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014.辺境の少年ロラン(9)精霊の祠と父の仕事

 約束を交わした俺たちは、まず最初にセーレ様のことを知ることから始めようということになった。

 その手始めとして精霊の祠を目指す。俺は村で生まれて4年も経つというのに、ここで祀られているセーレのことを聞いたことがない。魔術師の家系ではないからとも思ったが、精霊様のお膝元で全く名を耳にしないのは妙な気もした。


 意図的に話題を避けられていたのだろうか?


 そんな疑問を抱いた俺は、なんとなしにこのことを道すがらで交わす会話の話題としていた。


「精霊様が嫌いなのかな?」

「ロランのお母さんは、そんな感じしなかったよ。だってセーレ様のところにご挨拶に連れて行こうと思ってたって言ってたじゃない」


 メルさんの発言を耳にして、そういえばと思い出す。母さんはメルさんと俺が朝早くから出かける先が精霊の祠だと知って納得もしていた。明らかにメルさんがセーレ様と関わりのある家系だと知っている反応で、そこに嫌悪感のようなものはなかった。

 結局、セーレが祀られているらしい祠に到着するまで疑問は晴れず。最終的には両親に直接聞けば早いと結論するに至った。


「着いたよ」


 そう告げたメルさんの隣で俺は辺りを見回す。切り拓かれた敷地の入口には門柱のようにして二本の石柱があり、そこから真っ直ぐに進めと導くように地面には敷石が飛び飛びに点在していた。

 俺は目の前の光景にどこか懐かしさを感じて童心に帰り、敷石を軽やかにぴょんぴょんと飛び移っていく。すぐにメルさんに多少のお咎めをもらってしまったが、足を止めることなく進む。たどり着いた先には、こじんまりとした祠と石造りの祭壇を守るようにして有翼馬の石像があった。俺は石像を指し示して、遅れるようにしてこちらに向かって来るメルさんに質問を投げかける。


「これがセーレ様?」


 それに対する答えはメルさんからではなく、全く別の方向から返って来た。


「そいつはセーレの霊獣さ」


 俺は聞き覚えのある声に振り返る。するとそこには父さんの姿があった。


「父さん? なんでここにいるの?」


 俺の視線の先、祠の裏手で横になっていた父さんは身体を起こして口を大きく開いて欠伸しながら応える。


「なんでって、そりゃ仕事だよ。仕事」


 苦笑する父さんを前に仕事をクビになって、そのことを母さんに打ち明けられずに仕事に行くふりをしてここで時間を潰しているのだろうかと真剣に悩む。


「父さん、お仕事辞めちゃったんなら早く母さんに言った方がいいよ」

「ひどい言われようだな」

「だってお仕事もしないで寝てるようにしか見えないよ」

「あー、まぁ、確かにそうだな。今はちょっとやることがなくてな」


 真剣な眼差しを向けると父さんは後ろ頭を掻く。


「ロラン、父さんの仕事気になるか?」

「うん、だってご飯食べられなくなっちゃうかもしれないし」

「予想では、こんな流れではなかったはずなんだがなぁ」


 父さんはがっくりと肩を落としてひとりごちた。


「どうしたの?」

「いや、こっちの話さ。まぁ、ここに来たってことはセーレのことが知りたいんだろう。そっちの子も」


 急に水を向けられたメルさんだったが動じることなく「はい」と短く応じた。どこか切羽詰まった様子の彼女に父さんは困ったような顔をする。父さんはメルさんの事情を知っているのか、その視線は彼女の左手に注がれていた。

 


「なんと言うか申し訳ないんだが、セーレのやつは4年前に旅立って以降行方知れずでな。今は霊媒師シャーマンとして俺があいつの言葉を伝えることが出来ないんだよ」

霊媒師シャーマン?」

「魔法が使えなくとも精霊の姿が視えるってだけの人間のことさ」


 神様は幻獣には実体はないと言っていたが、視認するのに霊的な素養か魔術師である必要あるらしい。魔法生物らしいからそういうこともあるのかもしれないと納得する。


「じゃあ、セーレ様はここにいないの」

「好奇心の塊だからな、あいつは。前々から世界中を見目回りたいとか言ってたから俺にここを任せて出てっちまったよ」


 脳裏にひとりの少女の姿が浮かぶ。


「……そうなんだ」

「一応、魔獣が寄って来ないようにセーレのやつが加護を残して行ってくれたから村は守られちゃいるんで問題はないんだがな」


 さっきから黙ったままのメルさんに目を向けると彼女はなんとも言えない顔をしていた。俺は父さんには聞こえないように彼女の耳元で囁く。


「メルさん。セーレ様、4年前にいなくなったらしいから魔創痕シジルが消えたのはメルさんが見捨てたれたからじゃないみたいだよ。いつか会えたら魔創痕シジルを戻してもらえるかも」


 それらしいことを告げてみたが、メルさんの心情は複雑そうで彼女は無言で俺の言葉にちいさく頷くばかりだった。


「ねぇ、父さん。セーレ様がどこに行くかとか聞いてたりしないの? お友達なんでしょ」


 父さんが随分とセーレと親しい様子だったのでそう尋ねてみると彼は苦笑した。


「悪いが、いくらロランでもそれは教えられないな。俺とあいつは友達なんでな。守らなきゃならない約束ってやつがあるのさ。でも、まぁ、いつか会うことになると思うぞ。セーレの霊媒師シャーマンやってる俺の息子なんだからな」

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