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002.招喚事情説明

 状況が飲み込めずに口を閉ざしていると目の前の女性は拍子抜けしたようにつくっていた笑顔を崩した。


「初手は黙って相手の観察かい? そうやって相手の出方を待って後手後手に回ってると取り返しのつかないことになるって、学んだばかりだと思ったんだけどね。実際、手遅れだっただろ」


 返す言葉もない。だがわかってはいても迂闊に発言するのも躊躇われた。


「ま、いいさね。とりあえずあたしの話を聞いてから判断してみるのも手のひとつだわな」


 そう言った彼女はこちらの注意を引くようにテーブルの盤面をこつこつと叩いた。するとテーブルの盤面に映像が浮かび上がり、再生される。その映像の内容に俺は目を釘付けにされた。そこには俺が刺されて死に至るまでの一部始終が映し出されていた。


「ついさっきの出来事なんだから記憶に新しいだろう。少年はなぜ殺されたか理由がわかってなかったようだからね。だからその辺のことから説明してやるさね。そこが一番気になって他の話を聞く気になれないだろうからね」

「彼女がああなってしまった理由を知ってるんですか」

「お、あたしの話を聞く気になったかい」


 戯けたように言う彼女を見据えるとどこ吹く風とばかりにへらりと笑った。


「少年を呼んだのもアレが理由なんだから説明出来ないはずもないさね」

「教えて下さい。彼女はどうなってしまったんですか」


 身を乗り出して迫ると落ち着けとばかりに軽く手を突き出されて座るように促された。


「落ち着け落ち着け。少年は死んじまって時間は有り余ってんだからそう逸るなよ」

「……やはり俺は死んだんですか」


 死んだという実感がなかったのでなんとも言い難かった。それでも目の前で自害してしまった彼女をひとりで旅立たせずに済んだことに安堵もしていた。


「当然だろ。少年は悪魔に与えられた能力ちからを使って世界の法則をめちゃくちゃに掻き乱したんだからよ。そりゃ、神の使徒に殺されるってもんさ」

「悪魔? 俺を異世界に転移させたのは神様のはずじゃ。それに彼女が神の使徒って言うのは一体なんなんです」

「いちいち聞き返されてると話がすすめらんないな。きっちり説明してやるからしばらく黙って聞いてな」


 俺は逸る気持ちを抑えて口を噤んでちいさく頷いた。


「んじゃ、順序立てて話していくが、少年に異能を与えて異世界に送り込んだのは神でもなんでもない。人間の一個人に特異な能力ちからを持たせて別の世界に送り込み、文明や世界の環境を掻き乱すのを娯楽目的で楽しんでる奴らなのさ。それが少年が神だと思っていた存在の正体さね。んで、少年を殺した少女の方だがアレはそれを阻止するために神に遣わされた監視者だよ。少年がもし異能を使って世界の法則を乱した場合に駆除するためのね。とここまでで質問はあるかい?」

「遣わされたって、俺が転移させられたとき彼女は17年以上も辺境の村で過ごしていましたよ」

「あぁ、そのことかい。そりゃそうさ、少年が転移させられている最中に少女は17年の時を遡って転生させられてる。根本的に向こうとこっちじゃ時間の流れが違うのさ。現地の人間として生まれていれば転移した自分を監視してるなんて疑うやつはそうそういないからね。もし少年が異能を使って暴れ回らなければ彼女は神の使徒として目覚めることなく生涯を終えていたことだろうね」

「俺が村から連れ出さなければ彼女はあんな目に遭うことも神の使徒として目覚めることもなかったってことですか」

「そういうことさね」


 俺が彼女の人生をめちゃくちゃにしたという事実に自嘲した。


「ま、建前はそんなもんさ」

「建前?」

「マッチポンプなんだよ、あれはな。あの少女も少年と同じように使われてんのさ。要するにゲームだよ、ゲーム。お互いの駒を使って異世界で遊ぶためのな」

「彼女はそれを知ってるんですか」

「言っただろ。少年が異能を使わなければ目覚めることはなかったってな。自覚なんてないよ。操られてんのさ。少年も死に際に見だだろう。少女がなんの躊躇いもなく自害したのをな。あれはゲームが終了したから自害させられてたのさ」


 あまりの内容に言葉を失った。彼女を道具として使い潰している存在に対して怒りがふつふつと湧き上がる。


「何故そいつらは野放しになっているんですか」

「証拠がないからさ。それに神の使徒を送り込んでる方には曲がりなりにも世界の文明や環境を異物から影響を受けないよう正常に保つって御題目があるからな。そうそう手出し出来ないのさ。尻尾を掴むなら転移者を送ってる方だろうね」


 なぜ俺がここに呼び寄せられたのかがようやく見えてきた。


「……それで異世界に転移させられていた俺を?」

「理解してくれてるようでなによりさね。あたしはそいつらを誘き寄せる環境を整えた世界をひとつ管理してる。事情を知ってる少年にはそこで転移者が現れるのを待って欲しいのさ」

「やらせてください。それで彼女が救われるのなら」


 俺は間髪入れずに答えた。


「そうかい。やってくれるかい。それならいろいろと方針に関して説明させてもらうよ」

「えぇ、お願いします」

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