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018.幼きふたりの研究者(4)残された時間

「メルさん、他に聞いときたいことある?」


 俺の問いにメルさんはふるふる首を横に振る。


「ううん、私は知りたいこと知れたから大丈夫」

「そっか。じゃあ、父さん。俺から最後にひとついいかな」

「おう、なんだっていいぞ」


 父さんは任せろとばかりに満面の笑みで胸を張った。


「えっとね、新魔術ノウァのことって誰から聞いたの。セーレ様からじゃないんでしょ?」

「お、ちゃんと俺の話聞いてくれてたみたいだな」

「もちろんだよ。だってセーレ様が4年前に旅に出ちゃったって言ってたのすっごい驚いたもん」


 まだ精霊にしか使えないという新魔術ノウァが1年前に発見されたのならセーレ様以外の精霊となんらかの形で父さんは関わっているはず。隣に座るっているメルさんは、俺の言葉を聞いて遅れるようにしてそのことに気付いたらしい。


「別の精霊様から聞いたの?」

「残念、それはハズレだな。俺に新魔術ノウァのことを教えてくれたのは、世界一の鉱山の麓街に居る霊媒師シャーマンと紋章官だな。そこであのお金造ってるからな」

「なんて精霊様がそこにはいるの?」

「ハーゲンティ様とザガン様だな。そこには2柱の精霊がいるのさ。んで、そこで霊媒師シャーマンや紋章官やってるやつらも俺と一緒で魔法のことを色々と情報を集めててな。よく手紙のやり取りしてんのさ」


 どうやら魔創痕シジル持ちより、霊媒師シャーマンや紋章官の方が魔術に対する知識欲は旺盛らしい。


「父さんも魔法使ってみたいの?」

「そりゃな。かっこいいし、やっぱ浪漫があるだろ」

「セーレ様には教えてもらわなかったの。魔法の使い方」

「聞いたことはあるんだが、俺のMPは0だからな。使いたくても使えないんだよな」


 ステータスのMP表記が0だから父さんみたいに魔術に興味のある人間でもそこで立ち止まっちゃうんだな。


「そっか、じゃあ俺もダメなのかな」

「どうだろうな。ロランはまだ4歳だからな。そのうちMPがなにかの拍子に増えるかも知れんぞ」

「うん、そうだったらいいな。父さん、いろいろ話聞かせてくれてありがとう」

「いいってことよ。また聞きたいことがあったら聞くといい」


 父さんは満足気に笑う。そこにメルさんがおずおずと尋ねる。


「そのときは私もいいでしょうか」

「あぁ、もちろんさ。いつでも好きなときにうちに来るといいぞ」

「ありがとうございます」


 ひと段落ついたところで父さんは、ぱしんと音を立てて両手を打ち鳴らした。


「よし、そんじゃ母さんご飯よろしく」

「はーい」


 話が終わる頃合いを見計らっていたらしい母さんは既に食事を温め直していた。メルさんが食事時の時間を割いてもらっていたのだと恐縮してしまいそうだったので、俺は彼女の肩を叩く。


「メルさん、話したいことがあるから俺の部屋に来て」


 と告げてメルさんの返事を待たずに彼女の手を引いて自室へと連れて行く。扉を開け、部屋に入るよう促す。部屋に踏み入った彼女は珍し気にほとんどなにもない俺の部屋をきょろきょろと見回していた。


「適当に座って、椅子かベッドの上くらいしか座るとこないけど」

「うん、それじゃあ」


 メルさんはベッドにとすんと腰を下ろし、俺の方に視線を向けてくる。


「それで話って、なに?」

「魔法のことなんだけど、教えてもいいよ」

「うん、それで……その先がなにかあるんだよね?」


 気持ちが逸っているのか落ち着かない様子だったけれど、単純に喜ぶには早いと気持ちを抑え込んでメルさんは問いかけてくる。


「父さんの話を聞いてわかったけど、俺がネビロス様に教えてもらったのって、たぶん精霊術パウリナってやつだよね」

「うん、きっとそうだね」

「それでね。メルさんは、いいの。紋章術テウルギアじゃなくても」


 メルさんは押し黙り、決して短くはない逡巡の後に口を開く。


「お母様やお父様からしたらダメなんだと思う。でも、なにもしないまま私だけ家族でなくなっちゃうのは嫌なの。だからね、私に魔法を教えてもらってもいいかな。もう時間がないから」


 メルさんが最後に付け加えた『時間がない』との発言が気になった。既に育児放棄された状態ではあるけれど、彼女はなにか切り捨てられる期限のようなものを感じ取っているのだろうか。


「魔法を覚えないといけないのっていつまでなの?」

「たぶん、来年の今くらいかな」

「なにかあるの?」


 一瞬、メルさんは躊躇いを見せたがすぐに理由を口にする。


「今3歳の弟がセーレ様に挨拶するためにここに来るの。たぶんちょっと前くらいに魔創痕シジルを刻んで貰ったんだと思う。昨日、私に屋敷の外に出てもいいって手紙が届いたから」


 メルさん以外の後継者が魔創痕シジルを得たから彼女を残す意味がなくなったということか。それで弟がセーレ様と挨拶を交わすために村を訪れる日が両親と面と向かって顔を合わせられる最後のチャンスになると彼女は判断したらしい。確かに今の彼女に対する扱いからしてあり得そうな話である。


「そうなんだ。うん、わかった。その日までに俺が絶対にメルさんが魔法を使えるように手伝うよ」


 目尻に涙を浮かべ、顔をくしゃりと歪めながら無理に笑顔をつくろうとして失敗しながらもメルさんはどうにか笑った。


 そしてただひとこと「ありがと」とだけ告げた。


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