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028.若きふたりの探求者(5)魔術結社

 翌朝、俺たちは鉱山方面に向かう乗合馬車を探して折良く見つかった。と思ったのだが、距離的に異様なほど料金が安く、どことなく不自然さがあった。だからなにか裏があるのではないかと訝しんでいると程なく答え合せでもするように俺たちの前にひとりの人物が姿を現す。


「おはようございます」


 それは狩猟組合ハンターギルドで査定を担当していたノーマンだった。


「ノーマンさん、でしたよね。なぜここに?」

「なぜって、この馬車を用意させたのが私だからですよ」


 明らかに怪しくはあるのだが、目的がわからない。


「理由を聞いても?」

「移動しながらで構いませんか。おふたりは急いでいらっしゃるのでしょう?」


 馬車に乗れということなのだろうが、得体が知れずどうしたものかと判断に迷う。これに対してメルさんはというと躊躇うことなく馬車に乗り込んでいた。俺はノーマンを警戒しつつ彼女に続いて馬車に乗り込む。その後に続くようにしてノーマンが乗り込み、御者に指示を出すと俺たちの対面に腰を下ろす。すると馬車はすぐに走り出した。


「警戒はもっともだと思いますが、こちらを見ていただければ納得していただけると思います」


 そう言ってノーマンは胸元からペンダントを取り出す。よく見るとそれは見覚えのある指環で、同じものが俺の左手人差し指にもはめられている。


「……緋色の印象ですか」

「はい、私もあなた方同様に魔術結社黄昏聖母(ババロン)に所属しております」


 魔術研究会ではなかったのかと首をひねる。


「これで私が同志であることはご理解いただけたと思います」


 同志という言葉に前世の嫌な記憶が蘇る。俺は警戒を強めてノーマンに問う。


「話の前にひとつよろしいですか?」

「なんでしょうか」

「この馬車は本当に鉱山に向かっているのでしょうか?」


 ノーマンはなにかを察したように、ふっと微笑を浮かべた。


「心配は無用です。我々は全力であなた方の望むことを成せるよう力添えをさせていただきますので」

「理由を教えていただけますか?」

「昨日、狩猟組合ハンターギルドに持ち込んでいただいた魔石の中に魔力を失った廃石がひとつ混じっていたのもそうですが。おふたりのことはセーレ様の霊媒師シャーマンをなさっている同志から聞き及んでおりますので」


 父さんが魔術結社を通じてなにかと手を回してくれていたらしいが、どうにもそれだけとは思えない。


「父さんから?」

「えぇ、あなた方は精霊術パウリナを扱えるそうですね。それは魔創痕シジルのない左手と廃石から事実であると確認が取れましたので支援させていただくことになったのです」


 昨日の話し合いの結果、魔術師であることを隠すために朝からメルさんは手袋をしていたが既に遅かったらしい。

 隠しきれているとは思ってはいなかったが、父さんは俺たちが精霊術パウリナを使っていたことをどういった心持ちで見守っていたのだろうかと少し気になった。

 すると隣に座って話を聞くのに徹していたメルさんが口を挟む。


「結社に精霊術パウリナを扱える方はどれくらいいらしゃるんですか」

「現在、確認が取れているのはあなた方だけですね」


 その発言で手厚い支援の理由がわかった。


「それでなのですが、私から私的にひとつ頼みごとをさせていただいてもよろしいでしょうか」


 やはりなにか要求されるようである。無償に近い金額で馬車を用意しているくらいなのだから相応の見返りを提示される可能性は高い。そう思っているとノーマンはキラキラと目を輝かせて告げた。


「私に精霊術パウリナを見せていただけないでしょうか」

精霊術パウリナを?」

「はい。遥か昔から精霊術パウリナを人間が使うことが出来るのだという仮説自体はあったのですが、実際に目にした者は過去に誰もいませんでしたので。もしそれをこの目で見ることが出来るのであれば、私は……」


 ノーマンは全身を歓喜に震わせ、自身を抱きしめるようにして恍惚とした表情を浮かべる。かなり魔術崇拝的な思想に傾倒してしまっているらしい。それとも知的探究心から来るものなのだろうか。どちらにしても魔術結社と深く関わるのは危険な気がした。


「魔法を見せればいいの?」


 言うや否やメルさんは左手の平の上に氷の立方体を出現させる。止める間さえなかった。彼女が行使した魔術を目にしたノーマンは感動に打ち震え、涙さえ流していた。


「素晴らしい。これが魔創痕シジルを使った紛い物ではなく、本物の魔法ですか」


 ノーマンの反応を目の当たりにして嫌な予感しかしない。俺たちが世界にとって特別な存在になってしまうのは危険な兆候だった。


「メルさん、あまり軽率なことは」


 と言いかけた俺はメルさんが一瞬だけ優越感に浸ったような表情を見せたのが気になった。


 メルさんは魔術を使えなくなったことで家族から捨てられた。そんな彼女が魔術によって他者から認められるというのは、彼女にとって俺が思っている以上に大きな意味があるのかもしれなかった。


 下手に持ち上げられて妙な方向に流されなければいいが、と俺は言い知れぬ胸騒ぎを覚えた。

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