまであんなこと言うんだろ。


 私のマネージャーなら励ましてくれるところなんじゃないの?

 頑張って早見さんにまでいったのに……なんであんな空気になっちゃったんだろ…



 きっと一回目が上手くいきすぎたんだ。

 私の実力ならここまでなのかもしれない。

 あそこで原さんが助けてくれなかったら……きっともう二度とあの番組には呼ばれないだろう。他にまで影響する可能性だってあった。



「晴れてんのがムカつく……」


 私の心と真逆の空がうっとうしい。


 ……もう今日は帰ろうかな。


 そう思って立ち上がった時だった。


「え……」


「……は?……なんで…」



 なんであんたがいんのよ……!!


 屋上のドアを開けていたのは才原だった。

 しかもここじゃありえない制服姿。


「見てたんなら既読くらいつけろよな…」

「な、なんの話よ!てかなんで栄女に来てんの!?」

「………お前と話しにきたんだろうが」

「はっ、話すことなんて何にも––––」


 そこで私は気づいた。


 …な、なんで、こいつがこんな顔してんのよ……


「おれはあの時何でお前を傷つけたのかもわかってない。……けど、…いや、だからこそお前と話さないとダメなんだ」

「………あんた寝てないの……?」

「……悪いかよ」

「………別に」



 ………こいつも一緒だったんだ。

 私みたいに悩んではくれてたんだ。



「いいコメントだったよ」


「え…?」


「原に言ったやつも、司会に向けたやつも……」

「は、はぁ?昨日と言ってることが違うじゃん!!昨日はなんであんなこと言ったって」

「あれはそういうつもりじゃない。ただ気になったから聞いただけだ」

「な、なによそれ…」

「お前の返しがおれの予想と違かったから、おれの根回しなんていらないくらいお前が考えてたから驚いてたんだよ」


 わ、私の完全な早とちりだったってこと?

 ……こいつは私を責めるつもりはなかったの……?


「ただ、原と早見、あと女優2人があんなんだったのは完全におれの読み違いだった。本当にごめん」

「あれは私のコメントがキツすぎたのよ。たぶんあの中で原さんに向けるべきじゃなかった」

「いや、愛咲は良かった。相手がクソだっただけだよ」

「クソって……いくらなんでも言いすぎじゃない?」


 あの異様な空気はたしかに変だったけど、原さんも早見さんも才原をネタにしたところ以外は良かった気がする。


「……ねぇ、あんたもしかして怒ってる?」

「当然だろ?お前にあんなことされて怒らないわけがない」

「…そ、そうなんだ」


 才原が怒ってるの初めてみるかも……


「でも、私のコメントが悪くないんだったらなにがいけなかったのよ」

「……おれの予想だけどな、たぶん–––」


 プルルルッ プルルルッ


「あ、私のスマホ………え…」

「誰からだ?」

「………原さんから……」


 昨日、連絡先を交換してからすぐに《原との一日》という人気番組の打ち合わせをしたいとメッセージがきた。

 流石にすぐそういう気分にはなれなかったけど、気分転換に今朝から軽く返信をし始めていたんだ。


「スピーカーで、おれはいない体で話してくれ」

「う、うん……」


 応答を押す。


『あ、もしもし春ちゃん?』

「はい。そうですけど、どうしました…?」

『今春ちゃん高校いるんでしょ?栄女学院てところ』

「は、はい。いますけど…」

『俺いま校門らへんに車で迎えきてるから、出てきてよ!今から2人で打ち合わせしよう!』

「えっ!?い、今からですか……!?というか学校って……」


 いくらなんでも非常識すぎないだろうか……

 要は学校を抜けなければいけないわけだし。


『大丈夫大丈夫!!一日休んだって問題ないよ!あと2人で静かに話せる場所も考えてきたからさ!』

「はぁ………っ……あ、あの…じゃあ今から行ってもいいですか?」

『お、来てくれる気にやっとなった??いいよいいよ!』

「そのかわり場所だけ私が決めたいんですが……」

『……ちなみにどこがいいの?』

「えっと…… ––––––––っていうところなんですけど」

『……へぇ。わかってるじゃん。さすが春ちゃん!そこでいいよ!』

「ありがとうございます。今から行きますね」

『おっけー!待ってるよ!』


 私は通話を切ってスマホのメモ帳を出していた才原を見る。


「………本当にこれでいいの?」

「ああ。たぶん間違いなく、今度こそ予想通りだ」

「でもやっぱり怖いんだけど……」

「おれがアドバイスしたことを意識してくれればいい」



「それにあそこは––––––––」



 私は才原の言ったことに目を丸くした。

 まさかそうだとは思ってもいなかったから。


 もしかしたら、本当になにかが変わるのかもしれない。

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