十三話
一日二話投稿になりそうです
楽しんでもらえると嬉しいです。
執事になってください。
再び口にされたその言葉におれは何も返せずにいた。
返事を言うにはあまりにも考える時間がなかったから。
こんな真剣な、自分を認めてくれた人に適当な事は言えない。
「もちろん学校で気にかけてもらうだけで十分です。いつも通りの学校生活の中で会った時には話す、ご飯を一緒に食べる、登下校もできれば…という感じですかね」
ご飯と登下校は目立つな……。いっつも一緒に食べてるやつらにもちょっと申し訳ないし…。
それに登下校って学校外じゃね?
「あ、タダではありませんよ!そうですね…一日5万円でどうですか?」
「……は?」
「5万円です!一週間で25万、1ヶ月でだいたい100万円ほどでしょうか?」
「ま、まじですか……??」
開いた口が塞がらないとはこのことか。
今ならデラックスでもファンタスティックでも一呑みできそうだ。
なんて現実逃避まがいのことをしてしまう。
そんな中、我が妹は理性を保っていたようで
「だ、だめだよ!!お兄ちゃんは渡さないんだから!!」
「あ、天音?…でも月100万だぞ?クレープ何個買えんだよ……」
「クレープは一回忘れて!!たくさん買ったってどうせ食べれないんだよ!」
まあそれはそうか。
「桜楽さん…でしたよね?」
「はい。天音ちゃんでいいですか?」
「良くないです!そんな風に呼ばれることはもうありません!お兄ちゃんはそんな暇じゃありませんから!」
「そうなんですか?」
「えっ?……あ、いやどうなんでしょう…」
「そ、そもそもお兄ちゃんの名前知ってますか!?」
「名前ですか?いえ、まだ聞いていませんけれど…」
「ほら!!名前も知らないのに執事なんておかしいよ!!お兄ちゃんだめだからね!?」
微妙な理論だな!
でも額が額だし、先輩綺麗だし…
「お兄ちゃんは!!私のお兄ちゃんなんだよ……!?」
さっきよりよくわかんなくなった。
「あたしは反対だもん……」
けど、こういう天音は久しぶりに見るかもしれない。
いつもより子供っぽいっていうか、可愛いというか。
ぎゅっ…とおれの袖を掴んだまま離そうとしない。離れ離れになるわけでもないのに
「……さっきの返事ですけど」
先輩と天音の視線がおれに向く。
「すいません。お断りさせてもらいます。」
「お兄ちゃぁぁああん!!すき!!」
「抱きつくな!!まだ話は終わってないから」
天音とは対照的に先輩は動じていななかった。
「理由は聞くまでもないみたいですね」
「……はい。わざわざ声をかけてもらったのすいません。誘ってくれたのは本当に嬉しいですけど、今はできないです。」
「ふふっ……いえ、私も残念ですけど強制しても意味は無いですから。それに」
先輩はさっきより、柔らかく笑った。
「いつか、を待つのも楽しそうですよ」
「おれがその気になっても先輩が断るような気がしますけどね。」
それに釣られておれも笑う。
いつかその日が来るような予感を感じながら。
「それと、才原慎です。学校でもよろしくお願いしますね、先輩」
先輩は少し驚いたような顔をするも、おれの差し出した右手を掴んで応える。
「桜楽朱華里です。よろしくお願いしますね、慎」
今日おれは物凄く良い出会いをしたんじゃないだろうか。
「なんか、雰囲気いいね」
「え?」
「可愛い先輩と仲良くなれて良かったね」
「天音…?なんで機嫌悪くなって──
本日何度目かの手刀は左の脇腹へと吸い込まれていった。
──────────────────
「なんか思い出してたら脇腹痛くなってきました…」
「三連発でしたからね」
先輩も覚えてるくらいには強烈な手刀だったんだろう。
「あ、そうだ。その急に話が変わってしまうんですけど、今回も執事の活動内容は一緒ですか?」
「たしかあの時は主に学校で気にかけてもらう、程度でしたよね?」
「はい。それに登下校も加わってて、ん?ってなったのを覚えてます」
「あははっ!…そうですね、今回は少し変えさせてもらいます。」
「…というと?」
「お昼や登下校はあまり気にしないでもらって大丈夫です。その代わり休日も付き合ってください!」
「つまり土日のどちらかは、いまおれを案内してくれたメイドさんと同じ扱いってことですか?」
「そういうことです。少し護身術等の稽古もしてもらうと思いますけどその分給料も高くしますよ」
「ちなみに…どれくらい?」
「それは振り込まれてのお楽しみですっ!」
「…なるほど。そうきましたか…」
ちょっと濁されたけど先輩のことだから安いはずはない。とりあえず働かせてもらえるだけで十分か。
「ではたのしみにしておきますね、先輩」
「はい!…えっと、とりあえず来週あたりからで大丈夫ですか?」
「はい。問題ないです」
「わかりました。また連絡しますね」
先輩とは少し前に連絡先を交換してある。
だから頻繁にではないけど他愛もないメッセージを送りあったりしていた。
「えっと、それじゃあ…今日はもう帰るって感じですかね。おれも最近忙しくて…」
「それでいいですよ。来週から学校が楽しみです!!」
「期待に応えられるよう頑張ります!それじゃまた来週に」
「はい!彩香さん、送ってあげてください。」
「かしこまりました」
そう答えたメイドさんに連れられておれは桜楽家を後にした。
「あーーーー疲れたっ!!!オッケーして貰えて良かったーーー!!」
昨日と同様ベッドにダイブしてスマホをいじる。
違うことと言えば今日は帰りが早かったことか。学校から帰ってすぐ先輩の家に寄ったから、時計の針はまだ時刻7時を回ってすらいない。
「あ、愛咲からメッセージきてる」
昨日おれが担当することになったアイドルだ。
片山代表と契約することで無理やりマネージャーにしてもらえたけど、その辺も早く整理しないとな…
不在着信が3回に、メッセージが12件。
「めちゃくちゃ申し訳ないんだけど!!!」
おれはすぐに電話をかけた。
すると2回目のコールが鳴り終わる前につながる。
「あっ、もしも──「おっそい!!!何時間待たせるわけ!?あんた私のマネージャーでしょ!?」
「……………悪かっ「そもそもあんた正式な手続きなにもしてなかったらしいじゃん!? 今日MOXから重要な話があるって呼ばれたから学校休んでまでいったのに……あんた電話出ないし!」
「ちょっとまて、正式なてつ──「待たない!!今から七花駅の"アリス"っていうカフェ集合ね。7時過ぎたら全部あんたのおごりだから」
プツーという音とともに電話は切られた。
「これ電話した意味あった?」
おれの意思なにも伝えられなかったんだけど。