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015.幼きふたりの研究者(1)秘匿された情報

 当初の目的を果たした俺たちは精霊の祠を後にする。父はまだやることがあるらしく、その場に残っていた。


 村に戻る山道で俺たちは次になにをすべきかと話し合う。そこで出した結論はメルさんの屋敷にある文献を調べることだった。

 なんでも屋敷の書斎には大量に文献があるらしい。ただまだ幼く知識の乏しいメルさんでは内容を読み解くのは難しく、時間もかかるのでほとんど未読な状態らしかった。


「それ、俺たちでも読めるのかな?」

「ロランも文字は読めるでしょ?」

「文字は読めるけど難しい言葉は知らないよ」

「なんとなくわかれば大丈夫よ、たぶん」

「それなら本の中にたくさん出て来る難しい言葉だけ、あとで父さんに聞いてみればいいかな」

「じゃあ、それはロランに頼むね」


 方針がまとまると俺はメルさんに手を引かれ、屋敷まで走らされた。ほどなく屋敷前に到着すると息を切らして門扉を押し開くメルさんに案内され、敷地内に入る。昨日は敷地の外から遠目にしか見れていなかったが、庭は全く手入れされていない。それは玄関先まで続く煉瓦の敷き詰められた通路の外側は雑草が繁茂していることからも明らかだった。

 玄関ポーチまで来るとメルさんは金属製の扉を引き開け、先に入るように促した。中に一歩踏み入ると広々としたホールが広がっていたが、ひとの気配が感じられないからか妙に肌寒い。床に目を馳せるとどこかホコリっぽく、きちんと掃除が行き渡っているとは言い難い状態だった。


「ひとりで住んでるの?」


 あとから入ってきたメルさんに尋ねると彼女はわずかな逡巡の後に応えた。


「今は私だけね」

「ご飯は?」

「朝と夜につくって来るひとが居るよ」

「リーエルってひと?」

「それはお母様のことだから違うよ。というかそんなことどうでもいいでしょ。早く書斎に行くよ」


 メルさんは強引に会話を切って、足早に二階に上がって行く。俺は少し間を開けてから彼女の背中を追う。かなり気になるところではあるが、今は触れるべきときではないと頭を切り替えた。


 書斎は屋敷の二階廊下を突き当たりまで進んだ先に位置していて、一番日当たりの悪い場所にあった。部屋の中に入ると古い本から漂う独特の匂いに迎えられる。決して広くはない書斎の壁2面は本棚が天井まであり、厳つい装丁の本がぎっしりと詰まっていた。正面の壁には採光用のちいさな窓があったが、嵌め込まれている硝子の透明度は低く、外の景色は見えず多少薄暗かった。


「魔法で明るく出来たらいいのにね」


 そうつぶやくとメルさんの返答が即座に返って来る。


「明るく出来るのって火魔法くらいでしょ、屋敷が燃えちゃうから無理だよ。それにすぐ消えちゃうし」


 MP1で1秒も保たないから明かりとして使えないのはわかるけど移動方向を指示しなければ燃え移ることはないんじゃないかと思ったが、魔創痕シジルによる魔術の移動方向は固定なのかな?


 などと考えながら俺はメルさんの指示に従って適当な本を手にとって、ぱらぱらと内容を流し読みする。なんとも小難しいようなことが書かれているように見えたが、どうにも精霊に関する讃美が長々と書かれているばかりで魔術に関しては対して触れられていなかった。


 それから何冊か流し読みしてわかったが、どれも似たり寄ったりで書かれている対象となっている精霊が違うくらいしか差異がなく、どういったものを司っていて、どんな恩恵を授けているかがわかる程度だった。それによって魔術要素を推測出来なくもなかったが完全とは言い難い。どこかに魔創痕シジルをまとめたものはないだろうかと思ったが、見つからなかった。それどころか今まで目を通した本には魔創痕シジルが描かれているものは一冊もなかった。


「メルさん、魔創痕シジルの本とかないのかな」

魔創痕シジルを扱えるのは、1柱ひとりの紋章官だけだから本に載ってるわけないよ」


 使える魔術がバレると簡単に対策されてしまうから秘匿されているのだろうか?


「それなら精霊様の本じゃなくて魔獣の本とかないかな」

「うーん、あるのかなぁ。でも、なんで魔獣?」

「魔獣も魔法使ったりするんでしょ?」

「魔獣は魔法使えないよ」


 神様から聞いている話と違うので不思議に思っているとメルさんは、俺の様子からなにかを感じ取ったらしい。その後は俺の希望した本を探すためにか本棚に並ぶ本を眺めて回り始めた。

 俺も俺でそれらしい本を探すが、どれもこれも精霊のことが記されているものはばかりだった。


 結局、俺たちは暗くなるまでふたりがかりで本棚に並ぶ本から魔獣に関するものを探したが見つからなかった。


「今日はもう暗くなっちゃったからまた明日かな」


 そんなメルさんの言葉で今日の調査は終了となった。

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