005.ルール説明(3)更新予定
「必要なことは大体伝えたし、あとは転生後の立ち回りについてくらいかね。あぁ、そうそう。仮に神の使徒が覚醒状態にあり、少年の立ち回りから転生者ではないかと疑われた場合には魔法則開発局の魔力法則調査官と名乗るといい。もし、それで納得してもらえず所属を問われたならネビロスの配下だと答えるといいさね」
ネビロスというのは目の前にいる神様の名前なのだろうかと思いながら内容を深く記憶に刻み込んで返答とともに首肯する。
「でだ、神の使徒が転移者から異世界の文明を守るのを表向きの理由としているように、少年には魔力法則調査官を名乗らせるにあたって不自然にならぬように表向きの理由も与えとくぞ。転移者が見つかるまではそれを当面の行動指針とするといい」
「わかりました。その詳細に関してはステータスのヘルプ機能に追記を?」
「いや、これから話すことに関しては秘匿情報なんで口頭で伝えるのみだな。それと転生後はあたしからの支援は期待出来ないと思ってくれ、下手にやり取りをしてあちらさんに目を付けられるのは上手くないからね。それを理由にして神の使徒に付け入られかねない」
「相手のやり口が神様の言っている通りならそうなっても不思議じゃないですね」
「そういうことさね。それで少年に与える表向きの仕事だが、新たな魔術法則の調査だな。今現在、転生予定の世界で幻獣どもを使って新たな魔術法則として付与魔術を構築させてる。使用する魔術要素は属性魔術と一緒で、効果に関しては現在調整中といったところだな。少年が物心つくころには広く世間に浸透してるだろうが、使える者は属性魔術以上に限定されることになる」
「使えもしないものをわざわざ調査するので?」
「使えないというか、使う必要がなくとも付与魔術の恩恵を受けられるようにするつもりだからな。想定しているのは一部の魔獣に付与魔術をかけ、討伐後に素材として利用させる等の利用法だな。これなら付与魔術を使える必要はないだろうし、転移者を送ってくる輩たちにとってもゲーム要素は増すだろう」
「それはそれで魔獣が乱獲されて生態系が乱されるのでは」
「そこは心配するな。魔獣は魔法生物なんでな。世界規模で発動している魔法則の一部で、日付変更時に一定の個体数が維持されるように供給され続ける。乱獲されている場合には強化された個体が発生するよう調整も入る」
日付変更時に供給され、乱獲時には強化された個体が発生するとの言葉から減少したHPが25%増しで回復するのも同様の原理なのだろうかと思い至る。討伐した魔獣のHPが加算されるのもその辺りが関わっているのかもしれないが、魔獣の個体数を維持し続けるとしたなら供給される魔力にも限度があるだろうし、いつか破綻するのではないかと思えた。
それを遅らせるためにの措置として魔術を使える者を限定しているのかもしれないが、と考えた辺りで魔獣に殺傷された相手から奪われたHPを回収することで成り立たせるつもりではないかと考え至った。
「もしかしてなんですが魔獣のHPを0にした状態で討伐した場合、素材としては無価値になるんじゃないですか?」
神様は、察してくれたかとばかりに表情をわずかに崩した。
「あぁ、その通りさね。付与魔術は永続効果ではなく、付与効果が連続発動しているに過ぎないんでな。それを維持するのにもMPが必要になる。それがどこから供給させるているかということさね。死亡後HPは回復しないがMPは毎時5%回復するからな、その辺りを利用してるのさ」
「魔獣がそういったものなのでしたら幻獣に関しても似たことが言えるんですかね? 討伐可能と言った表記もありましたし」
「いや、幻獣は魔法則の管理者たちみたいなものだな。実体はないから魔術でしか倒せないがね。ただ一部、受肉したりあたしの管理下から離れたりする者も出て来ているようでね。困ったものだよ」
と言った辺りで神様は言葉を一旦切って俺を見据えた。それが意図するところを汲み取れということなのかもしれない。
「まさかとは思いますが管理下から外れた幻獣の討伐も魔力法則調査官の業務の一環ですか?」
俺の言葉を受けた神様はぱちぱちぱちと手を叩いてにこりと笑顔を浮かべた。
「正解だよ、少年。特殊な能力を持ち実体のない精神生命体だから現地では精霊扱いされているが、秩序を守れなくなったがゆえに幻獣と呼び変えて討伐対象に含めた。これに関しては転移者が正義感溢れるようなやつなら幻獣討伐に出向こうとするだろうからある意味では役立ってくれるだろうがね」
俺は自身の行動を思い返して苦り切った表情をした。
「失礼、少年を揶揄したわけではなかったんだが、そう取られても仕方のない発言だったな」
「いえ、事実ですから。とにかく委細承知しました。他になにかありますか?」
「これで全部だな。あとは少年を転生させるばかりさね」
改めて転生と聞き、手段は選ばないと決意はしたが心理的な抵抗感が生じる。転生するということは、転移と違って俺が元々生まれるはずだった誰かの位置を奪ってしまうことになり、その両親は全くの赤の他人を世話することを知らず知らずのうちに強要されてしまうのではないかと心理的に少し引っかかってしまった。
そんな俺の心の内を読み取ったのか、神様は俺を後押しするように告げる。
「表情から察するに転生に気乗りしてないようだが、少年が転生することで命がひとつ永らえるのだと考えるといい。少年の魂が宿る肉体は、魂が定着せずに死産する予定となっているものなのでな」
神様の発言内容に関する事実確認は出来ないが、今はそれを信じることにした。
「では、お願いします」
「次に会うのは少年の死後だな」
神様は俺の前に手を突き出し、ぱちんと指を鳴らす。直後、俺の視界は暗転して意識が遠退く。
「頼んだぞ、少年」
それが転生前に聞いた最後の言葉となった。