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043.紅き世界の創造者(2)因果の歪み

 アヴラメリーは迷うことなく俺の申し出を受けたが、最もな疑問を投げかけてくる。


「それは助かるが、お前の連れも外の関係者か?」

「いや、俺が巻き込んでしまった一般人だ」

「責任でも感じているのか」

「俺が関わらなければ幸せに暮らせていたかもしれないですからね。その分の補填くらいはしてあげたいので」

「今も関わっているから苦痛を味わう羽目になっていると思うぞ。外の人間であるお前と関われば、お前の運命に合わせて因果が歪むことになる。前世の記憶があるなら心当たりがあるんじゃないか?」


 そう言われ、心当たりばかりが脳裏に浮かぶ。俺が関わったことでメルさんが、前世で守りたかった少女と同じ運命をたどっているのが事実なのだとしたらどうすればいいのだろう。深く考え込んで押し黙っているとアヴラメリーはなにかと察したようだった。


「その様子だと心当たりがあるようだな。私たちはこの世界では完全な部外者なんだ。本来、この世界を循環している輪廻の中には含まれていない。そんな中に異物が混じれば正しい流れが歪むのは当然だろう。私たちと接触があった時点で不具合が生じるんだ。その影響は時間経過とともに大きくなる。だからなるべく関わる人間と時間を限定する必要があるのさ」


 村の住人が両親を除くと老い先短い高年齢層の人間で固められていたのもその辺りが関係していてセーレ様が手配したのかもしれない。


「貴女が人殺しを見世物にしているこの街に留まっているのもそういった理由からですか」

「この街の風習に対して忌避感を抱くのはわかるが、私は任務の都合上から事象予報士に教えられた転移者の未来をここで待つ他ないからな。下手に動けば予報とは大きく外れた未来に行き当たってしまう。当然、お前の来訪で予報は完全に明後日の方向に進んでしまってるがな。事象予報はあくまでもその世界を循環する魂の過去の情報を元に算出された予想に過ぎないから計算外の異物が混じれば当然だな」


 話を聞けば聞くほど俺の存在は疫病神のようである。


「完全に俺がご破算にしてしまったようですね。そういった場合の対処法などはあるのでしょうか」

「転移者の因果自体も事象予報に組み込まれている。概ね予報に近い行動をするはずだ。遠からずこの街を訪れて例の風習の存在を知って、調査された転移前の性格からして忌避感を抱くだろう。予報では儀式に参加させられている人間を救おうと横槍を入れて来ることになっていた」


 聞かされている話の内容と今現在の状況は既にズレてしまっている。


「既に儀式は終わってしまったようですが。近々というのは1年近く先のことなんですか」

「いや、1週間以内といったところだ。おそらく今回の儀式に対してなんらかの物言いでも入るんだろう」


 黄昏聖母ババロンからの介入だろうか?


「この世界に転移者が既に居て1週間以内に来るというのであれば、今は南西の街でのごたごたに巻き込まれてるのかもしれませんね」

「あの街か……確かにあり得そうな話だ。実験として住民の幼い子供全員が魔創痕シジルを刻まれてたくらいだからな」

「そちらの街に関する事情もご存知で?」

「私の出身地だからな。この魔創痕シジルもそこで刻まれたものだ」


 アヴラメリーは左手をひらひらと軽く振って示す。


「それがなぜこの街に」

「親父に連れられてここまで逃がされたのさ。ま、結果として儀式の人柱候補にされたわけだがな。この街の儀式は南西の街からの逃亡者を使って行われるんだ。ここに来る魔創痕シジル持ちは南西の街からの逃亡者だと根拠なく断定されるからな。ここの連中が儀式を娯楽として楽しんでるのも自身とは関係のない奴隷まがいの人間が使われてるからさ。そういった事情もあるのを南西の街を管理してる連中は知った上で、北部の街は安全だと噂を流して逃亡者を定期的にここに来るよう誘導して見逃してやってるのさ。その辺りのことを感覚的に察して南に逃げたやつは大体待ち伏せされて殺されてるだろうな」


 その辺りの街同士の情報共有からして確実に黄昏聖母ババロンが関わっていそうな話である。


「それなら南西の街の関係者は、今日この街に儀式を娯楽として楽しむために来てそうですね」


 もしかしたら俺とメルさんが泊まっている宿に部屋を取っているかもしれないと思っているとアヴラメリーは説明を加える。


「お前らが泊まってる宿はそいつらの御用達さ。窓から見てただろ、あのとき。儀式は、毎度あの場所で締めくくることになってる。私が殺した子を取り押さえてた連中は宿の主人に雇われたやつらなのさ。その宿の主人は南西の街の有力者にかなりの金額を積まれてるみたいだがな。私も任務を果たすまで殺されるわけにはいかないから宿の主人からの取引には仕方なく応じてるけどな」


 アヴラメリーの実力なら魔術で街を壊滅させることなどわけないだろうに、彼女はそれに耐えて今の状況を受け入れているらしい。


「だとしたら妙じゃないですか。なんでその宿の部屋が空いてたんです。貸切にされていても不思議じゃないでしょうに」


 そんな俺の疑問にアヴラメリーは、気付かないのかとも言いたげに告げる。


「そりゃ、お前が左手を手袋で隠して女の格好してるからだからだろ。次の人柱候補として値踏みされてんだろうさ」

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