026.若きふたりの探求者(3)素材と付与魔術
現れた魔獣からは森の奥から漂っていた気配と同じものを感じる。もしかしたら彼らは俺たちが歩き疲れて休むのをひっそりと追跡しながら待っていたのかも知れない。
「メルさん、初弾の迎撃よろしく」
それだけ告げて俺は立ち上がり、腰の短剣を引き抜く。獲物である俺が動いたのに合わせ、俺たちを中心に据えて扇状に展開していた魔獣たちが一斉に大口を開けて赤熱する火球を吐き出した。
迫る火球を放置して俺は地面のわずかに上を擦るようにして一歩踏み出す。すると俺の靴はスケートリンクを滑るように地上数㎝の位置を進む。実戦で使用するのは初だが、かつて失敗した【ホバーボード】を元に改良を重ねた魔術を用いて俺は地上を滑走する。魔力物質を生成出来るようになって以降『操作』や『変化』の精密な扱いに慣れ、移動用魔術の挙動は非常に滑らかになっていた。
魔獣たちに向けて突き進む俺に迫っていた8つの火球は、空中に突如出現した氷の板に進路を阻まれ共に消失する。初めて遭遇する出来事に魔獣は一瞬たじろいだようだったが、すぐに次弾を放つ姿勢に入った。だが先行して俺が発動待機状態に入らせた『風』属性に魔力比率80%振り分けた魔術【インターセプト】の無駄に広く展開された発動領域内に魔獣たちは入っているために魔術発動条件を満たせずに火球が生み出すことが出来なくなっていた。
不可解な現象に混乱した魔獣の一体と距離を詰めた俺は、その横を通り抜けざまに魔力物質製の短剣を振り抜き首を斬り落とす。
仲間の一体が殺傷されたことで魔獣たちは、いつもの獲物とは違うと警戒を新たにし、魔術の火球を放つことを辞めて自身の爪牙による直接攻撃に切り替える。最初の攻撃方法からして普段は遠方から火球による集中砲火を浴びせて弱ったところを襲っているからか、魔獣たちの動きは鈍重とは言わないまでも素早さとは縁遠いようだった。
俺は彼らの前肢による大振りな爪撃をするりと躱し、こちらからは斬撃を与える。そうやって魔獣たちの間隙を縫うように滑りながら前肢を斬り飛ばし、胴を薙ぐなどして一体また一体と行動不能にしていった。
そんな一方的な戦闘を繰り広げる中で早々に標的を俺からメルさんに切り替えた一体が彼女に襲いかからんとしていたが、一辺70㎝程の氷の立方体に頭部を潰され、力なく地面に伏せさせられていた。
メルさんが造り出した氷塊の大きさからして使用MPは30ちょっといったところだろうから魔獣のHPは思った以上に少なかったらしい。火球を2発撃とうとした時点でMPはほぼ枯渇していたようである。標的が弱ったところを群で襲撃するのもその辺りに起因しているのだろう。
戦闘を無事に終えはしたが、一体だけとはいえメルさんに接近を許してしまたので立ち回りをもう少し見直す必要がある。彼女は主に消費MP20〜30程度の『土』属性魔術を多用するので最低でも物理干渉10〜15%を与えて多少は牽制出来ているかも知れない。しかし、今回の魔獣と違って高HPで俊敏な相手と対峙したときに魔術を用いない直接攻撃された場合に防御手段は現状皆無だった。
メルさんに合わせた装備を魔術で生成して渡そうとは思うが、どこで入手したか説明出来ないものを渡すわけにもいかないので商店の賑わう割と大きな都市に着いたら適当に理由を付けて渡そうと決めた。
とりあえずメルさんの装備のことは一旦置いておくことにして俺は討伐した魔獣の解体を手早く済ませようとメルさんに声をかける。
「解体して狩猟組合で買い取ってくれそうな部位だけでも持って行きますか」
「徒歩だし、まるごと持ってくのは無理だもんね」
「それじゃ、俺がちゃちゃっとやっちゃいますんでメルさんは再襲撃がないか周囲を警戒しつつ休んでてください」
「うん、わかった。そっちはロランに任せるね」
特に魔力を強く感じる部位である胸部を切り開く、すると動物なら肺のある辺りに熱気を発する拳大の硬質な物体が存在していた。
狩猟組合で買い取ってもらえる素材はきっとこの部位だろう。
この部位にはなんらかの付与魔術が施されているようで触れるには熱過ぎるので俺は荷物から掴むのに適当な道具と魔力物質製の厚手の袋を取って来た。
残る7体も同様に開胸して付与魔術が施された部位を回収して袋の中に入れていった。ただメルさんが倒した魔獣だけはHPが0になっていたために、その部位は付与魔術が効力を失って熱を発していなかった。一応なにか使い道があるかもしれないので、俺はそれも念のため回収した。
他の残ったものに関しては、かなりの熱を発する素材周辺の部位や毛皮には結構な耐熱性があるだろうからそっちも買い取ってもらえそうだが、俺の解体技術や日暮れまでの時間を考えると厳しいものがある。ここはすっぱりと諦めて最初に摘出した素材だけを持っていくことにして作業を終了させた。
「メルさん、終わりました。血の臭いに引き寄せられて別の獣が寄ってくる前に早いとこ出発しましょう」
「燃やしとく?」
「たぶん、今以上に臭いが広がっちゃいますよ」
「じゃ、やめとこっか」
町に向けて再出発して魔獣の亡骸から充分に離れたところで俺は、亡骸を残した場所付近の地面に『水』属性魔術を行使して土を泥濘ませる。そして亡骸をある程度地中に沈めてから魔術の行使を切って水分を消失させ、地面を一気に乾かし固めた。




