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021.幼きふたりの研究者(7)運命の行先

 メルさんのステータスからして過去にMPを全消費した経験があったはずなので彼女が倒れてしまったのは想定外だった。けれど結果として俺の望んだ方向にことは進んでくれていた。


 俺はメルさんを心配しつつも彼女を両親に任せる形となり、ひとり部屋に戻される。部屋でひとりになった俺は改めてメルさんに説明した内容を思い返す。魔力比率に関してはかなり大雑把な説明だったので魔術がきちんと発動したのが不思議に思えた。

 もしかしたらさっき彼女が使った魔術は『変化』か『操作』のどちらかが効果を発揮していなかったかもしれないと一瞬思ったが、MPが0.0にらなっている以上きっちり発動しているのは間違いない。だとしたら彼女は感覚的に正確な魔力比率に調整出来ていたことになる。それなら改めて説明し直す必要はないかもしれない。次回以降で魔術が不発になるようなら魔力比率のことを正確に説明し直すことにしてメルさんの魔術に関する問題は一応解決したということにした。


 俺は頭を切り替えて昨晩創り出した物質の検証をしようと思ったが、今日のところは控える。メルさんが倒れてしまったことで両親が俺の様子を不意に見にこないとも限らないので大人しく素直に眠ることにした。




 翌朝、目を覚ますと朝食の支度をする音が聞こえたので俺は手伝いをしようと台所に顔を出す。するとそこには母さんの手伝いをするメルさんの姿があった。


「起きて大丈夫なの?」


 挨拶をするよりも先に俺はメルさんに尋ねていた。


「私はお姉ちゃんだからね」


 するとメルさんは腰に手を当てて満面の笑みで、そんなよくわからない答えを返して来た。


「え、うん。そうだね」


 俺の返答がお気に召さなかったのかメルさんは不満気に頬を膨らませる。そんな俺たちのやり取りを見ていた母さんが彼女の言葉を補足するように告げる。


「ロラン、メルちゃんしばらくうちで一緒に暮らすことになったからね」

「そうなの?」

「うん、そうなの。だからよろしくね」


 思った以上に早い流れに戸惑ってしまったけれど、メルさんに食事を運んでいた人物のこともあるのでそちらはどうするのだろう。それを気にしてメルさんに目配せすると彼女はこそりと教えてくれた。

 どうも今朝早くに父さんがメルさんの屋敷に出向いて折り合いをつけて来たらしく、相手は食事を運ぶ手間がなくなってもお金が得られるのならどうでもいいと簡単に引き下がってくれたらしい。

 繋がったばかりの関係を駆使して上手く立ち回れていることに驚きを感じると同時にメルさんも転生者なのではないかという考えが一瞬脳裏によぎる。その考えを否定するように俺は頭を左右に2度ほどふった。

 でも神の使徒となる転生者なら俺の下手な説明を聞いて魔術を発動出来たことを考えると不自然ではない。神の使徒を送り込んで来ている悪魔は、俺が前世で転移されるのを知った後に神の使徒のなる人物を過去に転生させていたらしい。

 悪魔が神の使徒の辿る運命を予め設定出来るのようだったので言い知れぬものが込み上げて来た。


 俺は遠くない未来に転移者を探す旅に出る予定でいる。もしこのままメルさんが俺の家族の一員となり、ともに旅に出るようなことになれば彼女が神の使徒候補である疑いがさらに高まるのは間違いない。

 まだ断定は出来ないが、もしそうだった場合に俺はメルさんをいつか手にかけなければならない。そんなありえなくはない未来を想像して俺は頭が痛くなった。


 正直なところ考え過ぎだとは思う。それでも魔術を使えなくなったままの彼女が特異な能力ちからを行使する転移者と出逢うようなことがあれば、その人物を頼る未来は確実にありえたと容易に想像出来た。俺はその可能性をひとつ潰すことが出来ただけでも今は充分なのかもしれない。


 俺は朝食を前にそのことが頭の中を駆け巡って食事どころではなく、ずっと考え込んでいた。すると隣に座っていたメルさんに肩を揺すられた。


「ロラン、早く食べないと出かけられないよ」

「……うん」

「どうしたの?」

「なんでもない」


 そう言って誤魔化すように俺は朝食を一気に平らげた。食事を済ませ、父さんが仕事に出る前に山菜やキノコが採取出来るところを尋ねて何ヶ所か有力な情報を教えてもらった。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 母さんに見送られ、俺はメルさんとふたりで家を出る。メルさんはどこか浮かれた様子で足取りは軽く、跳ねるようにして目的地を目指す。俺はそんな彼女の背中を追いながら長く時間をかけて息を吐く。不意に彼女は振り返り、にこりと笑う。その表情が俺の記憶にある別の笑顔と重なって見え、動揺して足を止めてしまった。


「ロラン、そんなにのんびりしてると置いてっちゃうよ」


 俺は内心の動揺を押し隠しながら止めてしまっていた足を無理やり動かしてメルさんを追う。


「待ってよ、メルさん」


 駆けながらありえない未来だと否定ながらも想像してしまう。


 いつかメルさんを俺が殺さなければならない日が来るかもしれないと。


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