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012.辺境の少年ロラン(7)メルクルーリアの事情

 手袋で隠していた魔創痕シジルのない左手の甲を見せられ、俺は可能性のひとつとして念のために尋ねる。


「メルさん、まだ『栄光の手』ってやつやってないの?」

「3歳の時にやったよ」


 わざわざ見せて来たのだから儀式は既に済ませているだろうとは思ったが、即答だった。

 なので次に脳裏に浮かんだ『栄光の手』を執り行った紋章官の技量不足による失敗の可能性に関して問う。


「紋章官のひとが下手だったから魔創痕シジルが出来なかったの?」

「私に儀式をしてくれたメイザースさんは今までの紋章官の中でも1番だって言われてる人なんだから失敗なんてしてないよ。ちゃんと私の左手に魔創痕シジルを刻んでくださったもの」


 これも違うらしい。あと考えられる可能性はなんだろうかと考えを巡らせているとメルさんは手袋をはめ直し、ため息を吐く。


「4歳まではちゃんと私の左手に魔創痕シジルはあったの。でもセーレ様に挨拶するために、村に来た時になんでか消えちゃったの」

「母さんに引っ越して来たって言ってなかった?」

「本当は引っ越して来たんじゃなくて、お父様とお母様に屋敷に置いていかれたの。私がセーレ様からお力添えをいただくのに相応しくないから魔創痕シジルが消されちゃったみたいだから」


 幻獣が魔創痕シジルを消したとは思えない。ただでさえ魔術師の数を絞っているのに減らす意味なんてないし、たぶんなにか別の要因でそうなったんだろう。


「また『栄光の手』したらいいんじゃないの?」


 出来るならとっくにやっているだろうけど一応尋ねて話を引き出すようにして進める。


「消されたものをもう一度なんて精霊様に対して失礼だから無理に決まってるじゃない。『栄光の手』を受けられるの一生で一度だけなんだよ。それに出来たとしてもセーレ様とは別の精霊様の魔創痕シジルを刻み直してもらうなんて失礼なことするわけにもいかないし……それにあれすごい痛いんだからね。私は泣かなかったけど、ロランならきっと泣いてるよ」


 魔創痕シジルを刻むのに魔術を用いているらしいし、2度目の『栄光の手』を受けられないのはHPが上昇してしまっているのが原因かな。7日間かけて刻み込んでいるらしいから毎日HPが0になるような術式を施されていたとすると最終的に19くらいになってるはず。そこまでいくと紋章官のMPが足りずにHPを削り切れないのだろう。だから方便として魔創痕シジルが消えてしまっても再度刻むことが出来ない理由を精霊様に対する不敬として紋章官側がでっち上げているのかもしれない。

 などと考えていて、俺はメルさんの魔創痕シジルが消えてしまった原因に気付く。気付いたが、もしそれが本当に魔創痕シジルが消えてしまった理由だったとしたらとても頭を抱えたくなるような事実だった。


「ねぇ、メルさん。魔創痕シジルが消えちゃったのって2年前のいつくらいなの」

「雪が解けて暖かくなって来たくらいだったと思うけど」


 メルさんの答えを聞いた俺は頭が痛くなった。おそらく彼女の魔創痕シジルを消してしまったのは俺で間違いない。

 そのころ俺は修復魔術の実験をしていたし、効果が確認出来なくてMPを6000消費するようなこともやっていた。魔術規模は150mを超えていたから距離的に効果範囲内にメルさんの住んでる屋敷が入っていても不思議じゃない。


魔創痕シジルが消えちゃったのって家族でメルさんだけなの?」

「そうよ。セーレ様に見捨てられたのは家族で私だけ。だから私だけここに置いていかれたの。いつかセーレ様に許して貰って魔創痕シジルが戻るまでね」


 魔創痕シジルが魔術による傷として扱われるならメルさんの家族全員に同じ結果が出るはずだろうに違うのか。もしかして魔術による損傷でも古傷には修復魔術の効果は発揮されないのかな。それよりも困ったことになった。メルさんが家族から切り捨てられた原因は俺にあるので放置することは出来ない。なんとか責任を取るために手助けしたいけれど、よい解決策はなにも浮かばない。

 魔術が精霊様による恩恵だと信じるメルさんに俺が使っている属性魔術を教えるだけでは根本的な解決にはならない気がする。下手をすれば彼女の家族関係はさらに悪化してしまいそうですらある。


「昨日、メルさんがあんなところにいたのってセーレ様を探してたから?」


 なにか解決の糸口が見つからないかと昨日のメルさんの行動から推測して尋ねる。するとどうやら想像通りだったらしく、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いた。


「それくらいしか私に出来ることはないんだから仕方ないじゃない」

「セーレ様って、この辺りにいるの?」

「たぶんね。だからもしセーレ様にお会い出来たら直接お願いして魔創痕シジルを元に戻してもらうの。それが出来なかったときは……」


 メルさんは一度言葉を切って俺を真っ直ぐに見据えて告げる。


「ロラン、私に魔法を教えてくれないかな」

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