ここがアイツのハウスね
「再び私は帰ってきた!!!」
長きに渡ると思われるが実際は昨日ぶりに。
築30年は超えているであろう1戸建て住宅の前で声を張り上げる。
2階建てのその一軒家はしばらく補修などが行われていないせいか外壁の汚れが目立ち、
一層老朽さを醸し出している。
半分はがれたサンルーフの下にいつも置いてあったクルーザーバイクが姿を消しており、
家主不在であると暗に物語っている。
GPS探知を開く。
本来表示されるであろう点は消失しており、
行方を知ることはできない。
付けてはバレ付けてはバレを繰り返したが、
今回はバイクをばらしてまで考えた至高の場所に設置した。
……はずだったが、
この場所で追跡が途絶えていることからやはり外されたと考える方が妥当か。
「あーくんも照れ屋さんなんだから」
追い求められることが照れ臭かったからいつも彼は
(いや、本気で辞めてくれよこれだけは)
と微笑みながら言っていた、多分だけど。
照れ屋で自分から外したのかなと言ったものの、状況はそういう回答を用意していない。
自分が実際に彼のバイクをバラシてGPS装置を設置した時には
それなりに場所を使用して行った。
同じ手順とはいかないまでもGPS装置を外すには一度バラす必要があり、
その為には先ほども言ったそれなりに場所を使うため作業を行った形跡が残るものだがそれが無い。
また、彼が几帳面であれば終わった後に掃除をしたりするのだろうが
そういうタイプでも無いのだ。
かといってこのガレージではなく家の前の道でやるとも
近隣住人への迷惑を考えると考えにくく、
どうやってこの場所でGPSの探知から逃れたのかがわからなかった。
「あれーみのりちゃんこんにちは、今日は珍しい時間に来てるね」
そんなこんなと考え事をしていると、
ターゲットの隣の家に住む妙齢の女性に声をかけられた。
この人は堀田ちえみさんという人で
この家にちょくちょく遊びに来ることから顔なじみとなったのだ。
非常に朗らかな感じで人当たりが良く、
こんなやんちゃな隣人がいても嫌な顔一つしない事に、
みのりは第二のおばあちゃんとしてリスペクトしている。
「やっぱりアキラくん何かあったの?」
「なんかそんな気がしたもので、何かありました?」
「えぇ、実は・・・」
ちえみさんの話だと昨日の夜、洗濯物を干すために外に出ると
隣で何やら物を動かしているような音が続いたらしい。
普段ならギターの音だとか、ドラムの音だとかがしているんだが
昨日に限ってそれがなかったようで逆に印象に残っていたそうだ。
「まるで引っ越しでもするかのような勢いだったわよ。
ただ朝はいつも通り挨拶してくれたけど」
(おばさん行ってきます!)
その日の朝、いつも通りに挨拶をしてきてくれたアキラ。
何故かその日は晴れてるにもかかわらずいつも乗っているバイクは無く、
歩いて何処かに向かっていた。
その時は
(先日振った雨で何処かに置いてきたバイクを取りに行くのかな?)
位の感覚で接したが今思えば満面の笑みだったそうだ。
「なんかあか抜けたような表情してたのよー。
あれは何か良いことあった時の顔よ、
あたしの予想って当たるから。
もしかしてコレかしらね、
いやねーみのりちゃんと言う者がありながら。
前々から思ってたのよ、
あの子はみのりちゃんを無下にし過ぎだって。
このご時世こんなに尽くしてくれる女の子がどこにいるのって。
あたしの良く行くスーパーでも挨拶のできるいい子がいるんだけどレジが遅くてねー、
あたしもそんなに暇じゃないから周りを見て
その子のレジ以外に並ぶんだけどやっぱりみんなその事をわかってて…」
途中から意識がシャットアウトしてしまう。
後半なにを言ってるのか覚えてないけど、
そりゃそんな晴れやかな顔してたら誰だって予想が付きそうなものじゃないかな……
まぁこの人の裏の顔はこの段階ではまだ出せないし、仕方ないよね。
再度家の外観をチェックする。
確かにいつもなら窓の近くに置いていたギターアンプらしき置物の影はなく、
透明ではない窓と言えど、さえぎる物の無いことは見て取れた。
ただこれだけでは模様替えしたと言えなくもない。
まだ何かを喋っているちえみさんに教えてくれてありがとうと答えると
入り口の引き門を開け玄関の前に立つ。
取っ手を握る。
当然戸締りはしっかりとされている、えらいぞあっくん。
先日の騒動でカギを交換されてしまっているが舐めてもらっては困る。
電子キーでない限りは素人であるみのりでも簡単に開けてしまう事が出来るのだ。
映像の場合モザイクのかかってしまいそうな工程を終えると、
抵抗力が0となった扉がいらっしゃいませと大手を広げて出迎えてくれた。
「おじゃましますよっと……」
みのりはこの時点で確信をする。
今回の事態は異常であると。
コロナの影響で執筆がほぼ不可能な状態です
続きはかなり先になりそうです。