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十四話

 


「おっそい」

「いやどう考えても遅刻しないわけないだろ…」

「今日は全部あんたのおごりね」

「理不尽…」


 走ってきたことで上がった心拍を抑えながら愛咲の前に座る。

 今おれがいるのはさっき電話で言われた"アリス"というカフェだ。内装はまさに中世ヨーロッパという感じで値段の高さが滲み出ている。

 ちなみに中世ヨーロッパがどんなものかはしらん。


「とりあえず頼んでから話しね。あたしこれとこれ、あとデザートも」

「頼みすぎだろ!それだけで2000円超えてるんだけど」

「あ、このパンケーキも追加で」

「遠慮って言葉知ってる?」


 こいつおれが連絡しなかったの根に持ってるな…

 まあいずれ10億返すなら2000円くらいはした金か。


 ちょっと思考イカれ始めてるかもしれない。


「とにかくそれで終わりな!それ以上は無理」

「これでいいわよ。才原も早く決めて」

「…その上からは相変わらずだな…。おれも夕飯食べてくか…」


 なんとなく気になるナポリタンとクラムチャウダーを頼むことにしよう。

 久々の外食におれのテンションも上がってくるな。

 店員を呼んで注文を済ませる。


「才原って肉よりそういうのが好きなの?」

「ん?…いや今日はたまたまそういう気分だっただけだな。ステーキとかハンバーグもめちゃくちゃ好きだし」


 というか、今、おれはちょっと気になることを発見した。


「……お前今、才原って言った?」

「そうだけど?…なに」

「いや、ずっとあんた呼びだったからさ。……あと意外」

「い、意外ってなによ!!昨日は名前知らなかったし、あんたの事もただの変人だと思ってたからしょうがないじゃん!」

「…まあそうだな」


 変人は癪に触るけど…


「でも、まあこれから先私のマネージャーだし。名前くらいは読んだ方がいいかなって思っただけよ」

「それはどうも」

「そんなことより!!今から話すことほんっとにいっぱいあるんだからね?覚悟しなさいよ」

「わかってる。まずなんの話からだ?」

「昨日、あのあと片山さんから電話きたのよ」

「……それで?」

「驚かないってことは本当に片山さんのいった通りなのね……才原、あんたやっぱ変人だったわね」

「なんで変人になんだよ!?……片山さんに直接話してお前のマネージャーのポジションを勝ち取ったって話だろ?ガッツがあるって評価にならないのかよ」

「才原がマネージャーの資格も、MOXの社員である証明もなんにも持ってないこと、教えてもらったんだけど」


 …やっぱりそうだったか。


「さっき電話で言ってた『正式な手続きをしてない』ってのはそういう意味だな?」

「そうよ!!つまりはあんたただの高校生でしょ!?何がどうなって私のマネージャーになれるのよ!?」

「その辺は聞いてないのか」

「片山さんから才原のこと聞かれてただけ。あと電話番号も教えた。そしたら最後に爆弾発言されて終わりよ!!!」


 あの人も人が悪いな……わざわざ言わなくてもいいだろ…


「まあ、でもさ、なにわともあれ上手くいったわけだろ?資格がなくても能力はあるってことでいいじゃん」

「はぐらかすな」


 一日経ってもこの怖さには慣れないらしい。


「そのうち話すって。たぶん来週とかまでには……な」

「何で期限付きなわけ??」

「心の準備とかがいる的なやつだよ。あ、ほら料理きたし食べながら話そうぜ」


 ちょうど来たおれたちの料理で話題転換を図る。


「もし話さなかったら次も奢りだから」

「……地味にやだなそれ」


 とりあえず久々の外食を楽しみながら話すことになった。



「今日MOXに呼ばれたんだろ?なんの話だったんだ?」

「次の収録が決まったって話よ。ほんとはマネージャーが第一に聞く話なのにどっかの誰かさんは社員でもないから連絡手段がなくて私が呼ばれたわけ」

「……あ、おれお前にしか連絡先渡してなかった…」

「何が能力があるよ。ポンコツじゃん」

「お、お前…………昨日『あ、ありがとぅ』とか可愛く言ってたくせに」

「ちょっ、それは関係ないでしょ!!??あとあれは忘れろ!!感謝なんかしてないから!!」

「照れんなって」

「照れてない!!!」


 ここでおれは確信した。

 これ、永遠にいじれるネタじゃん。

 ふっ……もうおれが負けることはないな。


「顔赤らめてたのにな?」


「死ね」


 瞬殺されたわ。


 死体になったおれを横目に、愛咲は頼んだカルボナーラを食べながら話を進める。


「そんなことより。日曜の夜に撮るってことが決まったのよ。詳細は才原が一緒に来た時に詳しく話すって言われてるから明日お昼くらいからセカンドビルね」

「……わかった。1時くらいからでいいか?」

「それ遅刻はありえないからね?」

「わかってるよ…」


 おれ遅刻魔だと思われてんのかな?全部理不尽が原因なのに…


「まあ、仕事の方はそんな感じでいいけど、今一番気になってるのはあんたよ」

「おれ?」

「そう。三光高校2年の才原慎くん?」

「高校生のおれがどうやってマネージャーになったかって話はさっき終わっただろ?こんど話すって」

「昨日を私の最高のデビューにしてくれたのは認めてるわ。才原じゃなかったら絶対できなかった。でも、どこでそんなやり方を知ったのか、なんでマネージャーになんてなろうとしたのか、才原がどんな人間なのか私は知りたいの」

「どんな人間か……ねぇ」


 ただちょっと悪知恵の働く借金高校生ってところだろうか。

 希少性は誰にも負けない気がする。


「あれはただ生活してたら付いた知恵みたいなもんだけど……マネージャーになりたかったのは時給が良かったからだな」

「お金が欲しかったのはいいとしても、どんな生活してたら毒舌キャラの構想にたどり着くのよ…」

「人間関係とか人より気にしてたのかもな。まあよくわかんないけど、おれがどんなやつかはこれからわかってくだろ」

「…またはぐらかしてない?」


 こいつ鋭い……。


「それより愛咲はどうなんだよ?たしか高校生だろ。年齢詐称してなければさ」

「するわけないでしょ!!……わたしは––––


 そこでおれの電話が鳴る。


「あ、ごめん。………知らない番号だな」

「ちょっと見せて」

「なんでお前に…ってなるほどな。片山さんかこれ」

「…たぶんね。そんな感じの番号だったわよ」


 おれは意を決して電話にでた。

 もしかしたらここで急に解雇されるかもしれないのだから。



「もしもし、才原ですけど」


『お、繋がったか。昨日ぶりだな、才原くん』






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